3.真実

「それで?」ジャニィは続きを促す。

「あー、そうだ、うちの村の若いもんがね。あまりの空腹に堪え兼ねて、ダムイの村の祭りで使う肉を全部盗んできちまったんだ。それをこっそり村の食庫に隠していたんだが、ある晩、ダムイの村のもんが取り返しにきたんだ。そこで倉庫の前で見張ってた、そのバカと喧嘩になっちまってね。挙句のはて、勢い余ってダムイの村のもんを殺しちまったんだよ」

「ほう、それが事故の話しの方かい?」

 ジャニィは素早くペンを走らせた。


「そうだ。でな。その殺しちまった若いもんの親父がな。どうか村のために内密にしてくれって言うもんだから、村人みんなで、死体をジェムズにしたんだ」

「死体をジェムズに?」ジャニィが聞き返す。

「あー、そうだ、ダムイの村のもんを殺しちまったやつだよ。ジェムズは」

「それにしても、みんなで隠すなんて、どうかしてるぞ」

 ジャニィは不快な気分になった。

「そんなこと言ってもあんた。背に腹は変えられないでしょ! たぶんあの肉が無けりゃ、この村のもんはみんな飢え死にだぁ。どうしようもなかったんだよ。あんたみたいな他所もんには分からないだろうな」

 村人が睨みつけてきた。

「わかったよ。それで」ジャニィは目をそらした。

「死体を幻導力でジェムズにしちまえば、ダムイの村のやつが探しに来ても騙せるでしょ。盗みに行ったジェムズは既に死んでるし、死体になっちまったダムイの村のもんもいねぇ。これで一件落着かと思ったよ。アイソダが無駄なことをするまではね」


「アイソダ、自殺したやつだな」ジャニィは手帳を見返しながら言った。

「そう、アイソダは、取り返しに来たダムイの村のもんを魔物と勘違いした。まあ、おれらも死体を見にきたアイソダに吹き込んだ節もあるがね。そしたら、アイソダのやつ、たまたま村に来た旅人を捕まえて、魔物退治を依頼しやがった」村人は少し悲しげだ。


「なぜ、アイソダに真実を言わなかった?」ジャニィは尋ねた。

「アイソダは正義感の強い青年だったからな。真実をいえば、肉を返しに行くと言うに決まっている。だから最初は秘密にしてたんだ」

「最初は?」

「そう、最初はね。アイソダは魔物退治を依頼した後、今度は死体を調べ始めた。そして気付いちまったんだ。死体がジェムズでないことに」

「ほう、いつかは気づくだろう」

「そうだな、この不作を乗り越えた後にでも話すつもりだったんだよ。でもな、死体がジェムズでないと分かったアイソダは、ジェムズの家に行っちまった。そしたら、ひょっこり顔をだしちまったんだよ、ジェムズが。あのバカ、少しの間は隠れている約束だったによぉ。そしたら、そこで真実を知っちまったアイソダは、今度は魔物退治に行かせた旅人を心配しだしてな。肉を盗まれた村に一人で行かせちまったって騒ぎだしてよ。後を追うって言って聞かないんだ」

「いいやつだな、アイソダは」

「そっ、そうだよ、いいやつだったんだよ。でもな、これでアイソダが旅人を追ってダムイの村に行っちまったらどうなる? 元も子もないだろ。肉が無けりゃ村人全員が飢え死にだ。我慢しろと説得したさ。そしたらな、次の日の朝だよ。井戸の水を汲みに来ないから心配して見に行ってみたら、首を吊って死んでたんだよ」


「そんなことでか?」ジャニィは驚いていた。

「そうだぁ、そんなことでだよ。正義感というか……、罪悪感というか……」

 その時のことを思い出したのか、村人は少し俯いている。

「本当に自殺か? おまえらが口封じで殺したんじゃないのか?」

 ジャニィは感が良い。

「なっ、何をバカな! 俺たちが殺すわけないでしょ!」

 ジャニィには、村人が明らかに動揺しているように見えた。


「まあいいさ、俺はただの書記官だからな。王子の足取りを記録するのが仕事だ。村のもめ事に首を突っ込む気はないよ」

 ジャニィがそう言うと、村人は少しホッとしたようだった。


「あっ! そうだよ。そのアイソダが首吊ってバタバタしてる時にだよ。帰って来たんだよ。血塗れのあいつが」

「血塗れのあいつ?」ジャニィは粗方察しがついた。

「そう、アイソダが魔物退治を依頼していた旅人だよ。びっくりしたよ。身体中が血塗れなんだからさ。事情を知ってる村人は気付いたね。こいつはダムイ村の人間を全員殺してきたんだなってね」

「こっちも酷い話しだな。で、その旅人はどうなった?」

「村人全員から恐れられ、慌てて馬を盗んで逃げていったよ」

「恐れられて? 嘘だろ? お前らが追い出したんじゃないのか? 隣村を壊滅させた恩人なのにさ」

 ジャニィは皮肉を込めて言った。

「恩人だなんて……」村人は小声だ。

「いや、そうだろ……、隣村の奴らがいなくなれば、大手を振って肉が食えるもんな。しかし、上手く利用したもんだ」

 ジャニィは少し呆れていた。

「利用だなんて人聞きが悪い! 結果的にそうなっただけでしょ。第一アイツが本当に隣村にいくかも分からねぇ、行ったとしても返り討ちに遭うかもしれねぇ、いぃや、そもそもアイツがこの村に来たのだって偶然でしょ……」

 村人は必至で弁解しているようだった。


「まあ、いいや。で、旅人の顔は覚えているか?」

「顔? あー、顔はよく覚えていないが、あんたくらいの背格好で金髪だったぞ」


 王子か?

 まさかな?

 ジャニィの脳裏に王子の顔がよぎった。

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