2.村人

 ジャニィの馬車はガタゴトと揺れる。

 王宮から支給されたものだが、内装はそれほど良くない。

「こんなに揺れたらお尻がもたないよなぁ」

 ジャニィは揺れるたびにピョンピョンと目の前で弾む少女に話かけた。

 少女は、少しだけ笑うと、じっと前を見て、そのまま馬車の揺れに身を任せ続けていた。

「ああ、そうだ、名前……、なんていうの?」

 ジャニィが何気なく問いかけると、少女は「アイソレシア」とポツリと答えた。

「そっか、アイソレシアか、いい名前だな」

 ジャニィは、アイソレシアの頭をポンポンと二回叩いた。


 ――


「イソダムの村っと。はい、これでも食べて、ちょっと待ってて」

 ジャニィは小さなお菓子をアイソレシアに手渡した。

「おいらにも、おくんなしぃ」御者が満面の笑みで手を伸ばしてきた。

「お前まで何言ってんだ? 子供じゃあるまいし」ジャニィは呆れ顔だ。

「へい、すんません」と微笑む御者が気持ち悪い。


 ジャニィは村の大通りを歩いて行った。


「村人発見!」ジャニィは石造りの家を越えたところで村人を発見した。

「すみません。ちょっといいですか?」

「なんだ? また旅人か?」村人は訝しんでいる。

「また? というと、最近も旅人が?」

 ジャニィはペンを取り出し取材を始めようとした。

「そうだよ、二ヶ月くらい前かな? 悪魔みたいな騎士が来たんだよ」

「悪魔みたいな騎士?」ジャニィはまた悪魔かと思った。

「そうだよ。その騎士が来て、アイソダが自殺した」

「自殺、それはまた」ペンを走らせながら続けるジャニィ。

「なんで自殺なんて?」

「事故だったんだよ。見張り番が死んだのは」と、村人は思い返すように言った。

「今度は事故かい? 自殺じゃなかったの?」

 ジャニィ困惑。

「最初から聞かせてもらっていいかい?」

「そうだな、この夏の日照りが凄かったのは知ってるか?」

「まあね」

「この辺の村は、その日照りで作物がやられちまってね。村人みんなが困窮してたんだ。そこで村の若いもんが一人バカをやってね。川向こうの隣村、あー、おまえさん、ダムイの村って知ってるか?」

「ダムイの村、今朝方寄ってきたところだよ。悪魔の騎士に壊滅させられたとか」

「悪魔の騎士、やっぱアイツは悪魔だったんかぁ、おー怖っ」

 村人は自分自身を抱きかかえ震え上がるそぶりをした。

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