普通の日々

「ジリリリリッ!、ジリリリリッ!」


目覚まし時計が鳴っている。もう朝だ。昨日の夜は、友達と最近発売された「モンスターファイター」をやっていて、寝るのが遅くなった。自業自得かもしれないが、ゲームが面白いのが悪いと思う。


「てる!起きたー?」


一階でお母さんが呼んでいる。僕がいつも二度寝することを知っているお母さんは、目覚まし時計が鳴ると声をかけてくる。僕のことを思ってくれていることは嬉しかった。


「起きてるよー!」


ダルい体を起こして、僕は洗面所に向かった。自分の寝起きの顔はなんともヒドイものだ。みんなも一度は思ったことがあるだろう。夜更かしをした朝の顔なんて、なおさらだ。顔洗って、直りそうにない寝癖にくしを通して、リビングに向かった。


「おはよう、てる。」


「おはよう。」


リビングに入ると、お母さんは鼻歌を歌いながら、僕の朝ごはんを食卓に並べていた。席に着くと、流れているニュース番組に目をやって、ボーッとしていた。


ここで、僕の家族について紹介しよう。3人家族の長男である僕は中学二年生。クラスの中では、どちらかというと隠キャのグループに属する。お父さんは営業をしていて、今は出張に行っている。お母さんは音楽一家の末っ子で、オーケストラの演奏会で知り合ったお父さんと結婚して、僕を産んだ。そして、ペットの柴犬の「かんた」がいる。かんたは、僕が10才の時にこの家に来た。


お母さんの料理は美味しい。お世辞ではない、本当に美味しいんだよな。朝食を取ると、僕は5分で学校へ行く準備をする。もちろん、いつものことなので、慣れたものだ。


「ガチャ」

「行って来まーす。」


「行ってらっしゃい。」


僕の夜更かしした体に、太陽の容赦ない光が注ぎこんでくる。眩しかった。結局、寝癖は直らず、アホ毛が何本か立ってる。学校まではそう遠くないけど、坂道があるから、結構疲れる。下校は楽なんだけどね。


「おい、てる!おはよう!」


「やまと!おはよう!」


このやまとってのが、夜中ゲームを一緒にやっていた友達だ。僕が眠いのもコイツのせいだ。


「お前眠くないの?」


やまとのあまりの元気さに、自然と聞いてしまった。


「あんまりかな」


夜更かししても、大丈夫な人ってよくいるよね。コイツもその一人だ。きっと。


クラスに入ると僕は、一人でずっと本を読んでる。別に、皆とワイワイすることが嫌いなわけじゃない。でも、なんか一人の方が落ち着く。もちろん、打ち上げに誘われたら行くし、昼休みにサッカーに誘われたら行く。でも、それ以外の時はだいたい一人。勉強は出来る方だと思う。たぶん。隣の子に教えてあげることだってあるし、テストでも良い点数は、毎回取ってる。学校生活は辛くはないけど、別に楽しいものでもなかった。


「キーン、コーン、カーン、コーン」


六時間目のチャイムが鳴った。僕は部活動やクラブには所属していなかった(いわゆる帰宅部ってヤツ)。だから、学校が終わればすぐに家に帰って、ゲームだ。もちろん宿題を終わらせてからね。前に、宿題をやらずにゲームをしていて、お母さんにゲーム機を売られたことがあった。「取り上げ」じゃなくて「売る」というお母さんの選択には、さすがにビビった。それ以来、ゲームの前に宿題をするようにしている。


「ただいまー!」


「お帰りー」


僕が帰ると、お母さんはいつも夕飯の支度をしてまっている。僕は荷物をおいて、冷蔵庫の中のプリンを取った。いつも冷蔵庫の中には、何かしらの僕のおやつが入っている。当たりの時はアイスが入っているが、はずれのときは、お母さんがお隣さんから貰う変なお菓子の時だ。でも今日はプリンなので、はずれではない。むしろ、当たりだ。僕は学校から帰るとまず、おやつを食べる。中学生にもなって「おやつ」とか子どもだな。と思うかもしれない。しかし、脳に必要な糖分を補給するためには、欠かせない時間だ。特に学校で頭を使っている僕にはね。そして、食べ終わったら、かんたを散歩に連れていく。これが帰宅後のルーティーン。


「かんたー行くよー!」


「ワンッワンッ」


かんたは散歩が大好きだ。僕がおやつを食べ終わるとすぐに、玄関の前で待っている。僕たちはいつも近所の公園まで散歩している。僕が小さいときには、よくお父さんと一緒に遊びに来ていた公園だ。近所と言っても少し遠い。最近は、公園までの道でかんたと話すのが好きだ。話すといっても、僕の一方通行な独り言だけどね。


「かんたー知ってる?世界は、今、どんどん変わってるんだよ。ちょっと前までは、大陸を行き来するのにも大変だったのに、今では飛行機なんてものがあってね、いつでも外国へいけるんだ。」


「ワンッ」


「そうそう。今朝もニュースでやってたけど、新たに森を開拓して、医療関係の研究所をつくる予定なんだって。すごいよね!どんどん僕たちの暮らしが便利になっているし、技術も進歩し続けてる。あ、そうだ!今日学校でね、やまとがさぁ…」


家に帰ると、夕ご飯ができていた。今日のメニューは、僕の大好きなカレーライスだった。獣のようにカレーライスに食いつくと、お母さんは、行儀が悪いからやめなさいと笑いながら僕に言った。


僕は、お風呂とめんどくさい宿題をさっさと終わらせて、やまとと一緒に「モンスターファイター」の続きを始めた。昨日の夜どうしても倒せなかったモンスターがいて、今日は学校でそいつを倒す作戦を考えた。今日は狩ってやる………。


「てるー、お母さん先に寝るからねー」


お母さんの声だ。もうそんな時間?時計を見ると、12時をとっくにまわっていた。さすがに2日続けて夜更かしは良くない。体を壊すかもしれないし、お肌にも良くない。ニキビは睡眠不足が原因

と聞いたこともあるし。

今日はもう寝よう。寝る支度を済ませベッドに入った。疲れていたせいか、すぐに眠りについた。


しばらくすると…


「ガチャ」


ん?僕は、布団の中で目を覚ました。誰かが部屋に入って来た。それもこんな時間に。お母さんではない。なぜなら、いつも入るときにはノックをするからだ。じゃあ、誰だ?僕は薄目にして、そーっとドアの方を見た。暗くてよく見えないが、僕と同じくらいの背丈の少年がいる。バクバク鳴る心臓を落ち着かせて、僕は思いきって部屋の電気をつけた。


「うわっ!」


その少年は驚いたのか転んでしまった。でも、驚いたのは僕もだ。部屋が明るくなると顔が見えた。僕は、言葉を失った。目の前に転んでいるのは、人間の少年ではなかった。

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