第18話 いやホント無理


「……」


 マルタに道案内され、俺たちは広い廊下を歩いている。

 修練場に向かっている途中だ。

 ユリカはいつも通り楽しそうに、イズミとベルンは変わらない感じで、コルマは物珍しい城内をキョロキョロと見ながら歩いている。

 黒騎士はもうスルーで良いだろ。


 俺はどうかっていうと……非常に気分が重い。

 どれくらい重いかっていうと、言い渡された任務を失敗してド叱られる事が確定した時の三倍くらい重い。


「……はぁ」


 非常に不本意だが、マルタと再戦することとなった。

 あろうことか化け物爺さんも一緒に。


 いや無理だろ。無茶振りにも程がある。

 よし。先頭の方に早歩きで向かって、マルタに誠意ある抗議をしてみよう。

 可能な限りヒソヒソ声で。


「なぁおい、せっかく仲間になったんだからもう戦う必要なんてないだろ?」

「何を心配しているのだマンダ殿? 安心しろ、貴殿を怪我させないように優しく加減してやるから」

「あったりめぇだ馬鹿野郎。こちとらお前らと違ってひ弱い魔物なんだ。それでも明らかな地雷と戦いたくなんかねぇんだよ」

「……貴殿、誇りとか無いのか」


 マルタは呆れた様な口調で俺に話してくる。

 うっせい、誇りで生き残れるかよ。そんなもん塵とかと一緒に掃除して捨ててやったわ。

 ホコリだけにな! がっはっはっは!!

 ……はぁ、落ち着け俺。


「そもそも地雷とはなんだ? 貴殿はたまに理解できない言葉を使ってくるが、魔王軍で使われている言語なのか?」

「よく分かんねぇよ、俺だってポンポン頭の中に出てくる言葉を使ってるだけだ。感覚で大体分かるだろ?」

「……まぁ、明らかに良くないモノであることは分かるが」


 そうだろ、なんとなくで分かればとりあえずソレで良いんだよ。

 って、そんなことはどうでも良いんだっての!


「とにかく、俺はお前やイズミの爺さんとはもう戦いたくねぇんだよ」

「そうは言ってもだな。貴殿に関してはハートレイス王のご指名でもあるのだ。魔物である貴殿の力を見たいとのご希望だろう」

「なんて迷惑な……!」


 どんなツラしてやがんだハートレイスの王ってヤツは!?

 きっとひん曲がったような汚い顔をしてるに違いない。でなきゃこんなパワー系ガチ鎧と切り捨て御免な頭のおかしい爺さんの相手をさせるかよ!


「ぐぎぎ……でもそれなら、お前達が相手じゃなくても良いだろ」

「いや、相対する戦力は同じでなくてはならない」

「いやだから、それなら前提が可笑しいって言ってんだよ……!」


 極力小声で話しているが、ついつい声に力がこもってしまう。

 それもこれも無茶な事を言うマルタとハートレイス王のせいだ。


 あ、そうだ良い事思いついたぞ!


「マルタ、コルマの奴強化の儀はやってないんじゃないか? いくらなんでもレベルが低いままで戦うのはどうかと思うが……?」

「あぁ、心配いらん。特例としてコルマ殿には聖女の加護が掛けられる。多少の差があるかもしれんが、数値的には同じになるそうだ。」


 ……あぁ、そうっスか。

 その数値ってのがなんなのか甚だ疑問だが、これじゃレベルも言い訳にはできん。

 完全な八方塞がり。これじゃ逃げ口考えてるコッチがバカみたいだ。


「マンダ殿……既にマルタ殿と楽しそうに話をされて」

「おやおやぁ? コルマちゃん的には複雑な気持ちなのかなぁ?」

「ぬっ!? な、何を仰いますやらユリカ殿は……!」


 ほら見ろ、コルマにも変な目で見られてしまった。

 あとユリカ、それ以上コルマを煽るなよ。

 あぁくそ、盟友になっても気苦労が絶えねぇ……!


「まぁ、こうなっては観念したまえよ。もし貴殿が強引に試合を拒否したら、コルマ殿だけが私たちの相手をすることになる。そうなるのは、貴殿の望みではないだろう?」

「このッ……」


 身もふたもない事を言ってきやがるなコイツは!

 そんな事になったらどうなるか、想像に難くないだろう。

 ちくしょう、首を縦に振る以外に選択肢が無い。


「ちっ……」


 歩きながらマルタから視線を逸らし、思わず舌打ちをしてしまう。

 これで空気が悪くなったらお前のせいだかんな。

 まぁ俺の悪態一つで何か変わるような連中とも思えないから、これくらいは問題ないだろうけど。


 はぁ、どうやら試合は避けられないようだ。それならやる事は一つ。

 出来る範囲での情報収集だ。最低限聞くべきことは聞いておかないと。

 何も知らないで完敗する事だけは避けたい。


「そういやよ、今だから聞くけどお前のあの光はなんだったんだ?」

「光……あぁ、フェイタル・レイのことか。あれこそ私が聖女であるユリカ殿より賜った奥義。ゲージの半分を使って発動する殲滅用の技だ」


 ゲージ、聞き覚えがある名前だ。

 そう、確かベルンも言ってたような……よく覚えてない。

 何か大技を使う時のトリガーみたいな物なのだろうが……どんなものなんだ?

 想像がつかん。


「おい、俺やコルマにもそのゲージってのはあるのかよ」

「む、貴殿もしや何も聞かされてないのか?」

「逆に聞くけど、説明した時があったか? こちとらお前らに呼ばれた後無理矢理スライム食わされて、即草原行きだったんだが」

「……あぁ、そういえば」


 マルタは何か気まずい顔をして、俺から視線を逸らして顎に手を当てた。

 何か考え事をしているようである。


 いやお前完全に忘れてたな? おい、ちゃんと俺の顔を見ろよ。

 この落とし前どうつける。

 そのゲージってヤツ、絶対に盟友になった時に知るべき重要なサムシングだろ。

 

「まぁいい。試合前に聞けばセーフ。何も問題はなかろう」

「問題ありまくりだ。同じ武器を渡されても扱った時期に差があれば実力も違ってくる。当然の事だろうが」

「はっはっはっ」


 笑ってごまかすな笑って。

 お前最初見た時は厳格そうだったのにそんなキャラなのかよ。

 なんだ、なんか一気に不安になってきたぞ。


 レベルの概念だけで驚いてたからあんまり考えてなかったけど、実はもっと重要なこともあったりするんじゃないか?

 そういえば、戦う寸前まで無かった武器がいきなり現れてたのも気になる。

 黒騎士が俺を守ったってのも、もしかしたら何か別の力なのかもしれない。

 いかん、考えれば考えるほど気になることがドンドン増えてくる……!


「まぁ、教えられていないことは追々説明していくとしよう。まずは……そう、ゲージの事だけでも教えておかないとな。流石に公平ではない」

「いや全部教えられんと気分的には全然公平じゃないんだが? ぶっちぎりで天秤傾いてんだが?」

「そう言うな、もう時間が無い。 いいか、ゲージとは奥義を使うための特別な力を溜めこむ壺のようなモノだ」


 つぼぉ……?

 ゲージそのものの説明はなんとなく分かったが、そんなもん一体どこにあるってんだ?


 草原での戦いの時、確かベルンは戦いながらゲージについて言っていた。

 つまりあの時、あの場所でゲージの中身は確認できるというワケだ。

 でなきゃ奥義が不発になってしまう可能性もある。

 強力なのは実際に見たから分かるが、不発だった場合を考えたら怖くて使うことも出来ない。


 だがヤツがゲージみたいな何かを持っていたようには見えなかった。もちろん他の連中も。

 どうやって確認を、そもそもどこに持っていたんだ?


「そのゲージってのはどこにあんだよ」

「うむ、頭の中で円錐状の細長い壺を思い浮かべてみろ。脳裏の片隅にそれっぽいモノがある筈だ」

「はぁ? んなもんあるワケが……」


 あったわ。なにこれ、こわっ。

 確かに俺の脳裏には、見覚えのない壺っぽい何かがあった。

 え、これが噂のゲージってやつか?


 周りに大層な装飾がされているが……なるほど、横が透明な造りになっている。

 あぁ、なるほど。これなら横から見て、どれくらいゲージに力が溜まっているかをいつでも確認できる。

 自信満々に技を発動できたのはこういうことだったのか。


 ふんふん、なるほどなぁ……ってチョイ待て。

 俺の頭の中どうなっちゃってるワケ?

 誰にこんな魔改造されちゃったのよ。女神?

 え、メチャクチャ怖いんだけど。頭を振っても他の事を考えても全く消えないし。

他にも変な所いじられたりしてないだろうな。


 い、いやとりあえず今はいい。とにかく情報を聞かないと。


「そのゲージは0から100まで数字があり、いつもは0の状態だ。敵に攻撃を当てたり、逆に攻撃を受けたりすると力が溜まっていく」

「てことは最大値が100なのか」

「その通り、呑み込みが早いな。奥義はこのゲージを50消費して発動させる。最大まで溜まっていても、連続で使えるのは2回までということだ」


 ほぉん、なるほど。

 強力な力にはそれなりの制限もあるということか。

 

 となると、知りたいのは一回の攻撃やダメージでどれくらい溜まるのかだな。

 そこが分かれば上手く調整できるし、戦の時も有利に事を運ぶことが出来る。

 十分どころか二十分、三十分に強力な切り札だ。


「一回の攻撃で溜まる量はどんなモンなんだ? あとダメージを受けた時は?」

「分からん」

「おい」

「いやこれが本当に分からんのだ。攻撃に手応えを感じるとゲージも多く溜まり、軽く感じると溜まりも悪い。逆の場合も然りだ」


 えぇ……また面倒な。ていうか矛盾してないか?

 上手いことダメージを与えられない敵にこそ奥義は使われるべきなのに、マルタの話の通りならゲージがあんまり溜まらないのなら奥義までの道のりが遠すぎる。


「んー……」

「はは、まぁ詳しくは戦いながら知ると良い。私もそうしようと割り切った。さぁ、修練場に着いたぞ」


 そう言われ、ハッと前の方を見る。

 気付けば俺たちは、大きな扉の前に立っていた。

 風が通るのが感じる。恐らく外に繋がっているのだろう。


「話はここまで。では、このままついて来てくれ」


 マルタはそのまま扉を開け、外の方へと歩いて行った。


 まぁ確かに、ゲージの調整に関しては戦いながら覚えていくしかないな。

 そう考えると、今からの試合はけっこう有意義かもしれない。


 ……なんか、ちょっとだけやる気が出てきた。

 どうせ逃げれないんだし、試せることは色々やってみよう。

 そんなことを思いながら、俺は皆と一緒に修練場へ歩いて行った。

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