第19話 試合の前に
修練場は思ったよりも広かった。
無造作に置かれた刃のない武器。
敵を模した木製人形。
戦場を模したであろう砂の混じった土の地面。
俺も知っている、典型的な兵士を鍛える場所だ。
「王はしばらく経った後でお越しになる。それまでは、組ごとに個室で待機だ。ユリカ殿と他の者達は私と共に遠くから見学だ」
そう言われた俺とコルマは、修練場の隅にある一室に入った。
机と椅子、武器や防具が置かれた簡素な部屋である。
奥の方を見ると、傷を負った兵士の手当てをするであろう治療室が見えた。
「さて、どうやって攻めるべきか……」
相手はどっちも盟友になった化け物。
俺たちも一応盟友だが、如何せん盟友としての実戦経験が少ない。
何より、盟友になる前からも実力に差がありすぎる。
イズミの爺さんは当たり前だが、マルタの方も相当の力がある。
でなきゃあんなクソ重そうな鎧を平気な顔して着てられるかよ。
バカ正直に挑んだら多分負ける。一切の容赦なく粉微塵だ。
小手先でも手札を多く、策を考えていかないと。
「ゲージに関しては仕方ないが、何か準備は出来るだろ。とりあえず転移魔法はいつでも発動出来るようにしておくか。修練場くらいなら簡単で済むな」
左腕をまくり、そこに記された魔法陣を見る。
転移魔法は大体複雑な構造をしているが、俺ことアーリマン族が使う転移魔法は簡単なモンだ。
種族特有の体に描かれた魔法陣に一定量の魔力を込めれば、すぐに発動することが出来る。
なんでこんな魔法陣があるのかは分からん。不思議に思った事もあったが、悪魔族にある尻尾や竜族の翼みたいに在って当たり前のモノだと考えるようにした。
アーリマンの個体が俺しかいないんだから調べようがない。
調べようがないのなら、受け入れるしかないだろう。
それに欠点がないワケじゃない。むしろ欠点だらけだ。
転移先は正確じゃないし、魔力を込める時には身動きどころか会話すら出来ない。
おまけに転移の距離には限りがあるし、遠ければ遠いほど込める魔力の量は多くなる。
そして一回の転移で飛ばせるのは一体のみ。
なんかもう、自分で説明してて辛いわ。
ハートレイス城侵攻の時、マルタ相手に転移魔法が出来なかった理由はこれだ。
あの場でクソ真面目に魔力を込めていたら、あっという間に殺されていただろう。
まぁ込めてなくてもあっという間に殺されてしまったワケだけど。
とにかく、転移魔法は用意しとかないとそう簡単に使えないのだ。
というワケで、さっそく準備開始。
幸い修練場は広いが限りがある。あのくらいの広さなら20分もあれば準備できるだろう。
「……」
「い、いよいよ盟友となって初の戦闘であります! 緊張するであります!」
「……」
「アーリマン殿、我等はどうやって攻めていくでありますか!?」
「……」
「私はこの際、全力で真っ向勝負すべきかと思うであります! あの刀狂いとまで呼ばれた剣聖イズミ殿と戦えるとは、同じ剣を使うモノとして幸せの極みでありま――」
「あ゛あ゛ッ!! うるせぇッ!!」
コイツといると本当に集中出来ねぇ!
何なのコイツ、また真っ向勝負とか言ってやがるし!
「みゃっ!? も、申し訳ないであります!」
「コルマよく聞け、お前の気持ちはよく分かる。俺も出来ればお前の好きに戦わせてやりたい。だがな、言ってみりゃこの試合は人間の王が俺たちの実力を測るための試合だ。中途半端な事したらそれこそ馬鹿にされるぞ」
「な、なるほど……」
「それに相手二人はお前も分かる通りとんでもない実力者だ。ハッキリ言って勝ち目なんざパンくず程も無いだろうさ。そうなりゃ少しでも勝つための準備が必要な事、分かってくれるよな?」
懇切丁寧に説明すると、コルマは首をブンブン振って了承してくれた。
脅したようで悪い気持ちもあるが、少しずつコルマの癖も直していかないといけない。
これからはアーリマン部隊としてではなく、盟友として戦うんだからな。
勝手な行動はなるべくとらないようにさせないと。
「とりあえず、俺は転移の準備をする。お前はそうだな、準備が出来たらゲージの説明からしていくか」
「ゲージ、でありますか?」
「あぁ、さっきマルタから聞いたとんでもなヤツだ。あと、今から俺が言うことをやっていてくれ」
俺はそう言うとコルマに近づき、対マルタ及びイズミの戦略を練っていった。
対決の時は近い。
ていうかもうすぐだ、正直怖い。
でもまぁ、出来ることはしないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます