第17話 とても美味い
「ま、マンダ殿! このソーセージは絶品であります!」
「……あぁ、そうだな」
「むぐっ!? マンダ殿、このスープはとても美味なうえ温かいであります!」
「……あぁ」
「んぐ……がふがふ。マンダ殿、このパンはフワフワでむぎゅ!?」
「いいから、黙って食え」
食事を始めて数秒後。
そこには一口ごとの感想を細かく言ってくるコルマの姿があった。
うるさすぎるから、とりあえずパンを口に押し込んでおく。
いや分かるぞ。
ソーセージやベーコンとかいう加工された肉。甘いスープに野菜を綺麗に盛り付けたサラダ。そして温かく、柔らかいパン。おまけに卵まで付いている。
どれもこれも、魔王軍では食べれなかった代物ばかりだ。
感動しないワケがない。
今まで食べてきたモノといえば、獣の生肉とかそこらへんに生えていた雑草ばかりだったからな。
以前人間の真似をして焼いた肉を食べた時には、腰が抜けそうな程美味くて驚いたものだ。
肉を焼いただけであの美味さである。それなら今目の前にある料理はどれだけ美味いのか。
俺自身平気な顔をしていたが、想像が出来ない程に楽しみではあった。
結果どうだったか?
コルマを見ればわかるだろ。
「ふぇぅ……おいしいでありま……ぁぁ……」
恍惚とした表情をして、幸せの絶頂を感じているようだ。
こんなコルマは始めて見たかもしれない。
はぁ、ただの朝飯でここまで感動するとは。
友好的になるのは良い事だが、人間共に舐められても知らねぇぞ?
まぁいい。とりあえず俺もスープを一口。
「うんめっ」
ヤバい、身に染みる。
正直に言うと、食事なんて生きるために仕方なく行うモノだと思っていた。
だってそうだろう。飯を食う時なんて牙が使えないし、下手すれば両手も使えない。
いつ殺し合いになるか分からない魔物の世界じゃ、そんな状態になるのは致命的と言っても過言ではないだろう。
だからこそ、食事ってのは俺にとって忌々しい行為でしかなかった。
「むぐ……うんめっ」
だが今はどうだ?
攻められる心配はなく、安心して食事ができる。
加えて、出された飯は料理された美味いモノばかり。
これで楽しまないヤツはいないだろう。
「ん、この卵ヤケに味が濃いな」
「あはは、ただの目玉焼きだけど塩がかけてあるんだよ」
塩、聞いたことがある。人間が好んで使う調味料の一つだ。
ソレを使うだけで味が何倍も良くなるという。
は、初めて食ったが噂以上の味だ。
なんて形容したら良いか分からないが、とにかく美味いという事だけは分かる。
肉から出てくる汁も、野菜の渋みも鬱陶しくない。
逆に味を強調させていて、無くてはならないモノになっている。
くそう、他の部下共にも食わせてやりたかった……!
「がふがふがふがふ」
「むぐむぐむぐむぐ」
「あはは、2人とも夢中でがっついてる。ね、ベルンちゃんもちょっとはご飯食べたら?」
「んぐ……物好き。お菓子の方がおいしいのに」
うっせい。俺からしてみれば、こんな美味いモンが目の前にあるのに菓子しか食わないベルンの方が物好きだっての。
他の連中も紅茶やら何やらを各々楽しんでるんだ。
俺たちも入るだけ体に入れてやる。
「なぁおい。さっきから思ってたんだが、なんでこのスープもこんなに味が濃いんだ? それに、ヤケにドロドロしている」
「ドロドロって、トロみがあるって言うんだよ。それにそのスープは調味料と一緒にとうもろこしが使われてるの」
「とうもろこし……コーンか?」
「お、ビンゴ。良く知ってたね」
「どっかで聞いたことがあんだよ。とにかくうめぇ」
いやもう美味すぎる。スプーンとかちゃちなモノ使ってる場合じゃないわ。
皿を掴んで、そのまま傾けて一気にゴクゴク飲み干していく。
ヤバい。口に入った時から喉を通るまで。ていうか喉を通った後も温かさが残って幸せな気分になる。
これが料理された食べ物なのか。
「ぐ……あ゛ー美味い。おい料理人、次を早くくれよ」
「も、もう無いですよ盟友殿。多めに作っていたつもりなのですが、もうほとんど御二方が食べつくしてしまって」
「んあ?」
そう言われて、ふと机の近くを見てみる。
山になった空の皿。もう何人分あるのか数えるのも億劫なほどに。
そして隣には、リスみたいに頬を膨らませたコルマの姿が。
「むきゅむきゅむきゅ」
「……あぁ、悪い。食いすぎたな」
「い、いえいえ! 料理人として、あそこまで嬉しそうに食べていただけるのは喜ばしい限りで。えぇホントに!」
そう言ってくれる料理人だが、口が引きつっているのは確かだ。
特段腹が減っていたからかなり食ってしまったが、まぁそれでも反省しないとな。
「コルマ、そろそろお開きだ。見ろ、料理人がドン引きしてるぞ」
「むぐっ!? ぐぐ……ぷはぁ!」
いや飲み込むならちゃんと噛めって。
ほとんど原型のまま飲んだろお前。
「失礼いたしました皆さん! 大変美味しい料理の数々でありました!」
「はは、ただの残り物でしたが。そこまで喜んでいただけて何よりです……これからはもっと量を増やさないと」
料理人たちはコルマの礼を聞くと、大変お疲れな様子で厨房へと戻っていった。
アイツらには悪いが、今回ばかりは許して欲しい。
「はぁー美味しかったでありますぅ」
「あぁ……ていうかお前、途中から飯以外目に入ってなかったもんな」
未だ幸せそうな顔をするコルマを見て、俺もこんな感じだったのかと複雑な気持ちになってしまう。
こりゃユリカ達に笑われても文句は言えねぇわな。
「……おや、食事は終えたかな?」
そんな俺たちに話しかけてきたのはマルタであった。
ヤツは紅茶を飲み干すと読んでいた本を閉じ、その場に置いて俺たちの方を見てくる。
「あぁ、待たせて悪かったな。それで、何の用だったんだ?」
「なに、そこまで難しいことではない。ただハートレイス王が、貴殿ら盟友の力を確かめたいと言ってな」
あぁ、なるほど。
つまりは王サマの目の前で誰かと戦え、と。
「場所は修練場。本日は兵たちの修練は無く、変わりに私たちが模擬演技を行うこととなる」
「ほぉん、練習試合みたいなもんか。よく分かった、それで誰とやればいいんだ? 確か戦える状態の兵は多くないって聞いたが?」
「あぁ、その件については心配しなくていい。戦うのは我々だ」
「……は?」
「正確には、私とイズミ殿。そしてマンダ殿とコルマ殿が組となり、試合を行う。ベルン殿と黒騎士殿は見学だな」
「むぐむぐ……構わない」
「……」
は、え?
つまりなんだ。俺はもう一回この鎧の化け物と戦うってのか?
これまた化け物の刀狂いとセットで?
うそん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます