第16話 飯をくれるのか
「マンダーマンダーマンダー」
「……もういい、分かったからやめろ」
マンダを連呼するユリカを尻目に、やむなく了承することにした。
全員がニヤニヤと笑うなか、俺だけ床にうなだれている。
変に叫んだから喉が痛い。ていうか汗も止まらない。
盟友になることは決めたけど、まさかここまで一気に踏み込まれるとは思わなかった。
くそ、恥ずかしい……!
このままじゃ自分自身気まずくて仕方が無かったから、話の流れを無理やり変えるとしよう。
「ていうか、白鎧!」
「ん? 私の名はマルタだが……まだその呼び方をするのか?」
「……マルタ、お前ココに来たのは理由があるんじゃないのかよ」
「フフ……あぁそうだ、つい忘れていた」
こ、コイツ……!
明らかにわざと乗っかりやがったろ。
何がフフ、だ。完全に俺を馬鹿にしやがって。
「皆、食事の方は済んでいるかな?」
「あー……マンダ達は今来たところだからまだだね」
「ふむ、では二人の食事を先にしよう。後で空腹を言い訳にされても敵わんからな」
そんなことを言って、しろよろ……マルタは手をパンと叩いて鳴らす。
もっとも、相変わらず籠手もはめたままだからパンというよりカンて感じだが。
音が響くと同時に、食堂の奥から何人か人間がやってくる。
強化の儀の時にも出てきた奴らだ。
「これはこれはマルタ様、何かお食事でも?」
「私は先に済ませた。彼らに食事を与えてやってくれ」
「かしこまりました」
マルタの頼みに即返事をすると、人間たちは奥に戻っていった。
嫌に呑み込みが早いなアイツら。
「おいおい、飯をくれるのはありがたいけどよ。魔物相手にここまで簡単に了承して良いのか?」
「あぁ、貴殿らが盟友となったことは既に周知されている。納得できない者も何人かいるだろうが……大体とは友好的な関係を築けるだろう」
「へぇ……そこまで変わるもんなのか」
「当たり前だろう。盟友とは聖女に並び人間側の切り札だ。丁重に扱わぬ道理はないさ。それに、魔物が盟友になる前例は存在するからな」
さも当然のようにマルタはそう言ってくる。
確かに人間に寝返った魔物は存在するが、現にこうやって体験すると妙にむずかゆく感じるのも事実だ。
「……」
「なんじゃなんじゃ、まだ馴れんか? 気持ちは分からんでもないが、そろそろ受け入れた方が身のためじゃぞい。そら、そこの娘っ子なんぞもう兵士達とも挨拶出来ておろう」
「い、イズミ殿! 娘っ子は止めて欲しいであります!」
「カッカッカッ!」
コルマの反論を全く気にせず、イズミは愉快そうに笑うのみ。
おかげでコルマは少し涙目になっている。
しかしまぁ、イズミの言うことも事実だ。
これから人間の世界で生きていくんだから、いつもでも馴れないままなのは良くない。
多少きつくても、コッチから話すようにしないとな。
と思いながらも、この城に召喚されたばかりの時に見た若い兵士の恨み顔を思い出す。
あの顔を思い出すと、コイツらみたいに気楽に考えられない。
あぁ、やっぱ前途多難な気がする。
「失礼いたします! 盟友マンダ殿、コルマ殿のお食事をお持ちいたしました!」
そんなことを考えていると、奥の方から何人か料理人が入ってきた。
ガラガラと動かしてくる台の上には、いくつもの料理が乗せられていた。
簡単なモノだが、どれもこれも魔王軍の下っ端が食えない飯ばかりである。
なんか当たり前のようにマンダと呼ばれた気がするがスルー。
「さ、何はともあれまずはご飯だよ! コルマちゃんも、ココに来てから何も食べてないじゃん!」
「ん、そうなのかコルマ?」
「はいっ、最初の食事はマンダ殿と食べたいと思っていたであります!」
そう言って輝く笑顔を向けてくるコルマ。
いやもうホント、俺の中に邪悪な何かがあるのなら一瞬で浄化されるほどの笑顔だった。
いかん、浄化される。
「ふ、ふぐぅ……!」
「あやっ!? どうされましたマンダ殿!?」
「やめろ、今俺に近づくな……!」
「傷ついてしまうでありますッ!?」
俺は片手で顔を覆い、もう片方の手でコルマを遠ざけようとした。
しかしコルマは俺を心配してるのか、かえって俺に近づいてくる始末。
ある種の地獄だ。
「はいはーい、バカやってないでさっさと座ってね」
「おごっ!?」
「みぎゃっ!?」
後ろから椅子を勢いよく押され、俺とコルマは情けない声を上げて強制的に着席することとなった。
膝と尻が痛い。こん棒で叩きつけられたみたいだ。
押してきた二人は探るまでも無い。多分マルタと黒騎士だろ。
「ま、マンダ殿……お尻が痛いであります……」
「我慢しろ、俺も痛いんだよ」
「まったく、さっさと席に着かないからだ。早く食事を済ませろ」
「……」
一応後ろを見てみると、やはり立っていたのはマルタと黒騎士。
マルタがコルマの椅子を、そして黒騎士が俺の椅子を思いっクソ強く押したようだった。
「チッ、まぁいい。とりあえず食うぞ、コルマ」
「が、合点承知……」
椅子を押し付ける以外に方法はあったと思うが、いつまでも座らなかったのは俺たちだ。
妙に腹が立つが、今はさっさと飯を食おう。
食事をくれるんだから、ありがたく貰わない手はない。
そう思いながら、俺とコルマは目の前の飯に手を付けていった。
……フォークってどう持つんだっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます