第15話 打ち解けるのは早い
「うん、こちらこそ。これからよろしくね、マンダにコルマちゃん!」
ニカッと笑い、聖女は俺たちにそう言ってきた。
相変わらず緊張感のない笑顔だ。変に緊張したコッチが馬鹿らしく無いくらいに。
だがまぁ、今思えば悪くないと思う。
このくらい緩い方が、生活しやすくて良い。
「さて、マンダ達も自己紹介してくれたわけだし。私たちもお返ししないとね。皆きりーつ!」
聖女が立ち上がり手をパンッと叩くと、ジジイ達が一斉に立ち上がった。
「まず最初に、私の名前はユリカ・キリバヤシ。ユリカって呼んでね!」
聖女ユリカはえへんと胸を張り、真っ先に名乗りを上げてきた。
異世界から呼ばれる聖女は独特な名前をしていると聞いたことがあるが、コイツも例外ではなかったようだ。
「次はワシじゃな。東の国より参ったイズミじゃ。刀狂いと言った方が分かり易いかの?」
「……あぁ、よく知ってるよ」
刀狂いのイズミはそこらの村に住んでる爺さんみたいな雰囲気だ。
だが前の狂ったような戦い方を見ると、どうも前みたいに腑抜けた奴とは思えない。
同じ盟友になったワケだが、気を抜いたら後ろからバッサリやられそうで怖い。
「……」
黒騎士はスルー。
コイツが何者なのか果てしなく気になるが、今は良いとしよう。少なくとも敵ではないっぽいし。
皆もそれで良しとしてるみたいだから、俺も言及するだけ無駄だろう。
「もぐもぐ……ベルン、よろしく」
そしていつの間にか、竜少女のベルンは菓子の爆食いを再開している。
もうコイツに関しても触れないようにしよう。
竜人は魔術が得意なヤツが多い。コイツがどんな血筋なのかは分からないが、とにかく強いのは確かだ。
下手に刺激して逆鱗に触れないように気を付けよう。
さてまぁ、ここにいる奴らの名前は覚えた。
白鎧に関しては改めて聞くとする。
殺された奴とよろしくやるってのは妙な気分だが、アイツの言われた通り盟友になったんだから仲良くするしかないわな。
「失礼、皆食事は楽しんでいるか……おや」
と、噂をすれば。
挨拶が終わったタイミングで白鎧が食堂に入ってきた。
どうせならもう少し早く入って来いよ……。
「魔物、いよいよ共に戦う気になったかな?」
「……アーリマンだ、二度と忘れんじゃねぇ」
「ふふっ、いやすまない。あのまま聞かん坊だったらどうしようかと頭を悩ませていたものでな。それとも、マンダと呼べば良かったか?」
……あ、そうだ聖女のヤツ!
「おぃ聖女……ユリカだったな。お前何兵士にまで俺の事マンダって呼ばせてんだ!?」
「あーそういえばそうだったような。いいじゃんいいじゃん、マンダの方が親しみがあるし。それに名前が無いなら愛称くらいあった方が良いよ」
「良かねぇ! 大体お前は聖女だってのに締まりが無さすぎんだよ。仲が良いのは悪くないが、それでも馴れ馴れしすぎたら抵抗がある奴だっているん――」
「はいはい、分かったから落ち着いて」
「聞けやぁッ!」
コイツ、人が折角注意してやってるってのに……!
何でダダこねてるガキみたいな扱いを受けにゃならんのだ。
他の奴らも仕方ない奴みたいな顔しやがって、俺の考えに賛同してくれるヤツはいないのかよ!?
「し、失礼いたします聖女殿!」
「んーどしたのコルマちゃん? 私のことはユリカって呼んでほしいなぁ」
「ハッ、申し訳ないでありますユリカ殿! 無礼を承知で申し上げますが、どうかアーリマン殿の言葉を聞いてほしいであります。アーリマン殿は本気でユリカ殿を心配してあのように仰っているのでありますっ」
ビシッと敬礼し、ユリカに対してそう言うコルマ。
いいぞ、もっと言ってやれ!
正直お前だけでもそう言ってくれるのは心強い!
「んーでもなぁ、仲良くなるためにマンダって呼んでるんだよねぇ」
「……な、仲良くでありますか?」
「そ、ニックネームっていうのは親しみを込めて呼ぶものなの。だから仲良しになるのなら、ニックネームは大切なんだよ!」
「ほ、ほほぉー……」
なんか雲行きが怪しい。
え、何速攻で言いくるめられてんだコルマ?
成程成程って首を振ってんなって。
「ほらほら、コルマちゃんもマンダって呼んでみ? きっと今まで以上に仲良くなれるよ」
「ほ、本当でありますかユリカ殿!?」
嘘でありますよコルマ殿ォッ!!
お、おい何だコッチにトテトテ歩いてきて。
止めろそんな不安そうな目でコッチを見てくるな。
「あ、えと、その……」
「……なんだ?」
「あの、その、私もアーリマン殿のことをマンダ殿と、呼びたく、思うでありま、す……」
アアアアアアァァァァッ!! ほだされてんじゃねぇぇッ!!
素直すぎる上に考えが甘い、お前の頭はパイナップルでも詰まってんのか!?
おい聖女、何したり顔でコッチ見てんだ一回ブツぞ!
「あ、あの……」
「なんだッ!?」
「やっぱり、ダメでありましょうか……?」
「……」
「わ、私は今まで以上に貴方と、な、仲良くなりたく思うであります。アーリマン殿さえよければ、その……」
……。
……。
……いいよ、もう。
「……あんま、他人の前で呼ぶなよ」
「あ、ありがとうございます! これからも末永くよろしくお願いするであります、マンダ殿!」
「へへぇん、やっぱりマンダの方が呼びやすいよねぇ」
「ワシもそう思うのぉ。折角だしワシもそう呼ぶとしよう、のうマンダ?」
「私もそうする。別に良いよね、マンダ?」
「ほほぅ、ならば私もそうしよう。構わないなマンダ」
「アアアアアアァァァァァァッ!!!」
俺が許したのはコルマだけだぞ。何でお前らまでその呼び方を使う!?
ユリカだけならまだしも、イズミやベルン、果ては白鎧まで便乗してマンダって呼んできやがった。
せめてもの抵抗で大声を上げるが、残念ながら盟友共はそんなもんで怯みはしない。
むしろ対抗するかのように大声で呼んできやがる。
「マンダ殿!」
「マンダー!」
「ふぉっふぉっ、マンダ!」
「マンダ……もぐもぐ」
「マンダ……ふむ、呼びやすいな」
「アアアアアアァァァァァァッ!!!」
非常に苦しい。悔しさのあまりうずくまってしまった。
許してはいけないことを許してしまった気がする。
しかしもうどうすることも出来ず。
本日この時間を持って、晴れて俺の名前はマンダとなってしまった。
「……」
今となっちゃ、無言を貫いてる黒騎士が唯一の救いである。
お前だけはそのままでいてくれ。
いやもう、ホント頼むわ。
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