第14話 正式契約
日の高さから見て、現在は朝。
盟友共は飯時だろう。
「食堂か、前に会った小さい部屋か……?」
「その小さい部屋かは分かりかねますが、食堂なら道は承知しているであります!」
コルマの道案内を受けながら、俺たちは医務室から出て食堂へと向かっていた。
魔王城の時もそうだったが、城ってのはどこを歩いても似たような景色だから迷ってしまう。
コルマが道を覚えてくれていて助かった。
でなきゃ、誰かが来るまで医務室にいなきゃいけなかったと思う。
「おや、おはようございます! 盟友コルマ殿、マンダ殿!」
「ややっ、おはようであります兵士殿!」
「あん?」
歩いている途中で人間の兵士に出くわした。
確か盟友達と最初に会った時、部屋に助けを求めてきた兵士だ。
ヤツは俺たちを見ると笑いながらこちらに歩み寄り、軽くお辞儀して来る。
俺たちは魔物だってのに、随分と友好的だな。
最初に会った別の兵士は俺の事殺す勢いで睨んでたのに。
盟友ってだけでここまで対応が変わるのか。個人差はあるだろうけど。
だがまぁ、敵意を向けられるよりはマシだ。
……ていうかちょっと待て。
コイツ何当たり前のように俺の事マンダって呼んでんの?
「おい、俺はアーリマンだ。マンダじゃねぇぞ」
「あれっ、えっ!? し、失礼いたしました! 聖女様が貴方の事をそう仰っていたので、てっきりお名前なのかと」
あ、アイツ……他の連中にも俺の事マンダって言ってんのか。
盟友になるとしても、一回あの馴れ馴れしさは説教してやらんと。
同じ方向を向いて戦う仲だからこそ、節度ってもんを大切にしねぇとな。
「大体アイツ、聖女の自覚があるのか分からんねぇくらいに軽いんだよ。白鎧が庇わないと後ろに下がりすらしねぇし。自分の力量を持って戦場に出ないと、ああいうヤツは真っ先に死ぬんだからよ。そもそも……」
「あ、アーリマン殿。お小言はそのくらいにして、あと少しで食堂に着くでありますから」
「……そうだな、そうするとしよう。おい人間、じゃなかった。兵士、俺の名前はアーリマンだ。次からはマンダって呼ぶなよ?」
「は、ハイ! 承知いたしました!」
よし、コルマに並ぶ良い返事だ。
コイツはこれで良しとして、さっさと聖女たちに会わないと。
「アーリマン殿、あそこが食堂の扉であります!」
コルマが指さす方向を見ると、確かに見覚えのある大き目の扉が見えた。
それに、辺りをよく見ると見覚えがある。
聖女に連れられた道だな、少し取り乱したせいか気付かなかった。
「ささっ、私が扉を開けますゆえ、どうぞ中に!」
「そんな気を使うなって……これからは上ってワケじゃないんだし。ほら、入るぞ」
取っ手に手を伸ばすコルマを止め、自分で扉を開けて中に入る。
見覚えのある部屋。
そして見覚えのある位置に聖女たちは座っていた。
各々机に置かれた飯を食っている。
済ませたのかまだなのかは分からないが、他の人間はいない。
「あっ、おはようマンダ! コルマちゃんも、ちゃんと道案内してくれてありがとね!」
「はっ、恐縮であります!」
まず最初、いち早く声を掛けてきたのは聖女だった。
他の連中も飯を食いながら、チラリとこちらを見てくる。
ていうか竜少女は変わらず菓子を食ってた。
ブレないなコイツは。
「おぉ、よく来たの二人とも。ここに来たという事は、覚悟は決まったようじゃな」
「……あぁ、おかげさまでな」
ジジイはニヤリと笑い、カカッと人笑いして勢いよくパンにかぶりついた。
頬に欠片をつけながら、モッサモッサとパンを頬張っている。
「もきゅもきゅもきゅもきゅ」
「……」
竜少女は俺たちを確認した後すぐに視線を戻し、菓子を食い続けていた。
その勢いたるやマーマンの作りだす渦潮のごとく。
異様の一言だが、竜人は大喰らいだと聞くしあれくらいが普通なんだろう。
異様といえば隣の黒騎士もしかり。
コイツはコイツで置かれた食事に一切手を掛けていない。
あったかホヤホヤ、形が崩れていない目玉焼きやらソーセージやらが皿の上に鎮座している。
で、肝心の黒騎士は綺麗な姿勢で椅子に座ったまま動かない。
俺たちが入ってきたことくらいは分かってるとは思うが、これじゃ置物と変わらねぇぞ。
「白鎧のヤツはいないのか?」
「うん、マルタさんは今王様とお話し中だから」
「そうか……できれば全員いる時にちゃっちゃと終わらせたかったが。まぁいいか」
そう言って、少しだけ気を引き締める。
そんな俺を察してくれたのか、全員体をこちらに向けてきた。
はぁ、ホントこういうのガラじゃないんだがなぁ。
「礼を言いに来た。コルマ達のこと、助けてくれてありがとよ。あと、また会わせてくれて」
それに、コイツが俺たちを召喚してくれたからこそ。
俺やコルマは今がある。
他の連中は残念だったが、奴らがいたという事だけは忘れない。
いつか魂とやらが完全に解体されたら、次の転生先で楽しくやってくれ。
それで偶然巡り会えたら、今度はちゃんと面倒見てやろうと思う。
俺もいつか、夢らしい夢を持つことができるかもしれない。
「そんでもって、ちゃんと盟友として働こうと思う」
「……そっか。うん、ありがとうマンダ」
「マンダって呼ぶんじゃ……まぁいい。前は断っちまったが、今回は俺からやらせてもらう。一応、礼儀を踏まえて」
魔王と敵対、か。
ちゃんと考えると恐ろしくて仕方ないが、後悔はない。
自分で決めた道だ。そう、自分で決めれたんだ。
だったらもう、突き進むしかないだろ。
業腹だが、この軽い聖女やまとまりのない盟友共と共に。
「アーリマン・ダルク。アーリマンは種族名、ダルクは魔王軍にいた時の階級だ。他にアーリマンはいないから、個人名として使ってくれ……よろしくな」
「改めて、ワーウルフのコルマであります! 至らぬ所は多々ありますが、皆々様の為に日々精進する次第であります!」
いつか骸に戻るまで、生き抜いてやるさ。
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