第13話 目が覚めて


「んあ?」


 マヌケな声を上げ、目を覚ます。

 窓からは日光が見え、もう朝になっていることに気付いた。

 日の光をボーっと見ていると、頭の中がクリアになっていく。


 そう、俺は昨日聖女に召喚されて盟友になったんだ。

 

 逃げようとしたが出来なかったんだっけか。

 それから色々あった後で戦闘を見て。

 異形になったコルマ達を止めたんだ。


「コルマ……」


 そうだ、コルマ。

 昨日捨て身でコルマ達を止めた後、俺は気を失ってこの場で目を覚ました。

 それからここでアイツと再会して、それから……あぁ。

 ガラでもないが、少しばかり泣いたんだっけ。

 似合わないことして疲れたのか、昨日はそのまま寝てしまったんだった。


 コルマのヤツ、今どこに――


「んみゅ……」

 

 ……いたわ。

 足元の方を見ると、コルマも布団の上で丸くなって寝ていた。

 コイツも疲れたんだろうな、泣き方とか尋常でなかったし。

 みっともねぇ。涙で頬がカピカピになっている。


「……」


 ふと、眠っているコルマの頬に触れてみた。

 指先を使い、プニッとくらいの力で。

 柔らかく、ほどよい弾力で跳ね返される。

 同時に伝わる熱を感じ、コルマが確かに生きていてくれている事を実感できた。

 無性に嬉しくなって、つい頬を連打してしまう。


「むふぅ……」


 くすぐったがっていた。

 仕方ない。これ以上は止めてやるとしよう。

 そう思い頬から指を離すと、すぐ近くの頭部が目に入った。

 水色の髪の間から、ワーウルフの象徴である獣の耳が生えている。


「……やっぱ、魔物なんだよな」


 ふと、そんなことを呟いてしまう。

 どれだけ人間らしい感情を持とうが、夢を抱こうが、コイツは魔物なのだ。

 コルマが雪の中で言っていた夢は、魔物の世界では叶わない。

 そう思い込んでいた。


「盟友か……」


 しかし、現在の俺とコルマは盟友である。

 つまり魔物の世界ではなく、人間の世界の住人だ。

 魔物である事は変わらないが、あのまま魔王軍にいるよりかはよっぽど夢が叶う可能性が高くなったと思う。

 魔物と人間で恋愛なんて考えづらいが、それでも前例がないワケではない。

 コイツも人間の誰かと結ばれて、そのまま人間の世界に定住できれば夢が叶うだろう。


 少なくともコルマの夢が叶うまでは、聖女の盟友として戦うのも悪くない。

 俺自身も強くなれば死ににくくなる。

 そうなれば万々歳だ。


 それにあんまり言いたくはないが、聖女たちにも恩義は感じている。

 このままハイサヨナラは流石に言えない。

 盟友として働いていけば、恩も返せるだろう。

 同胞と戦うのは抵抗があるが、コルマ達をあんな形にしやがった魔王には礼を返さなくちゃならん。

 

 はぁ、気が重いがちゃんとアイツらに意思表示くらいはしないとな。


「ん……アーリマン殿?」

「おっ、起きたか」


 ちょうどいい所でコルマが目を覚ました。

 コルマは両手を前に出して背伸びをすると、手の甲で頬のあたりを掻いている。

 なんか、こう見ると狼じゃなくて猫みたいだ。


 と、見ている場合じゃない。善は急げだ。

 武器は……戻るワケでもないし持っていこう。

 一々装備しなくても、肩にぶら下げて持っていけばいい。


「コルマ、一応確認したいことがある」

「は、はい。なんでありましょうか?」


 俺が声をかけた途端、ベッドから降りてシャキッと背を伸ばすコルマ。

 なんというか、魔王軍から抜けても生来の性格は変わらないようである。


「俺はこれから聖女たちに会いに行く。ちゃんと盟友として働くためにな。ついて来るか?」

「はいっ、お供するであります!」


 コルマは前と同じように敬礼して、間髪入れずに笑顔で応じてくる。

 快く返事をしてくれているのは嬉しいが、余りに変わらない様子が少しばかり引っかかった。

 なんというか、事の重さを分かってんのかコイツ?


「コルマ、一応言っておくが盟友ってのは人間側の存在だ。つまりは魔物、今までの同胞たちと戦うことになる。お前分かっているのか?」

「はい、重々承知しております。そしてその上で、盟友として魔王に弓を引く覚悟であります!」


 おおぅ、ハッキリと言ってくれる。

 地味に魔王を呼び捨てにしてるし。


 まぁ分かってるなら問題ないが、随分と潔いから不安になった。

 いや俺もコルマの事は言えないがよ。


「それに、どこでも関係はないであります」

「ん? 何のことだ」


 俺が問いかけると、コルマは満面の笑顔になって一言。


「どのような場所であれ、アーリマン殿の隣が私の居場所であります!」


 そんなことを言ってきた。


 ふ、不意打ちでそんなこと言うなよ。

 そんなことを思いながら、俺はコルマを無視して部屋の外に出た。

 多分だが、今顔を見られるのは非常に悪い。

 聖女たちのもとへ着くまでに調子を戻すとしよう。


「あ、あれ? アーリマン殿? どうされたでありますかー!?」

「いいから、さっさと道案内しろ」


 後ろからコルマの声が聞こえたが、今は無視させてもらう。

 決して後ろは振り返らず、しかしコルマがついて来ているのは確認しながら。

 俺はハートレイス城を歩いて行った。

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