第4話 盟友の連中
スライムでも分かる盟友ルール♪
その1.聖女と盟友達は皆仲良くしなくちゃダメだよ!
その2.人間は殺しちゃダメ。でも多少なら痛めつけてもOK!
その3.盟友になりたいのなら、一回死んでね。
その4.他にもいろいろあるけど、後から教えてくからよろしく♪
「ひでぇ」
「まぁ、とりあえず皆と仲良くしてくれればいいから。よろしくねマンダ」
力なく座る俺を見ながら、聖女は手をヒラヒラと振って笑った。
クッソ腹立つなコイツ。
あれから少し時は経ち、俺は5回ほど同じ逃亡を繰り返してその都度二人の目の前に戻された。
曰く、聖女が女神から渡された御業の一つらしい。
連続で発動することは出来ないが、盟友を自分が望む場所へ寸分の狂いなく転移させることができるそうだ。
いや卑怯すぎるだろ、なんだその技。
飛ばす距離にも制限はあるらしいが、それでも全くの狂いなく転移させるのはヤバすぎる。
俺も転移魔法は多少できる。さっきコルマに使ったやつだ。
だが発動までに魔力を練ったり魔法陣の作成をしたり、とにかく色々と下準備が必要で面倒くさい。
おまけに転移先は想像していた場所とは少し違う場所になってしまう。大体の方向は一緒だが、思い通りの位置に飛ばすなんてのは不可能だ。
魔王軍でもそんな正確な転移魔法を使える奴は早々いない。
もしそんな芸当が出来るなら、即上層部へ昇格するだろう。
そんな俺の転移魔法に比べて、聖女の御業はどうだ。
詠唱いらず、魔法陣いらず。
一切の準備なく即発動できる超精密な転移。
おいおい、神技にも程があるだろ。
女神から貰った魔法なんだから文字通り神技なんだろうけど。
とまぁ、そんなことを教えられて俺は完全に折れた。
どうしようもない状況に乾いた笑みすら出てこない。
そんなワケで力なくうなだれていた時に、目の前に紙切れを落とされたのだ。
そこに書かれていたのが『スライムでも分かる盟友ルール』である。
ていうかなんだこれ、バカにしてんのか?
特にその4、完全に説明放棄してるだろ。絶対面倒くさくなっただろ!?
妙に綺麗な字で余計腹が立つし!
……いや、冷静に分析しろ。
まず、このその1に書かれている「聖女や他の盟友とは仲良くしなきゃならん」っていうルール。
これに強制力があるとするのなら、さっきの白鎧への一撃が止められた理由も考えられる。
つまり盟友になった時点で、聖女や他の盟友に対して危害を加えることは出来なくなっているのだ。
だからこそ、さっき白鎧へ向かっていた俺の足は途中で止まったのである。
となると、次に気になるのは人間への対応に関する項目。
殺すのはダメだが、多少なら痛めつけても構わない。
ふむふむなるほど、いやドコまで大丈夫なんだ?
半殺しとか許容範囲なんだろうか?
死にさえしなければ大丈夫ってことなら、どうしようもなく緩い規則だと思うけど。
その3にある盟友になるための条件は別にいい。
実際俺も死んでから召喚されたわけだから分かっている。
その4にある他のルールが果てしなく気になるが、多分全部教える気はないだろう。
その中に盟友の契約を解除する方法のヒントが隠れてるかもしれないが、そんなこと聖女から教えてくるワケない。
しかもルールその1のせいで、締め上げて聞くことも不可能ときた。
完全に詰んでるだろコレ。
「さ、最悪だ……よりにもよってこんな理不尽契約を結ばれるとは……!」
「あははぁ、こればっかりは諦めてもらうしかないなぁ。まぁ住めば都っていうし、マンダもその内人間側の生活に慣れてくるよ」
「召喚した本人が言ってんじゃねぇ! そもそもマンダってなんだ、俺はアーリマン小隊長アーリマン・ダルクだぞ!」
「だから、アーリマンとダルクの端だけ繋げてマンダだよ。呼びやすいでしょ?」
こ、コイツ心底俺の事を馬鹿にしてやがる。
こんな奴にこれから死ぬまで使われるのか。
いかん、眩暈と吐き気が……。
「さ、これから他の盟友達と顔合わせするから。マンダも私に付いてきてね」
俺の心境など全く無視し、聖女はゆっくりと外の方へ歩き出す。
その少し後を白鎧がついて行った。
俺に拒否権はないらしい。ていうか拒否してもまた転移されるのだろう。
今は従うしかない。だが、いつまでもこのままではいかん。
必ず盟友とやらの契約を解いて、自由の身になってやる。
そんなことを思いながら、俺は重い足取りで聖女たちの後を追った。
召喚された空間から出てすぐ、奴らは城の奥へと進んで行く。
俺は奴らに続く形で城の奥へと足を踏み入れた。
魔物たちは中の方にまで入っていたのだろう。城内にも戦闘の跡が真新しく残っていた。
魔法による焼け焦げた跡、砕かれた壁、切り裂かれた扉に傷だらけの兵士ども。
ボロボロの状態だが、魔中将まで出張ったんだ。逆に良くこの状態まで保てたと思うべきだろう。
「ッ……」
そんなことを考えながらテクテク歩いていると、ふと強い殺気を感じた。
条件反射でその方向を見ると、そこには腕と頭に包帯を巻いた兵士が見える。
若い。多分新兵だ。
ソイツは親の仇を見るような目で俺の事を睨みつけていた。
いや、実際魔物に大切な人を殺されたのかもしれない。
あぁクソ、なんだって俺にその目を向けるんだ。
俺はこの戦じゃなんもしてねぇぞ。ていうか、今までだって人を殺したりしてないっての。
そういう復讐の対象にならないよう立ち回ってたのに、どうしてこんなことになんだよ。
今更何を考えても仕方ないが、それでも悔やみきれない。
やっぱり白鎧とは対峙しないでどこかに逃げるきだったんだ。
魔王軍にも帰らず、適当な場所でのんびりと暮らすべきだった。
「……はぁ」
思わずクソ重いため息が出てしまう。
ホント、生きてると何が起きるか分かんないもんだわ。
と、先を歩いていた二人が足を止めた。
目の前にはそれなりに綺麗な扉がある。
ほほぉん、この中に他の盟友とやらがいるのか。
「お待たせマンダ、この中に他の盟友さんがいるんだよ」
「あぁ、そうだと思った」
聖女は楽しそうに扉の前に立つと、勢いよく扉を開ける。
部屋の中はよく見る人間共が経営する宿屋の客間みたいだ。
そして部屋の真ん中に設置されているテーブルを囲って、三人椅子に座っていた。
白髪を後ろに纏め、茶色のゆったりとした服を着た細身の剣を持つジジイ。
巨大な大剣を後ろの壁にかけた、顔も見えない真っ黒な鎧を着た奴。
そして頭からでっかい角を生やし、貴族っぽい服を着た赤毛の少女。
パッと見だと、そんな感じだ。
ジジイと黒鎧は人間として、角少女は多分竜族だな。
人間に友好的な種族は結構いて、エルフやドワーフとかもそうだったと思う。
昔攻め込んだ人間の城の中でも、何人か見かけた。
竜族はその中の一つだ。だからアイツも大人しくしてるんだろう。
「おぉーようやく5人目か。しかも魔物を連れて来るとはの。いやはや、聖女殿の懐の深さには恐れ入るわい」
「……」
「んぐ……なんとなくそんな気がしたから、別に驚かない」
ジジイは楽しそうに笑いながら俺を見つめてそう言い、黒鎧は一言も話さず、角少女はテーブルに置いてあった菓子を食いながらそう言った。
……なんというか、纏まりがねぇなこの3人。
「あん? 俺が5人目ってことは、他にあと誰か……ってソイツがいたか」
俺がジロッと睨む先。そこには相変わらず微笑んだまま表情を変えない白鎧が立っていた。
コイツを含めてココにいる5人が聖女の盟友……大丈夫なのかコレ?
一人はまともに戦えるのか分からないよぼよぼの爺さんだし。
「はい、皆注目……してるか。まぁいいや、この子が新しい盟友さん、魔物のマンダだよ。仲良くしてあげてね!」
「マンダって呼ぶんじゃねぇ! 俺はアーリマンだ、アーリマン・ダルク!」
気安くあだ名付けてんじゃねぇっての。
こんな奴らと一緒に魔王軍へ牙をむけるつもりなんてサラサラない。
同族同士で戦うのが嫌ってのもあるが、強い奴を相手にして危険な目にあるのが一番嫌だ。
「一応言っておくが、俺はお前らと一緒に戦うつもりはねぇぞ。俺は魔物だ、何が悲しくて同族の連中を相手にしなくちゃならんのだ」
「えぇ……つれない事言わないだよマンダー。こうやって呼ばれたワケなんだし、一緒に世界を救おうよぉ」
「うるせぇ! そりゃ人間が救われるだけだろうが!」
俺は俺の安寧の為に戦ってたんだ。ついでにコルマ達のもな。
人間が支配する世界なんて生きづらくってたまんねぇっての!
「うーん、でも盟友召喚のための媒介はもうないワケだし、嫌でもパーティには入ってもらわないと……」
「そうだな、この者には聖女殿を守る壁役くらいにはなってもらわねば……」
おい、何白鎧とヒソヒソ話してんだ。全部聞こえてんぞ。
……ん?
なんか、視線を感じる。
殺気じゃない。だが今までに感じたことが無いタイプだ。
ジジイ……じゃないし、あの角女でもないと思う。
となると、あの黒鎧か?
「……」
「おいお前、なんか用か? 人の事ジロジロ見やがって……そんなに人間に従う魔物が珍しいかよ」
「……」
ガン無視ときた。
いやマジでなんなんだコイツ。
多分人間なんだろうが、これじゃ男か女かも分からん。
「あぁ、黒騎士さんの事はあんまり気にしないでおいて。なんか言葉が話せないみたいで、誰とも口を利かないんだよねぇ」
いや警戒されてんじゃないかお前?
こんな所にいきなり無理矢理呼び出されて、奴隷のように扱われるんならそりゃ誰だって嫌な顔くらいするだろ。
まぁ兜のせいで顔も分からんけど。
……そう考えると、なんかコイツらも似たような境遇なんだよな。
死んでから聖女に呼び出されて、無理矢理召喚。
同意も無くそのまま盟友なんてクソみたいなもんにされて、もう一度死ぬまで戦わなきゃならんのだからな。
なんていうか、人間だが親近感がわいてきた。
「しかしまぁ、アンタらも酔狂だな。盟友ルールとやらが正しければ、アンタらも一回死んでから召喚されたんだろ?」
「まぁワシはそうじゃな」
「……」
「むぐむぐ……一応、同意しとく」
声をかけると、三者三様の返事が返ってくる。
角女は少々生意気な感じがするが、とりあえずスルーしとこうか。
「てことはお前らも見たんだろ、あの白い空間。あそこの天辺にまで無事昇れてたら良かったのに、無理矢理こんなとこに呼び出されて……ホント運がねぇ」
「おん? 何を言うとるか知らんが、ワシはちゃんと盟友になることを決めて召喚されたぞ?」
……はい?
今なんてったこの爺さん?
「私も……んく。お菓子いっぱいくれるって言うから、来てあげた」
「……」
「んん?」
角少女も似たようなこと言ってる。
黒騎士も無言だが、とりあえず無理矢理呼び出されたワケではないっぽい。
よくよく考えたら落ち着いて椅子に座ってるし、警戒とかしてるワケないか。
……え、じゃあなに? 俺だけ?
俺だけデコ掴まれて無理矢理呼び出されたのか?
「おい聖女、何で俺だけ同意とか無かったんだ?」
「あー……私が気合で引き当てたから?」
「説明になってねぇ!!」
契約もクソだがこの聖女もクソだ!
聖女とか大層な名前付けられてるけど、本当にただのクソだッ!
もうやだ、コルマ達の所に戻りたい。
魔王軍も居心地が良かったわけじゃないが、ここよりは何倍もマシに思える。
これから一体どんな目に合うのか、そう思うとフッと力が抜けて再びうなだれてしまった。
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