第2話 終わりはあっけなく


 王城撃滅戦線。


 人間たちの住む城、ハートレイス城。

 その国を壊滅させるために計画された、1000体もの魔物を動員した侵略戦争だ。


 目に映った人間は老若男女問わず全て殺し、王都の機能を完全に停止させる無慈悲な魔物の侵攻。

 そんな前線に配置された隊の一つ。

 その先頭に俺は立っていた。

 とういうか、ただボーっと見ていた。


「……暇だ」


 城から少し離れた草原にて、ため息と共にそんなことを呟く。

 冷めた目で怒号が飛び交う方を向くと、その先には高く舞い上がる土埃といくつもの魔法陣が見えた。

 先に突入を命じられた小隊がまだ頑張っているようである。

 小隊で無駄な消耗はしたくないし、俺自身も戦いたいワケでもないからありがたい。


 俺たちのような50体もいないクソザコ小隊が命じられるのは、ほとんどが突撃突貫だ。

 一つの隊が負ければ、別の隊が新たに突撃する。

 休みなく、延々と。

 そんな単純かつ明快な戦術で、俺たちは今までで数国を滅ぼしてきた。


 今回も同じ作戦を伝えられている。

 先に行った小隊が負けていれば、空をクルクル飛んでいるギョロ目の鳥型魔物に、早く行けと進軍を指示されるはずだ。


 逆を言えば、指示が来るまでは何もすることは無い。

 はぁ、と再びため息をついてその場に座り込む。

 出来る事といえばこうして胡坐をかき、頬杖をついて半目で前線を見守るだけ。

 人間側に大きな痛手を与える重要な戦争だってのに、ため息が出るほど暇だった。


「ややっ、油断してはいけませんぞアーリマン殿」


 おっと、部下に怒られてしまった。

 声がする方にゆっくりを視線を向けると、そこには我が小隊のちみっこい副隊長がいる。

 真っ黒な軍服をピシッと着込み、被った帽子からは可愛らしいワーウルフ特有の耳が顔を出していた。

 両肩から紐がぶら下がっており、その先には彼女の身長と同じくらいの長さの細身の剣が繋がっている

 俺より二回りほど小さい彼女は、座っている俺が少し見上げるだけで視線が合った。

 うん、いつもと変わらない。


 猫のようなツリ眼をした水色の髪を持つこいつは、コルマという獣ワーウルフの魔物だ。

 俺がソコソコの成果を魔王軍で挙げ、小隊を持つようになる前からずっと部下として動いてくれている。

 昔は徹頭徹尾俺の言うことを聞いてくれる良い子だったんだが、最近は俺のダラケた所を見ると小言を言ってくるようになった。

 真面目なのはいいんだが、ぶっちゃけ面倒だったりする。


「あぁ……分かってる。だがなぁ、こうまで暇だと何をする気にもなれんワケだ。実際何も出来ないワケだし」

「心中、お察しするであります。しかしここは戦場、いつ如何なる時でも気を張り巡らせるべきかと。ただでさえ、最近アーリマン殿の評価は魔王軍で下がってしまっております。前回と前々回の侵攻で大した戦果を得られなかったからだと推察致します。グロウ中将からも注意されたはずであります。このままでは隊を解体する必要があるだろう、と。このままでは我らがアーリマン殿の隊は無くなってしまい――」


 あぁもう、また始まった。


 分かってる、んなことは分かってんだよ。

 いつ突撃の号令が出て来るかも分からんワケだし、常に戦う準備はしてるっての。

 一応仕事だし。

 だからそんなキラッキラしたやる気に満ちた目を向けてくんなって。

 怒ってるのになんでそんなイキイキした目してんだお前はよ。


 そんなことを思いながら、ふと自分の両手に装着された武器を見る。

 本来手を守る用途として使われる籠手の先に、長く鋭い爪のような形をした刃があった。

 計十本の指にそれぞれ付けられたソレは、今まで俺の武器として延々と使い続けてきた代物だ。

 切れ味はバツグン、人間共が用意した安物の剣くらいならバターのように切り裂ける。

 いやまぁ、実際に人間を殺したことなんてないけどよ。


 俺が今まで挙げてきた戦果は、全部人間の拠点制圧だ。

 敵将を打倒したとか、そういった華々しいモノは一切持ち合わせていない。

 他の誰かが人間たちと戦っている間に戦場を掻い潜り、気付かれぬ内に砦や村の中心で旗を立てる。

 そんでもって「我々の勝利だー」って叫べばお仕事終了。

 それが今までやってきたことの全てだ。


 おかげで影じゃ卑怯者呼ばわりされることもあるが、知ったことじゃない。

 なんでかって、そりゃ死にたくないからに決まってんだろ。


 人間共がどうなろうと構わない。

 だが早死にするのは嫌だ。

 そんでもって死ぬ原因になる争いを、俺は可能な限り避けたい。

 弱肉強食が主の魔王軍でそんなこと口にしたらお仕置き待ったなしだが、それでも死にたくないもんは死にたくない。


 だから制圧する時にも、無駄な戦闘をしたことは無い。

 それに戦った奴だって極力生かしてきた。

 そうでないと、人間はその後が滅茶苦茶怖い。

 仲間が死んだ時、人間の力は爆発的に上がる。

 復讐心っていうか、とにかく人間は恨みで化け物みたいになっていた。

 実際に見て語ってんだ、嘘は無い。


 俺が一般兵士、要は使い捨ての駒として戦線に出ていた時の事だ。

 とある戦で、当時の魔少将がはるか格下に見える人間の兵士に殺された事があった。

 記憶が間違っていなければ、魔少将に父親をなぶり殺しにされた人間だ。

 ゲラゲラと笑って恨みを買っていた魔少将は、その戦の後で首を腐るまで晒されていたと思う。

 その生首を見て笑っていた兵士を見て、俺は無暗に他人の恨みを買うような行為を絶対にしないと決めたワケだ。


 思えば、その時から死というモノに恐怖し始めていたのかもしれない。

 死んでしまえばどこに意識が行くか分からないし、骸は当時の魔少将のように弄ばれるかもしれない。

 そう考えると、体が固まるほど怖くなってしまう。


 これを卑怯者だとか臆病者だとかいう魔物は、せいぜい人間をいたぶった後に倍返しされると良い。

 その時が来ても俺は絶対に助けんぞ。

 コルマのヤツも弱者をいたぶって笑うゲスってワケじゃないが、どうにも正々堂々を重んじる感情が強いと思う。

 敵陣の真ん前で堂々と名乗りを上げ、刀一本だけで敵陣に突っ込もうとした時は本気で焦ったモノだ。

 武人気質にもほどがあるだろ。

 もっと安全に、危険を回避して生きていかないと。


「……ん?」


 そういえば、と。

 彼女の小言が聞こえないことに違和感を感じ、ふと彼女が立っていた方向に視線を移す。


「――」


 そこには目を血走らせ、殺気を全開にしたコルマの姿が。

 フンスフンスと鼻息を荒げて戦場を見ている。

 エサを前におあずけを喰らった犬のようだ。

 その後ろを見ると、小隊の連中も突撃しようと各々武器を構えて前線を見ている。

 ミノタウロスやらゴブリンやら、種族に統一性が無い連中だ。


「おいコルマ、間違っても飛び出したりなんてするなよ。お前らも、指示が来るまでは動くな――」


 念のために注意でもしておくか。

 そう思い彼女の頭に手を置いて諌めようとした、その時だ。


「伝令ッ! 伝令ッ!」


 つんざくような叫び声が上空から響く。

 目で確認しなくても分かる。

 伝令係の鳥型魔物が発した言葉だ。


「グレムリン小隊、及びケルベロス小隊消滅!」


 ほら来た、お仕事の時間だ。

 とはいっても戦う気なんてないし、できれば何もしないまま帰りたかったんだがなぁ。


 仕方ない、コルマに隊の整列を頼むとするか。

 命じる内容はいつもと同じ、「命は大事に」と「人間は戦闘不能まで」だ。

 これさえ守ってくれれば、基本どう動いてもらっても構わない。

 城の制圧とかは俺がこそっと済ませておく。

 後で功績を山分けすれば部下たちも文句あるまいよ。

 そう思い、俺は待ってましたと言わんばかりのキラキラした顔をするコルマに命令を下そうとした。


 だがしかし。


「やぁやぁいざ往かん! 我が名はコルマ、アーリマン小隊副隊長なり! 尋常に勝負――」

「消滅……だぁ? おぃちょっと待てコルマ!」

「みぎゃっ!?」


 消滅の言葉が引っかかり、今まさに城へ突っ込まんとしたコルマの尻尾をギュムッと掴んだ。

 肩を上げてビクリと震えたコルマの事はスルー。


 本来、敵陣へ突っ込んだ小隊が全滅した時、消滅ではなく全滅と言ってくるはずだ。

 飛んでいる魔物はそこまで知能が高くは無い。

 決まった言葉を叫ぶことしか出来ないだろう。

 原因が何であろうと、普通は全滅以外の言葉は言わないはずだ。


 ……いや、待て。


「確かあったな。例外で別の事を叫ぶ場合が」

「あの、アーリマン殿。し、尻尾を放してほしいであります」


 そう、例えば。

 味方が「為す術もないほどの圧倒的な力にやられた場合」とか。


 いやだが、考えづらい。

 今攻め込んでいる城もかなり大きい方だ。

 手ごわい人間もいっぱいいるだろう。

 だがしかし、為す術もない程に強い存在なんて早々いる筈がない。

 いたとしたら、今回軍を率いている魔中将が相手をする筈だ。


 となると、原因はなんだ?


「なんか、大事な事を忘れているような……」

「だ、大事であります! 私の尻尾、は、早く放すであります!」


 何か嫌な予感がする。

 そんな事を考えていると、鳥型魔物がありえない事を言い出した。


「伝令ッ! 魔中将グロウ瀕死! これより侵攻を撤退に変更! 繰り返す、侵攻を撤退に変更! 前線の小隊はその場で人間の足止めをせよ!」

「はぁっ!? 瀕死ってどういうことだオイ!」


 劣勢や負傷ならまだしも、瀕死って意味が分からんぞ!?

 グロウって確か、一国を単身で滅ぼしたくらいの超強い魔物だろ。

 それが瀕死って、何が起きてんだ?

 そう思いながらコルマの尻尾から手を放し、砂煙のせいでよく見えない城門を睨み付けた。


「あ、アーリマン殿、一体何が起きているのでありましょうか?」

「分からん、だが尋常でない何かだ。確か次出る予定だった小隊は俺たちとグリフォン、ダークエレメントの連中か。奴らどうなってる!?」

「さっき魔中将殿を連れて退いて行くのを見たであります!」

「くそァッ! 動けるの俺たちだけかよ!」


 とんでもねぇ貧乏くじだ。

 生きて帰れると思い込んでたら、意味不明な人間勢力を相手にしんがりキメなくちゃならんとは……!

 魔中将がやられるような奴に小隊の連中が出ていっても瞬殺されるだろうし、正体が掴めんから戦略の組みようがない。

 しかも前列の小隊が魔中将を連れて退却したのなら、前で体を張れるのはもう俺たちだけだ。

 さっきの伝令、実質俺たちに言ったようなもんじゃねぇかよ!


 背後の軍を見てみるが、大体の連中は撤退し始めている。

 一緒に仲良く壁になりましょう、ってヤツは皆無だ。

 薄情な奴らめ、まぁ他の隊なんざどうでも良いだろうけどよ。

 俺たちも逃げようかと思ったが、多分命令を無視して逃げたら後で即死刑だろう。


 ……くそ、仕方ない。


「コルマ、撤退だ。お前が隊を連れて撤退しろ」

「何を!? アーリマン殿はどうされるのですか!?」

「……上からの命令だ、俺がここで人間を引き留める。お前らはクビだ、帰れ」


 使うつもりのなかった両腕の武器を意識しながら、城の方へと歩く。

 こんなもん戦ですらない、ただの自殺みたいなもんだ。

 コルマ達が付き添う必要はない。

 俺一人でもちゃんと命令を守れば、コイツらが死刑になることはないだろう。


「そんな、アーリマン殿だけを置いて逃げるだなどと!」

「いいから行け、お前らじゃ相手にならんだろうさ」

「しかしッ! それでアーリマン殿だけに敵の相手をさせるだなどと!」


 そう言ってコルマは俺の隣に立ち、一緒に城の方まで行こうとする。

 あーもうコイツは。

 最後まで真面目に付き合おうとするのかよ。


「……面倒だ、お前だけ先に帰ってろ。転移」

「アーリマン殿、何をッ!?」


 悪いが部下を道連れにする趣味は無い。

 念のために準備していた強制転移の魔法を使い、コルマだけ近くの砦に転移させる。

 魔物側の陣営近くだ、まぁ敗残兵でも悪いようにはされないだろ。

 正確な位置までは指定できないが、近くに飛ばせれば十分だ。


「お前達はちゃんと聞いてくれるな? 帰れ」


 そう言うと、他の部下たちは一礼して来た道を帰っていく。

 基本的にコルマ以外は俺の言葉に従順だ。

 他の隊に入れなかった弱めの連中だが、そのおかげか暴走することは……あんまりない。

 良くも悪くも言った通りの事をそのまま実行してくれるから、ホントこういう時は助かる。


 さて、今から小細工を用意する時間は無い。

 用意していた転移魔法もコルマに使った。

 つまり、俺の中で手札になるような何かは皆無。


 実に不本意だが正面対決と洒落込まねばならん。

 コルマに正々堂々なんてよせって常日頃言っていたのに、最後は俺がせざるを得なくなるとはな。


「さて、役者不足だろうがここは俺が相手をする。出てこいや、人間」


 部下共が去っていくのを確認して、再びハートレイス城の方を見る。

 砂埃が消えて視界が開けていくと、大きな城門の下に一人の人間がいる事に気付いた。

 真っ白なゴテゴテの鎧、籠手やら兜やらも使って全身を覆っていて顔も見えない。

 右手で身の丈はあるだろう巨大な剣を持ち、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 見た目だけならそこら辺にいる重歩兵のような格好だ。


 だがなんだ、妙な気配を感じる。


「……貴殿が最後か、魔物」

「あぁそうだ。アーリマン小隊長、アーリマン・ダルク。ここでお前を倒してやる」

「ふふ、逃げるではなく倒すと言うのか」


 あぁ、あれだ。

 神性とかいうヤツだ。

 この世界が始まって以来、人間側に付いて俺たち魔物の邪魔をしてきた存在。

 女神とかいう存在の、忌まわしい力。

 見たことも感じたこともねぇが、本能で分かる。

 ブルっちまう程おっかない。


 目の前の人間は、女神の力を得た正真正銘の化け物だ。

 なるほど、魔中将がやられるワケだなこりゃ。


「ゲージの残量からして、放てるのはあと一発。聖女殿の初陣で得られる戦果としては安いが……まぁいい。貴殿の首をもってこの防衛戦を終えるとしよう」


 防衛、まぁ確かに防衛か。

 ご愁傷様だ、グロウ魔中将さんよ。

 たった一人の人間に防がれるどころか、跳ね返されてちゃ立つ瀬も無いわな。

 プライドとやらがあったらズッタズタだろうよ。


「無駄な時間を取らせてくれるなよ、フェイタル・レイ」


 技名っぽい何かを白鎧が唱えると、奴からの殺気が強くなる。

 いや、正確には複数の殺気だ。

 四方八方あらゆる角度から、鋭い殺意を感じる。

 何かが来ると思い、仕掛けられる前に奴の目の前まで近づこうとした。


 しかし、ヤツは圧倒的に速かった。


「んだ……これッ!?」


 足に力を入れようとした瞬間、いきなり発生したいくつもの光が俺を囲ってきたのだ。

 光はそのまま渦のように歪んでいくと、その中心から細い光の矢みたいなモノを放ってきた。

 見た目はそこまで強そうではない。

 だがなんというか、怪しさ満点で受ける気になれなかった。


「うぉぉぉッ!!?」


 一発目、叫びながら空中で体をくねらせて避けた、これは余裕。

 二発目、着地と同時に状態を下げ、紙一重で回避。

 だが同時に来た三発目と四発目は俺の足を貫き、俺を地面に縫い付けた。

 この光、しっかりと実体がありやがる。

 光の矢が刺さったと同時に、俺の体は地面に思い切り叩きつけられた。


 汚い泥が口の中に入り、苦い味が沁みてくる。

 冷たい地面から、確かに死の気配を感じた。

 あんなに嫌っていた死が、目の前まで迫ってきやがる。

 なんとか立ち上がろうとしたが、足が地面から離れない。


「ぐっ……ぁ……」

「さらばだ、アーリマン・ダルク。せめて貴殿の気概を讃え、名だけは覚えておこう」


 そんな声が聞こえたと同時に、数えきれないほどの何かが放たれるような音が響く。

 見ることは出来ないが、光の矢が一声照射されたらしい。


 ドスドスと鈍い音を何度も聞き、その度に燃えるような激痛が襲ってきた。

 貫かれる度に意識を持っていかれそうになり、叫び声を上げる余裕すらない。

 神からの裁きなんて存在しないと思っていたが、今受けている矢がまさにソレだと思う。


 数秒にも満たないであろう怒涛の猛攻。

 一体どれだけくらったのだろうか。

 光の矢を受け続け、しばらくしたら新たな激痛は来なくなっていた。

 しかしソレとは別に、体の感覚が無くなっていくのを感じる。


 認めたくはないが、恐らく死ぬ直前なんだろう。


「……」


 体が動かない。

 地面に固定されてるからってのもあるが、ダメージがデカすぎる。


 あぁ畜生、死にたくねぇ。

 そうは思っても、魔物の俺に女神とやらが奇跡をくれるワケがない。

 くそ、それなりに手堅く生きてきたつもりだったのに、結局はこれが俺の末路ってワケか。

 これじゃそこら辺の魔物と同じじゃねぇかよ。


「ッ……」


 その時芽生えたのは、諦めとか嘆きとかそういう感情じゃない。

 そう、悪あがきと言うべきか。

 どうせ死ぬのなら、せめて何か残してやりたい。

 目の前の化け物に、悪態の一つでもついてやりたい。


 そんな俺らしくも無い感情が生まれて、俺は最後の力を口に注ぎ込んだ。

 口だけなら、まだ辛うじて動く。


「くそ、覚悟しやがれ人間共」

「……貴殿、まだ喋れたのか」


 白鎧が驚いたような声を出した。

 はは、最後の見せ物としては上々。


「俺はただの小隊長だ。俺より強い奴なんざ、いくらでも……いる……」


 あぁもう、上手いこと話せない。

 だが最後、せめて人間共に悪態をついてやらねぇと。


 このまま何もせず死ぬなんて、まっぴらごめんだ。


「魔王軍を相手に、お前らがどこまで足掻けるか……あの世で……けん……ぶ……」


 しかし、言い切る前に限界が来てしまった。

 みっともねぇな、まったくよ。

 だがまぁ、やる気のない俺らしい最後だと思う。


 コルマのヤツは無事に魔王軍へ戻れただろうか。

 部下たちも、ちゃんと生きてくれてたらそれで良しとしよう。

 心残りが無いなんて言えやしないが、まぁ仕方ない。


 そんなことを考えながら、俺は草原に顔を落として無様に死んだ。

 ホント、あっけない最後だわ。

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