第34話:女の子との距離が近いと推しでなくともビビる。
「エネミーから助けてくださって、本当にありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
「あ、いえ。それほどでも」
二十人ほどいる女性たちに囲まれ、しどろもどろになってしまう。
ここは町から町へ渡り歩くサーカス一座《戦乙女サーカス》の馬車の中。演者が可憐な女性ばかりで構成されているため、《ウィッチハンター》に狙われたようだ。
女性が多いため、盗賊などにも狙われるのは常のこと。故に屈強な護衛がついていたのだが、いかんせん多勢に無勢。それでも俺たちが通りがかるまでに相当敵の数を減らしていたので、護衛の腕ではなく相手が悪かった。
「その、こちらこそ目的地が同じとはいえ、相乗りさせて頂いてありがとうございます」
「いえいえ! なんたって命の恩人ですから! これくらいじゃ足りないくらいで!」
「なんならお礼としてもっとサービス――って、冗談ですよ冗談! だから彼女さんもそんな怖い顔しないで! 美人が勿体ないですよ!」
微笑ましそうに彼女たちが見つめるのは、俺の隣にピッタリとくっつくハクメンだ。
腕組んで密着されるのは物凄い嬉しいんだが、なんか圧を感じる。圧が怖くて横を向けない。どんな顔でもハクメンは美人だがな!
しかし、鼻の下伸ばしたりしてないから大目に見て欲しい。これでも内心、『手配書と同じ顔だ!』なんて言い出されやしないかとヒヤヒヤしているのだ。
ここマグニス王国は敵地も同然。国王は俺を無能呼ばわりして始末しようとしたし、こちらも王国に属していたミカガミを三人殺している。いつ指名手配されてもおかしくないことを考えれば、さっさと国外に出るべきだろう。
では、なぜ国境を越えずに未だ王国内に留まるのか。その理由は鉱山で発見した、スルトが残したと思われる遺品にあった。
遺品の中で一つだけ浮いていた歯車。これが最終決戦で起きた聖女の不可解な裏切りに関わる、なんらかの手がかりではないかと俺たちは考えた。
おそらくは、なんらかの兵器か装置の部品。そして俺たちは復帰して「前」が取れた砦の司令官から、国内最大の博物館について聞かされた。曰く、北欧神話のミラージュたちが残した、アスガルド皇国の遺産が展示されているとか。
歯車が当てはまる「なにか」も、そこに展示されているかもしれない。
で、今まさにその博物館がある都市へ向かっている次第だ。
「それにしても、見聞を広めるために世界中を旅しているなんて凄いです!」
「学者の卵という話ですけど、なんの勉強をなさっているんですか?」
「大将はミラアースの歴史について学んでいるんだ。特に二十年前に起こった《世界の終焉》以前の、旧時代についてな」
「はへー、なんだか難しそうなお話ですね。私にはサッパリ」
「だよねー。あたしもサッパリだもん!」
デュランが俺に代わってスラスラと質問に応対し、膝枕で頭を撫でられながらベルは天然で皆の笑いを誘う。
……俺とハクメンたちとで、《世界の終焉》を巡る旅路の記憶に食い違いがあることは、既に情報共有済みだ。俺が本当に彼らの主か、疑われても仕方なかったが、彼らは今も変わらず俺に付き従ってくれている。
この《シャドウミラージュ》の世界に召喚された意味や目的なんて、今まで深く考えては来なかった。考える余裕がなかったし、俺の頭じゃ答えなんか出ないとも思った。
でも、ここは俺がよく知る《シャドミラ》の世界じゃない。どこから分かたれたのかは定かじゃないが、俺の知るシャドミラとは違う歴史をたどった世界だ。俺はこの世界を理解している気になっていたが、本当はなにもわかっていない。
俺はまず、この世界のことをちゃんと知るべきだ。
この世界がどんな歴史を経て、どんな現在にたどり着いたのか。ゲームの知識や認識に縛られず、現実として向き合わなくては。そうしなければきっと、本当の意味でハクメンたちと共に在ることはできない。
だから俺は表向きの素性だけでなく、正しくこの世界について見聞を広めることを、今後の方針として定めたのだ。
「私たちの公演、ぜひぜひ観に来てくださいね! そのときは優先して席を御用意させていただきますから!」
「ぜひダブルデートで!」
「はは、楽しみにしています」
決意を胸に秘めつつ、女性率高すぎて若干胃の痛い談笑をどうにか乗り越えていた、そのときだ。
――ピロロロン。
「ん? なに、今の音」
「楽器? 聞いたことがない、変な音だったような」
「ああ、失礼。時計に時刻を知らせる仕掛けがありまして」
軽く心臓が飛び出しそうなった動揺をどうにか押し殺し、平静を装う。
今の音って……シャドミラでスタミナが満杯になったり、新情報が更新されたときにスマホから鳴るアラームか? ということは、音がしたのは《神鏡》から?
サーカスの女性陣から背中で隠しつつ、神鏡を確認して見る。
今まで灰色に染まって開くことができなかった《メインストーリー》の項目に、『NEW!』のアイコンが表示されていた。
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