第33話:推しの衣装バリエーションは多いほどいい。
砦の戦いから四日後。
隣国の侵攻を危惧し国境に留まることにしたレッドと別れ、俺たちは現在マグニス王国の内部へ。とある町を目指す途中で、エネミーと絶賛交戦中だった。
「マジョヲコロセー!」
「マジョヲコロセー!」
「私は魔女ではなく、くノ一なのですが」
「言うだけ無駄だと思うけどー!?」
金切り声を上げてハクメンとベルを追い回す集団。どこにでもいるだろう一般市民の服装で凶器を掲げているが、中身は人型の黒い影だ。顔に当たる部分は、真っ赤な裂け目が悪魔のような表情を形作っている。
こいつらは《ウィッチハンター》、地球では17世紀頃のヨーロッパに横行した【魔女狩り】が具現化したエネミーだ。神話や都市伝説の怪物ではなく、歴史上の事件を再現するために生まれたシャドミラ独自の怪物。
その性質上から女性、特に魔法使いや聖職者ばかりを狙う。聖職者が狙われるのは、【魔女狩り】に異教徒の弾圧という側面もあったためか。
この場には魔法使いも聖職者もいないので、女性であるハクメンとベルが執拗に狙われている。元々二人が前衛だから、こちらにはむしろ好都合だ。
「大将、やるか!?」
「ああ!」
デュランに守られつつ、俺が構えるのは手甲を装備した右腕。
ウィッチハンターに向けて手甲を突き出すと、装甲の上部が展開する。
その下から現れたのは環状に並んだ銃身。それがギュルルと回転し、手甲に内臓されていたガトリングが火を噴いた!
「?」
「? ? マジョヲコロセー!」
弾丸の雨を浴びたウィッチハンター、ほぼ無反応!
うん、全く効いてない。知ってた。
俺が装備した手甲は《携行型アームガトリング》。シャドミラのイベント《雷電博士のメカメカ王国》で入手した汎用装備だ。
人類に電力をもたらした発明家【ニコラ・テスラ】のミラージュが、《シャドミラ》世界のメカ化を画策。スーパーなロボット大戦ゲームが始まるというハチャメチャイベントだった。ロボット好きとしては大層楽しませてもらったものだ。
それにあのイベント、デュラハン型巨大ロボにベルが搭乗するわ、ハクメンが他の忍者系ミラージュと戦隊ヒーロー結成するわで俺得だったからなあ。
思い出はさておき、この手甲は青服男が使った銃と同様、装備者の魔力から弾丸を生成する。俺がミラージュでないせいか、おかげで威力が低いこと。まさに豆鉄砲だ。その分、反動も小さいから俺でも扱えているのだが。
しかし、元よりダメージを与える必要はない。重要なのはヒット数である。
「マジョヲコ……!?」
ウィッチハンターたちの動きが急に鈍った。
その全身を、【呪詛】の紋様が這い回っている。
そう、牛魔王との戦いと同じだ。ハクメンの【黒き呪炎】は、俺の武器にも状態異常攻撃を付与できる。このパーティは【呪詛】による敵のステータスの削り殺しが勝ち筋だ、これを活かさない手はない。
そこで俺にも扱えそうな武器の中で、最も連射が利いてヒット数を稼げるのがこのガトリングだったわけだ。ダメージは与えられなくても当たった数だけ【呪詛】を重複させられる。俺も戦いに大きく貢献できるのだ。
エネミーを【呪詛】で弱らせた後は、ハクメンとベルが反撃に転じる!
「いっくよー、ハクメン! シュート!」
ベルは鎖付き鉄球を、まるでサッカーボールのように蹴り飛ばした。
鉄球と一緒に、鎖を掴んだハクメンも凄い勢いでウィッチ・ハンターたちへ突撃。
そして鎖を軸にして、ハクメンが体を高速回転させる!
「妖魔忍術【鎌威太刀・旋身弾】――!」
腕から風の刃を出した状態での回転により、小型の竜巻と化すハクメン。
その突撃は、ウィッチハンターの集団を木の葉のごとく蹴散らし引き裂いた。
さらに奥の後方に陣取っていた集団の親玉、騎士の《ウィッチハンター・ナイト》に守られた
「マジョヲ、コロセ……」
「今時、魔女狩りなど時代遅れですよ。なにせ『魔法少女』なる、人々に愛と希望を与える者たちがいる世ですから」
忍者ポーズが最高に決まってるハクメンの背後で、エネミーは爆裂四散。
現実化した今だから可能となる、この世界オリジナルの合体技!
うーん、推しの輝いてる姿は何度見ても、痺れる見惚れる心底惚れる!
「大将、ハクメンに魔法少女コスとかさせてるのか? ちょっとそういうプレイは気が早いっつーか、がっつきすぎじゃね?」
「邪推が過ぎるんだが!?」
砦の一件以来、デュランもベルも一層その辺りを突っついてくるようになった。
うん、悪いがキス以上のことなにもなかったよ! イケそうな空気になりかけたところで前司令官さん来ちゃったから! 結局うやむやになっちゃって、気が早いもナニもあるかちくしょう!
あ、でも魔法忍者少女ハクメンは見てみたいなあ……。
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