第25話:推しと二人きりの満員電車天国状態。
人質たちと兵士を砦に待機させ、俺たちは鉱山へ突入する。
ミラージュを呼べないレッドも待機側だ。結果的に青服男を殺したことについて、レッドは物言いたげだがなにも言えない様子だった。
悪いが構っている余裕も義理もなし。俺たちは最後の敵、司令官の打倒に専念だ。
「敵襲だ! てきしゅ――」
「異様な風体の連中だ! まさかミラ――」
「これ以上行かせるな! 『あの御方』を怒らせたら――」
鉱山を大きく掘り抜いた、発光する石の照明で照らされた坑道。
奥から現れては、糸が切れた人形のように崩れ落ちる兵士たち。それを尻目に、俺たちは奥へ奥へと進んで行った。
「どいたどいたー! 怪我するぞー!」
「いやあ、しかし大将のオーラ半端ねえな! 敵がバタンバタンと落ちやがる!」
「誤解招くこと言うな! これ、あくまで装備の力だから!」
確かにデュランの言う通り、兵士たちは俺が発する威圧によって失神している。
別に覚醒とかしたわけじゃない。これは俺が被っている《夜叉の兜》の効果だ。
ミラージュ用の汎用装備である《夜叉の兜》には、戦闘開始から三ターンだけ敵全体に【攻撃力低下】を付与する【威圧】の効果があるのだ。ミラージュやエネミーの攻撃力を下げるほどの威圧。普通の人間が受けたら失神するのも当然と言える。
どうやらミラージュでない俺たちプレイヤーでも、装備の効果を引き出すことが可能らしい。青服男が魔法弾の銃を使ったのを見て、俺はそのことに気づいた。
あの銃は使い手の魔力を吸って弾丸を生成する仕組みだ。銃の機能を引き出せないと弾は撃てない。憶測だが『汎用』の範囲が、ミラージュに留まらず『誰でも』扱える判定になっているのではないかと思う。
おかげでこうして、坑道を警備する兵士たちを戦わずして無力化できた。
「しかし、なぜに
「いやだって、大将が『兜の効果が切れる前に坑道を走り抜けたい』って言うからよ。大将を運ぶのにちょうどいいビークルがあったの思い出してさ」
「アハハ! これおもしろいねー!」
ゲームの場合、装備の効果は一度切れると戦闘終了まで再使用できない。
これが現実化した今の場合だと、再使用に要する時間はおよそ十分。
どうも青服男と対面した際、俺は無意識に兜の効果を使っていたようで。相手がエネミー共々怯んだ、あのときだ。それから、坑道の入口に到着した頃に兜が再使用可能に。砦からここまでかかった時間が十分前後という次第である。
そこで、司令官以外の敵を全員兜の効果で黙らせてしまえば楽だろうと、俺の案を採用した結果がコレである。
時代劇やそれ風の漫画でよく見る、棒から一人乗りの座席を吊り下げ、それを担いで運ぶ乗り物。中でも大名とか偉い人が乗る立派なヤツに俺は放り込まれ、デュランとベルに特急で運ばれていた。
ハクメンはどうしたかって? それは――
「申し訳ありませぬ、主。二人と併走することも容易なのですが、『大将の護衛頼むな!』と強引に放り込まれてしまい……」
「いやその、俺にはなにも悪いことはナイデスヨ?」
ハイ、俺と一緒に放り込まれてます!
一人用だと言ってるのに、無理やり詰め込むモンだからギュウギュウで。ギュウギュウと密着して感触とか体温とか香りとか色々ヤバイ!
正面から抱き合う形になってて、双子山の柔らかあったかいが特にヤバイ!
「大将! イチャついてるところ悪いが、もう到着のようだぜ!」
イチャついてない、とかツッコミを返す余裕もなく。
酸素を求めるように駕籠の外へ顔を出せば、広い空間に出たところだった。
そこは大規模な採掘場。トロッコ用の線路も敷かれているところを見るに、相当な量のミスリルが採掘できるようだ。実際、向かいには鉱脈と思しき銀の壁がそびえている。
しかしなにより目を引くは……牛の兜を被った中華風鎧の大男!
「グハハハハ! ようやく来たか、侵入者ども! だが――!」
俺たちの侵入を既に察知していたらしい。《牛魔王》は高笑いしながら、柱のごとき巨大な鉄棍を振り被る。その足元には、一ヶ所に集められた労働者たちが!
こっちの目的が救出と見越して、目の前で始末してやろうという魂胆か!?
俺は咄嗟に、ハクメンを抱きしめて未だ走行中の駕籠から転がり出る!
「ハクメン! ヤツの足に下から土遁だ!」
「っ、承知! 妖魔忍術【ぬりかべ】!」
目を丸くしていたハクメンだが、即座に応じてくれた。俺を庇いつつ完璧な受け身を取り、印を結んだ後に手を地面につく。
すると牛魔王の足裏から土の壁がせり上がり、巨体が大きく体勢を崩した!
「ぬお!?」
「ベル! 鎖で転ばせろ!」
「よいしょー!」
駕籠を放棄したベルが、助走をつけて鎖付き鉄球を投擲。
持ち上がった方の足に鎖を絡みつけて引っ張り、牛魔王を転倒させた!
「今だ! 砦まで全力で逃げろ! 砦は前司令官の兵が占拠し、人質も解放した! グズグズしていたら、戦闘の巻き添えで死んでも責任は取らないぞ!」
状況についていけずポカン顔の労働者たちだったが、俺の言葉を聞いて一斉に逃げ出す。俺たちはそれと入れ替わりの形で、起き上がる牛魔王と対峙した。
「貴様らぁぁ! この牛魔王様に喧嘩を売ったこと、後悔させてやろう!」
後悔なら既にしそうだ。ギルガメッシュ以来の威圧感に震えが止まらない。
それでも力の限り背を伸ばして立つ。ハクメンたちのミカガミとして、ほんの少しでも相応しく在るために!
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