第22話:推しも推し方も人の数だけあっていい。
「あの、ごめんなさい。推しは人それぞれだし、推しに愛を注ぐのはプレイヤーの自由だもんな。ここのボスやってるプレイヤーのおっさんに負けたとき、散々レア自慢で煽られたモンだから、ついレア度が気になって……」
「確かにネットじゃ、そういうマウントの取り合いよく見るがな。あんなの付き合うだけ疲れるじゃないか? 他人の『好き』も尊重しつつ、自分の『好き』を大事にするのが一番だろ。自分の推しを愛でるのに、他人の推しを否定する必要はないんだしさ」
「ハイ。全くその通りです。あと年下なのにタメ口叩いてすみませんでした」
「いや、そこは別にどうでもいいから」
しおしおに萎んで謝罪するレッドに、なんかこっちも申し訳なくなってくる。
悪いヤツではなさそうだし、司令官の煽りが余程神経逆撫でするウザさだったのか。
シャドミラはなまじプレイヤー間の格差が激しいから、変な選民思想や特権意識に毒されたヤツがネットに多いんだよなあ。どうやらここの司令官やってるミカガミもその口らしい。今から対面するのが嫌になる。
なお、牢の鍵はハクメンが解錠済みだ。髪の毛を操って鍵穴をカチャカチャするという、妖魔忍術らしいピッキング術でした。
「しかし神鏡の機能を封じたりとかもされず、よく人質と一緒に拘束だけで済んだな? 普通ならその場で殺されてもおかしくなさそうなのに」
「しれっと怖いこと言うね!? でも、そうだな。なんか、向こうはどうしても俺を味方に引き入れたい感じだったぞ。『うちの陣営に入った方が得だ』とか『一番勢力の大きいうちが勝ち馬』とか『一緒に世界の覇権を手に入れよう』とか、よくわかんない話されてさ。いつからシャドミラは戦争ゲームになったんだ?」
「……それ、割とシャレにならないぞ。連中はこの国で、本当に戦争をやるつもりみたいだからな。お前を生かしてるのも、ミラージュっていう戦力を他国より多く確保するためだろう。プレイヤー一人が一度に呼び出せるミラージュは三人までらしいし」
「へ?」
これは地下牢までの道中、兵士の会話や資料室から情報収集してわかったことだが。
どうやらこの世界は、急速によくない流れへと傾いているらしい。
今のミラアースは、メインストーリー第一部の終了から二十年後の世界。一度は滅亡の危機に陥り、壊滅的な被害を受けた世界がようやく復興しつつある時分だ。
アスガルド皇国。オリュンポス神国。ヨハネ教国。その他、第一部の主な舞台となった大国は既にない。滅んだ跡地には新しい国が再建され、ここマグニス王国はアスガルド皇国の後進に当たる国のようだ。
大国が軒並み滅び、生き残った国も復興に追われて長らく戦争どころじゃなかった。しかし、そこにミラージュという超存在を従えるミカガミが多数現れてしまった。野心を抱いた王やプレイヤーが、各国で戦争の秒読みを始めている。
この鉱山での強制労働も、戦争に向けて軍備を整える目的のようだ。
「問題は鉱山で採掘されたミスリルを、司令官のミカガミが課金のために着服していることだ。どうやらこの世界の貨幣や金品を捧げれば、ガチャに必要な《鏡結晶》を生成できる仕組みらしい。それで無茶な人員と採掘量の増加を強制するだけじゃ飽き足らず、町の人たちから金を巻き上げていたんだ」
「えっ、待って。そもそもこの世界って第一部の終了から二十年も経ってるのか!? つまり第二部が始まってる!? しかもプレイヤー同士による戦国乱世!?」
そこからかよ。
話を聞くとレッドは俺と違い、気づいたら城じゃなくて草原の真ん中に転がっていたそうだ。そして、やはりこの世界に来た前後の記憶は欠落しているとのこと。
「あれ? じゃあ、ここのプレイヤーたちは普通にゲームをプレイしてるだけ? 強制労働もゲームの仕様なのか? 国民からの支持率が下がるデメリットと引き換えに、資源の獲得量が増加するシステム的な?」
「……仮にそうだとしたら、お前はここにいる人たちが受けた仕打ちを『ゲームならいいか』で済ませるのか? 後ろにいる皆の目を見て、もう一度言って見ろよ」
「うぐ」
レッドの後ろでは、俺たちの会話が半分も理解できないのだろう、困惑した顔の人質たち。両手を組んで祈る者もいる切実な眼差しに、レッドは自責で表情を歪めた。
「ごめん、失言だった。皆を助けるって、俺は約束をしたのに」
「俺も依頼を引き受けたんでね。報酬を前払いで貰った以上、仕事はやり遂げる。そういうわけだから、出るぞ。元々いたまともな方の兵士を説得して、人質を逃がすのに協力させる。ここに前の司令官はいるか? 兵士の説得を頼みたい」
「ぜ、前司令官は私です。兵士の説得は十分可能でしょうが……現司令官となっているミカガミ様は、恐ろしい魔王を使役しております。本当に、勝てるのですか?」
人質の中でも身なりが一層ボロボロの、しかし内面の威厳を失っていない壮年の男が、不安そうに尋ねる。他の皆も『こいつは本当に頼りになるのか?』と懐疑的な目だ。ああもう、レッドが余計な口を滑らせたからっ。
俺はキリキリする胃の痛みを無視し、大仰に黒マントを翻して見せる。
「この身は確かに、救世主なんて呼ばれるような器じゃない。だがここにいるのは、俺が最も信頼を置く仲間。数多の名高い英雄を、そして世界の終焉さえも打ち破った最強のミラージュだ。魔王など、なんということはない!」
おお、と魅せられたように安堵の表情を浮かべる人々。同じプレイヤーのレッドまでが、感嘆の眼差しをこちらに向けてきた。
大風呂敷広げすぎた感が凄い。プレッシャーでちょっと吐きそう。
――それでも。意地で見栄を張り通す。
「ま、俺たちにオール任せとけってな。そうだろ、大将?」
「アハハ! 敵をぶっ潰すのは得意だよ?」
「我が主の望むがまま、敵を葬って御覧に入れましょう」
俺の啖呵を支えるように、三人が傍らに立ってくれているから。
なにより、もっと単純に。
好きな人の前では、かっこつけたくなるもんだろ?
「よし! 行こうぜ皆! 《【絶影の貴公子】ミカゲ》に続けえ!」
「勝手にミラージュっぽい二つ名付けないでくれる!?」
ちっとも上手くはいかないけども!
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