第21話:推しを引き当てるまで回すのが愛(極論)。


 演出スキップ教、強化大成功教、逢魔が時教、触媒教……ガチャで高レアを引き当てたいがために、プレイヤーは数多のガチャ宗教を創設してきた。


 当然、確たる根拠なんてないただの願掛けである。しかしガチャが確立、ランダム、運否天賦である以上は神頼みでもしたくなるのが人情というもの。ちなみに俺は演出スキップ教に入って、ハクメンを十連一発で当てました。


 そんなガチャ宗教の中でも、ネットの動画配信から流行したトンチキな代物が、前述の謎ソングである。ガチャ演出時のBGMに合わせて歌うのだ。声に出して、しかも踊りもセットで。祭壇となんちゃって魔法陣はまた別の人が動画でやってたなあ。


 だが所詮、願掛けは願掛けに過ぎないわけで。


「バカヤロオオオオ! ふざけるな! SR以上が一体も出ないとか! ふざけるな、バカヤロオオオオオオオオ!」


 見事に爆死した少年は膝から崩れ落ちる。


 酷い泣き顔だ。なんというか、『パンデミック起きてゾンビだらけになった旅客機を、まだ無事でいる自分の母親ごと撃墜した』みたいな。実際にそんな人の顔見たことないが、それくらいの悲壮感に満ちていた。


 いや、気持ちは痛いほどわかるんだがね? 牢屋に捕まってるこの状況で、なに人質の皆さんまで巻き込んでガチャやってんだよと。


「爆死を嘆いてるところ申し訳ないんだが、そろそろいいか?」

「うわっしょいどちら様!?」


 少年が叫び疲れたところを見計らい、変装も解いて兜とローブ姿で声をかける。

 やっぱりこちらの存在に気づいていなかったようで、奇声上げて驚かれた。


 とりあえず簡単に自己紹介。同じ流れ者のミカガミであり、町の人々に依頼されて救出にやってきたことを伝える。


「そうか! 不甲斐なくも町の人たちに心配かけてすまん! そして助けに来てくれてありがとう! 俺の名前は《年中☆赤字財布》だ、よろしく! あ、もちろんプレイヤーネームの方な。あんたは?」

「なにその自虐ネタネーム。まさか、それをこの世界での名前で通しちゃう気か? あー……俺は《ミカゲ》だ」

「あはは! 如何にも《シャドミラ》の主人公っぽい名前だな!」

「げふう」


 悪気のない笑顔で痛いところ突きやがるな、こいつ!


 たぶん、あのミランってヤツと同レベルの発想かと考えると死にたくなる。というかシャドミラに手を出したきっかけ自体、『俺の本名が「鏡」音「影」明で主人公っぽいから』という黒歴史全開の理由がががが。


 いかん。これ以上いらん黒歴史を掘り起こす前に、話題を変えなければっ。


「そもそも、なんでガチャなんてやってたんだ? というか、《神鏡》が使えるならミラージュを呼び出して脱獄できるんじゃ?」

「いやあ、それが――」


 年中☆赤字……呼び難いので、適当に《レッド》と名乗らせることにする。

 レッドの話はこうだ。俺と同様にミラージュは三人しか呼び出せず、その三人も《牛魔王》にやられてしまったらしい。なんと砦に正面から突っ込んで大暴れし、人質を盾にされてあっけなくやられたとのこと。馬鹿なの? 


 やはりプレイヤーが生きていれば、ミラージュは復活できるようだ。しかし、灰色になったアイコンが四日経っても半分しか色が戻っていないという。つまり、一度倒されたミラージュは復活まで最低でも一週間以上はかかる模様。


 そこで新たにミラージュを召喚して状況を打破しようとしたのが、例の謎儀式にまで至る経緯だったわけだ。


「しかしな。新しいミラージュを召喚したところで、強化する余裕はあるのか?」

「あっ」


 ないらしい。


《シャドウミラージュ》は強化用アイテムの入手機会が非常に渋いゲームだ。

 経験値の他にも、スキルレベルを上げるのに専用の素材が必要だし、その素材は装備と共用だから在庫は常にカツカツだ。他にも装備スロットの増設、各ステータスの増強など、プラスアルファの強化要素を上げればキリがない。


 廃課金勢でも大半が、入手したSSR全てをフル強化はできていないとか。 

 ミラージュを強化するためのリソースは限られ、ましてや性能の低いR以下に割くプレイヤーはほぼ皆無と言っていい。


 そんな中、全リソースを性能度外視で推しに捧げたのが俺なわけで。 


「はあ!? 連れてるのが残念SSRの《ハクメン》って時点で嫌な予感してたけど、完全にネタパーティーじゃん!? こんなんで牛魔王に勝てるわけ――すかぴん!?」


 神鏡からデュランとベルも呼び出して、揃った俺のパーティーを見るなりレッドの反応がコレだ。とりあえず兜でヘッドバットかましてやった。

 どうしてこう会うヤツ会うヤツ、人の推しをディスるんだろうなあ!?

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