第7話:推しキャラのパーティーで勝った。超勝った。
なにが起こったのか、順に振り返ってみよう。
まず――狐面を装着することで、ハクメンに狐耳と尻尾が生えた。
大妖怪【九尾の狐】は、特に後年の創作で人や国を陥れる邪悪な存在とされ、ミラアースでもその認識は変わらない。【九尾】の力は強大な反面、使い手の邪心を増大させる危険性を孕んでいた。そこでハクメンは力の大半を仮面に封じ、コントロールできる範囲に【九尾】の力を抑制している。
つまり、面によってケモミミ属性を自在にオンオフできるのだ!
しかも尻尾を出す都合上、おしり周りの露出も高くて、これもう半ケツ……って、注目するところが違うよね俺!? 確かにハクメンは腰つきも素晴らしいが!
ゲフンゲフン。話を戻して、先手を打ったのはセラフィムの方だった。
光輪から放つ無数のレーザー光線。一定確率で放つそれは通常攻撃でありながら、全体に及ぶ範囲攻撃。ターゲット集中で味方を守ることもできず、防御力が低い闇属性パーティーではあっという間に削り倒されてしまう。
最推しパーティーでの攻略を諦めさせた要因が、初手から飛んでくるとか!
いきなり絶望しかけた俺は、ハクメンたちの対応に驚かされた。
『ハッ!』
『ほいほーい!』
なんと、さも当然のようにレーザーを避けたのだ。
光の速度がどうこうとか、撃つ瞬間に射線から外れればとか、それ以前の問題で。
まずシステム的に、スキル以外での回避なんてありえない――そう考えたところで、自分の迂闊さに気づいた。ここはゲームの世界だが、現実だ。敵はターンが回るまで待ったりしないし、ハクメンたちも自分の意思で動く。
ゲームでは当たり前にあるシステムの制約が、ここでは機能していない。
だから全体攻撃だろうと、避けられる攻撃はスキルに頼らずとも避けられるのだ。
それでも接近するほど、レーザーの雨は密集して隙間をなくす。
ハクメンとベルが共に一発被弾したとき、さらなる驚愕の連続が俺を襲った。
『むん!』
被弾の瞬間、半透明に輝く髑髏の盾が二人をレーザーから守る。
そして二発分の閃光と衝撃は、二人でなく俺の前に立つデュランの下で弾けた。
デュランのターゲット集中スキル【死霊の盾】。それは自身の霊体を分けて形成した盾を味方に纏わせ、味方が受けた攻撃を肩代わりする術。霊体の盾を通し、攻撃をデュランの下へ移し替える仕組みだ。
それはあくまで設定上の話。しかしその設定が現実と化した結果、デュランの守りは全体攻撃に対しても有効になったのである。
おかげでハクメンとベルは無傷だが、二人分のダメージがデュランに。しかも俺を庇って、いくつものレーザーを集中的に浴びる結果になった。
攻撃偏重かつ低レアなデュランのステータスじゃ耐えられない……はずだった。
ところが、デュランは全くの無傷。ノーダメージ。
『オイオイ、こいつは!』
『【無敵】!? なんでデュランに【無敵】がかかってるんだ!?』
デュランの全身を包む、波打つ虹色の光。それはあらゆる攻撃を無効化する、【無敵】状態を表すエフェクトに他ならない。
ハクメンのスキルでデュランにかけたのは【防御力強化】のはずなのに、なぜ!?
俺が混乱している間にも戦闘は進む。鋼の腕を振り回すセラフィムに対し、果敢にクナイと鎖付き鉄球で攻め立てるハクメンとベル。
そこでも、異常なことが起こっていた。
『ねえ。こいつ、なんか物凄く弱くない?』
『いいえ、現在進行形で弱くなっています。これは――』
支援型のハクメンと、攻撃特化といえど低レア故にステータスが低いベル。
セラフィムからすれば、蚊ほどしか効きはしないだろう二人の攻撃。それが、セラフィムの白金装甲を見るも無残に砕いていくではないか。
何事かと《神鏡》を覗き込めば、鏡面に表示される敵の状態。《【最上位天使兵】セラフィム》の名前下に、【状態異常:呪詛】を示すアイコンが浮かんでいた。……画面に収まり切らないほどの、膨大な量で。
ゲームには定番の【状態異常】だが、【呪詛】は「全ステータスの数値を下げる」という特殊な部類だ。しかしステータス全体に及ぶせいか、低下の値は微々たるモノ。
素直に【攻撃力低下】【防御力低下】といったデバフをかける方が効果的。同じ状態異常でも継続ダメージの【火傷】や動きを止める【麻痺】に比べて使い難い……というのが、一般プレイヤーの見解だ。
俺にとっても、ハクメンがスキルで自身の通常攻撃に付与する【状態異常攻撃:呪詛】は、「ないよりかはマシ」程度の代物だった。
しかし今、セラフィムにかかっている【呪詛】の数は異常だ。確かにシャドミラで状態異常は重複する仕様だが、こんな数は攻略動画でも見たことがない! これだけの数、軽く見積もってもセラフィムのステータスは、五桁から二桁に下がっている!
ここまで下がったら、そりゃあ《必殺技》どころか【狂化】を使うまでもない。
憐れセラフィムは、通常攻撃だけでスクラップとなった次第だ。
――うん。なにがどうなってるのか、わけがわからないよ!
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