第6話:弱くたって推しキャラのパーティーで勝ちたい。


 ハッキリ言って、《セラフィム》との戦力差は絶望的だ。


 まず、セラフィムが天使だけに光属性という時点で相性が悪すぎる。俺のパーティーは闇属性統一なのだが、《シャドウミラージュ》ではまず闇属性自体が不遇なのだ。


 ゲームの大半に共通の常識として、属性には相性による有利不利が存在する。相性に応じてダメージが倍増したり半減したりするアレだ。


 火は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。

 そして光と闇は互いに強くて弱い……というのは、他のゲームでもよくある設定。

 しかし、シャドミラに於いて光属性と闇属性は対等じゃない。


 ミラージュやエネミーは闇属性が攻撃力に、光属性が防御力に偏ったステータスになっている。そして闇属性のミラージュで光属性のエネミーと殴り合えば、打たれ弱いこちらが確実に殴り合い負けするのだ。光属性のミラージュは、スキルが優秀な者が多いので闇属性のエネミーに優位を保てるのに!


 ダメージが等倍の四属性相手でも、闇属性の打たれ弱さは目立つ。それなら普通に、相性有利な属性で挑めば良くね? という話になってしまうのだ。


 ストーリーのときはハクメンたちじゃセラフィムをどうしても突破できず、別のメンバーで攻略したのだが……。


「どうだ、他の連中はグッドモーニングしそうか!?」

「くっ、駄目だ! やっぱり他のミラージュは呼び出せない!」


 タブレット大になって俺の前で浮遊する《境渡りの神鏡》。その鏡面には、スマホでシャドミラをプレイするときのゲーム画面がそのまま表示されていた。どうやらゲームと同じ感覚で、ミラージュの強化や編成が行えるらしい。


 ハクメンたち三人は推しキャラの中でもトップスリーだが、他にも戦力は当然いる。

 しかしパーティー編成の画面、三人以外のミラージュを示すアイコンが灰色に染まっていて、操作を全く受けつけないのだ!


「ここは、我々で切り抜ける他にないということですね。主、指示を!」

「あ、ああ! 指示なんて言っても、戦法なんかいつもの一つ切りだがな! ハクメンはスキル全開で二人を支援! デュランは【死霊の盾】で二人を守れ! ベルは思うまま暴れてぶん殴れ! ただし【狂化】は俺が指示するまで堪えろ!」


 淀みなく言葉が出たのは、別に覚醒したわけでもなんでもない。「もし実際に三人の指揮をしたら」って日頃の妄想が咄嗟に口から出ただけ。


 正直、指揮に自信なんかない。

 そもそも繰り返すが、このパーティーは弱いのだ。


「デュラン、控えの盾役いないからダメージ管理と自己申告はしっかり!」

「あいよ! 力尽きる前にヒール頼むぜ!」


 デュランは【死霊の盾】、いわゆるタゲ集中スキルで仲間を攻撃から守る盾役……なのだが、闇属性の攻撃偏重のステータスでは相性が悪い。そのままだと一ターンしか役目を果たせず、大抵のプレイヤーから一回限りの使い捨て扱いされてしまう。


「ベル、デュランの守りを過信して突っ込みすぎないように!」

「ひっとあんどあうぇいでしょ? わかってる!」


 ベルは【狂化】スキルでSR並みの瞬間火力を発揮するアタッカー……なのだが、闇属性の中でも攻撃に特化した結果、脆さも闇属性で随一。頼みの瞬間火力もSSRのアタッカーには遠く及ばない。他属性に上位互換がいくらでもいるのが実情だ。


「ハクメン、一番負担かかると思うが、二人のサポートを頼む!」

「了解しました。我が【望月流妖魔忍術もちづきりゅうようまにんじゅつ】、存分に振るいましょう」


 ハクメンは俺の手持ちで数少ないSSRの一人。強力なバフとデバフを使用できるサポート役だ。このパーティをかろうじて実用足らしめている要と言っていい。ただし攻略サイトのSSRランキングでは「闇属性でさえなければ優秀」と低評価。


 デュランが守り、ベルが攻め、二人の低いステータスをハクメンが支援で補う。

 一応、パーティーとして成り立ってはいる。彼らと一緒に《世界の終焉》を巡る争いを戦い抜いてきた。でも、かつて敵わなかった相手に勝てるのか? そもそもゲームの戦術が、現実と化したここで通用するのか?


 怖い。不安だ。覚悟なんてない。今は場の勢いだけで立っている。

 それでも彼らの前で、見栄を張らずにはいられないんだよ!


「先に断っとくが、俺は軍師や指揮官みたいに大層な頭脳は持ってない! だから細かい判断は各々へ全面的に任せる! それから……あのプカプカ宙に浮いて人を見下してやがる天使様を、地べたに這いつくばらせてやれ!」

「――ハッ! 最高のオーダーだぜ、大将!」

「よっしゃー! 暴れるぞー!」

「委細承知。あの翼、一つ残らず千切って御覧にいれましょう」


 威厳もクソもない俺なんかの号令に、三人はしっかりと応えてくれる。

 ああ、ちくしょう。窮地だっていうのに、三人の戦いを間近で見られることを喜ぶ、危機感の欠片もない自分がいる。


 この三人が好きだ。勝たせてやりたい。いいや、勝つんだ!

 弱小と侮るなよ、セラフィム! 最推しパーティーの意地を見せてやる!





 そして、死闘の開始から数分後。


「よいしょおおおお!」


 ベルの一撃で、最上位天使兵セラフィムは彼方にふっ飛んでお星さまに。

 対してこちらは限りなく無傷に近い、見事な完全勝利を収めた。

 …………あれー?


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