第5話:推しにリアルの自分を晒すという恐怖体験。
「それにしても、まさか《ミカガミ》をミラアースに召喚する術があったとは。彼奴らは一体何者なのでしょうか」
「異界の存在を直に召喚することはできない。だからこその俺たちミラージュだし、大将とは今まで《神鏡》を通じてコールしてきたんだもんな。ミカガミは大将たち異界の人間しかなれない、ミラージュを召喚し使役できる唯一の存在。そのミカガミをこっち側の世界に引き込む術なんて、広まったらビッグプログレムだぜ」
「肉体がこっちにあるなら、拷問でも洗脳でもやりたい放題だもんねー。鏡越しじゃ懐柔も脅迫も意味ないから、今までは絶対不可侵の救世主で通ったけど」
「ひえっ」
三人の話を聞いて背筋がゾッとする。
もしかして俺、反抗して追い出されたのはファインプレーだったかも?
あのまま残っていたら、洗脳されて操り人形とかになっていた可能性も……。
しかし三人が驚いているように、ミカガミつまりプレイヤーがこちら側に足を踏み入れるなんて設定は、《シャドミラ》で聞いたこともない。
いや。聞いたことがないといえば、そもそもあのクソッタレ王は誰だ?
「俺たちがついさっきまでいた、あの城は一体どこの国だ? 俺たちは《世界の終焉》を食い止めるため、世界中を旅した。それこそ大国小国を問わず、王様と謁見した機会も一度や二度じゃない。でも、あの王様も城も見たことがない、よな?」
「はい。最終決戦を前に行われた世界会議。そこに我々も出席し、全国の王と顔合わせをしたはずですが、あの男は記憶にございません」
確か、マグニス王国とか言ったか? うん、やっぱり聞き覚えのない国だ。
マップやストーリー上で、全ての国が事細かに描写されたわけではあるまい。しかし、名前も上がらないような小国に、ミカガミの召喚なんて真似が可能なのか?
そもそもミカガミを召喚とか、「スマホを通じたキャラとのやり取りにリアリティを持たせる」というシャドミラのコンセプトがぶち壊しだろ。いや、二次創作じゃよくあるネタだけども。なんなら俺も深夜テンションで一作書いちゃったけども。
「そういえば、ここってどこの山なんだろうね? 世界中の色んな山にも登ったけど、ここはなんだか嗅ぎ慣れない匂いがするんだよねー」
「確かに、現在位置もわからないんじゃ話にならないな。まずは川に沿って下山、人里を探して情報収集しよう。…………と、思うんだが、いいかな? なんか、俺が勝手に仕切ってるような感じだが。問題とか間違いとか、不満とかない?」
「いや、なんで今更そんな遠慮がちなんだよ!? 俺たちの大将なんだから、お前さんが仕切るのは当然だろ。あの【黄金女帝】相手に啖呵切ったタフハートはどうしたよ?」
「私たちは主に仕える身。なんなりと御命令下さい」
「あたし、考えるの苦手だからリーダーに任せまーす!」
ん? 今、ハクメンさん「なんでも」って――なんてボケる余裕はなくなっていた。
よくよく考えたら《ミカガミ》なんて、鏡越しにアレコレ命令してくる得体の知れないヤツだよな。戦闘中も自分だけは安全な場所で、素人のくせして偉そうに指図する。こんな上司、俺だったら絶対に嫌だ。
なんで三人とも、そんな素直に従えるの? 実質俺たち初対面だよね?
なんか、冷静になるにつれて怖くなってくる。
だって今、三人の前にいるのはリアルの、『現実』の俺だ。主人公補正もなにもない、社会人になるのも失敗した落伍者。
俺には、三人の上に立てるような能力も才覚も何一つないのに。
恐ろしい。恐ろしい。遮る壁もなく、剥き出しの自分で彼らの前に立っていることが恐ろしい。ああ、三人が怪訝な顔をしている。なにか、なにか言わなくちゃ。
「俺、は」
そのとき、突然の地響き。
地震かと思ったのも束の間、急激に俺の視界が上昇する。
俺が腰を落ち着けていた岩の下、地面の下からなにかがせり上がっている!?
「のわああああ!?」
「主!」
岩の上から転げ落ちた俺を、ハクメンが空中でキャッチしてくれた。
ヤダ、お姫様抱っこ……なんてときめいてる場合違う!
俺が座っていた岩が、ビカーンと一つ目を輝かせる。俺が岩と思っていたのは、鋼鉄の巨人の頭だったのだ! この白金装甲と背中の翼、そして頭上の光輪は!
「《天使兵》!? それも《セラフィム》だと!?」
「《シャドウエネミー》を軍事利用するため、《教国》が開発した魔導兵器!」
「よりによって教皇親衛隊の最上位機かよ!」
「なんでそんなのが、こんな山奥の川辺に埋まってるのさ!?」
俺が訊きたいくらいだ、そんなの!
この天使兵セラフィムは、メインストーリーの中盤で立ちはだかるボス。終盤で大量の量産型が現れたときの絶望感といったら、本気で心が折れかかった。
そのセラフィムといきなりエンカウントとか、ハードモードどころじゃない!
「って、オイ! まさか戦うつもりか!?」
「セラフィムの主兵装は光線です。下手に離れては却って危険でございまする」
「撃たれる前にぶっ壊せ! ってことだね!」
ハクメンが狐面を、ベルが狼のフードを被って二人とも戦闘態勢に。
そして火の玉頭を本気モードの燃える骸骨に変えたデュランが、俺を守るように背中で庇いながら言う。
「そういうこった。なあに、大将は俺の後ろでドーンとステイしてな。――信じろよ。なんたって俺たちは、お前さんが選んだ最高のパーティーなんだからな」
……ああ、もう! このイケメン骸骨ヘッドめ! 推しにリアルでそんなこと言われたらさあ! 「怖い」「逃げたい」なんて言うに言えなくなっちまうだろうが!
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