第4話:推しと画面の隔たりもなく対面できるこの喜びよ。
三度目の昇天はなんとか踏みとどまり、俺は改めて三人と向き合った。
転移した先はどこか山奥の川辺。獣が襲いかかってくる気配も特にないそうなので、ひとまず情報交換して現状確認ということに。
「――つまり皆、最終決戦の直後から記憶が曖昧なのか?」
「《世界の終焉》をぶっ倒したのは覚えてるんだけどよ。ラストバトルの記憶がどうにも曖昧でな。ふと気づいたら大将が死にそうになってたんで、無我夢中で飛び出したぜ。てか、大将ってこんな面だったんだな! そういや面拝むのは初めてだったか!」
武骨な黒い騎士鎧の上で、デフォルメな顔付きの青白い火の玉がガハハと笑う。
この火の玉、霊魂こそが《【
ギルガメッシュがそうだったように、デュランも地球の伝承に伝わるデュラハン本人ではない。
そもそも、《ミラージュ》は元々ミラアースの人間だ。性格なり境遇なり、地球の英雄や神々と近しい『資質』を持つ者。それが自然的に、あるいは《ミカガミ》の起こす奇蹟によって英雄・神々の力を宿し、ミラージュとして新生する。
デュランは生前高名な騎士だったが、無実の罪で処刑。無念のあまり死に切れず、斬首された後も己の首を片手に、自分を陥れた仇を十人斬り捨てたという壮絶な過去を持つ。その死に様から、首なし騎士【デュラハン】の力を宿すことで蘇ったのだ。
まあ普段はご覧の通り、騎士らしからぬ気さくな兄貴って感じだが。
「顔も知らないのに、よく俺がお前らの《ミカガミ》だって判別できたな?」
「リーダーとの間に見えない繋がりみたいなものを感じるんだよね。あたしたちってリーダーの力で生まれ直したようなものだし、それでなにか結びついてるんじゃない?」
狼皮のフードを頭から外した、赤髪ショートカットの《【可憐な狂戦士】ベル》がデュランに抱きつきながら言う。
火の玉頭にスリスリ頬をすり寄せる仕草は、幼くさえ見える顔立ちと小柄な体格も相まって、狼というより子犬のソレ。人懐っこい雰囲気の無邪気な少女である。
しかしベルは、親兄弟同士が殺し合って狂戦士を育成する、血塗られた一族の出身。彼女の一族は北欧神話の【ベルセルク】を崇拝し、代々狂戦士を生むための血生臭い儀式を続けてきた。中でもベルは、一族の最高傑作と謳われる生粋の狂戦士だ。
ちなみに、ベルはデュランが【デュラハン】と化す以前から、共に戦場で背中を預け合う相棒の関係でもある。この子犬のように甘えた姿も、相手がデュランだからこそ。
過酷な運命に進んで身を投じながらも、互いに寄り添う瞬間には安らぎを見い出す。そんな二人の関係がもう尊くて尊くて……ストーリーやイベントで二人の絡みが見られる度に、何度運営を拝み倒したことか。デュラベルはいいぞ! はよ結婚して。
そして、そして――!
「記憶が定かでない部分は、確かにございます。しかし、主と共に数多の戦いを乗り越えた、その事実は揺るぎなく。私の忠義も変わることはありませぬ」
「あ、ああ。ありが、とう」
ポニーテールに結わえた、長く瑞々しい黒髪。人形めいた整い方をした美貌と、色香が匂い立つような艶めかしい肢体。それがピチピチの忍者スーツで、豊満なボディラインがくっきりバッチリ浮き出ている。しかも肉体を部分的に変化させる術を多用する都合とはいえ、露出度も高いから目のやり場がガガガガ。
佇まいや顔立ちは清楚そのものなのに、色気が隠し切れない和風美女。
彼女こそ最推しの中の最愛、《【九尾くノ一】ハクメン》である!
ハクメンは大妖怪【九尾の狐】の力を宿す女忍者。【九尾】と忍者じゃ一見繋がりはないように見えるが――某有名漫画は置いといて――、ハクメンは過去に一族を、陰陽師【
地球の伝承に於いて、【九尾の狐】は【安倍晴明】の子孫、
暗い過去を抱え、怒りと憎しみに身を焦がす復讐鬼。戦いの中で見せる壮絶な憤怒の形相と、今にも消えてしまいそうな儚い表情。《親交度》が上がってプレイヤーに心を許したとき見せてくれる、花がそっと綻ぶような微笑み。
そしてイベントでは、大真面目にハチャメチャをやらかす、キャラ崩壊待ったなしのギャップ! 特にコスプレ七変化は最高でした! ありがとうございます!
ああ、それにしても……。
「オイオイ大将、顔がにやけてんぞ?」
「あーっ。ハクメンのことやらしい目で見てるー! お仕置きだ、打ち首だー!」
「ち、違う! いや、否定もできないが、そうじゃなくて! その、だな」
まあハクメンに見惚れていたのも事実だが、今この胸を満たす感慨は別にある。
「スマホ、いや《神鏡》越しじゃなくて。こうして間に遮るモノもなく、皆と目を合わせて話している。それが、凄く嬉しいんだよ」
今もまだ心のどこかで、都合の良い夢を見ているだけじゃないかって思う。
これがただの夢オチだったら、ぬか喜びした俺はとんだ道化だ。
そうやってどれほど冷静ぶろうが、胸を熱くする感動と喜びは誤魔化せない。
たとえ泡沫の夢であれ、今この瞬間、俺は大好きな彼らと同じ大地に立っている。
どんなに馬鹿馬鹿しい気持ちだとわかっていても、そのことが嬉しくて堪らないのだ。
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