第3話:最推しの中の最愛のおっぱい枕で三回は昇天できる。


 俺はなにも、低レア縛りで《シャドウミラージュ》をプレイしているわけじゃない。

 SSRに対してアンチ的な忌避感があるわけでもなく、むしろめっちゃ欲しい。


 ただ、俺の趣味嗜好にどストライクのキャラに限って低レアばかりなだけで。

 どうせなら、推しキャラで固めた俺得パーティーを活躍させたかっただけで。


 このパーティーで、悪戦苦闘しながらメインストーリーや数多のイベントを駆け抜けた。活躍の様子を動画サイトに投稿したら、最強厨や効率厨に叩かれまくって。全力で噛みついた結果、アカウント停止を喰らった黒歴史もあったり。


 それだけ、俺は推しキャラに思い入れがあるのだ。彼らが大好きなのだ。


「クハハ! 全く大将の指揮下だと、デンジャーばっかで飽きねえな!」

「くははー! グチャグチャの挽き肉にしてやろうかー!」

「御二人とも、抑えて。この状況、主の避難が最優先かと進言します」

「お、あ、あ」


 そんな彼らが、リアルに! 目の前に! 喋って笑ってなんかいい匂いも!

 え、これ現実? 今更すぎるが、やっぱり夢オチだったりする?


 ……ア、ハイ。現実ですね。俺の貧相な妄想力じゃ、この黄金女帝様のプレッシャーは再現できっこないもの。あとハクメンの天に昇るような心地になる甘い香りも。


「フン。誰かと思えば【デュラハン】に【ベルセルク】、それに東方の女狐か。よもや、そのような雑兵どもで、我に抵抗しようなどとは言うまいな?」

「ブハハハハ! マジでゴミカス雑魚パーティーじゃん! 役立たずの《ネームレス》をパーティーに入れるとか、ありえないんだけどー!」


 デュランとベルを指差し、クソッタレ二号がゲラゲラ嗤う。


 デュランが原典とする首なし騎士【デュラハン】や、ベルが原典とする北欧神話の狂戦士【ベルセルク】。どちらも《シャドミラ》の世界では大量に出没するエネミー、つまり雑魚敵という扱いを受けている。


 エネミーを倒すことでドロップする、エネミーと同じ力を宿す二人のようなミラージュは、性能も容易に入手できるR相応の低さだ。


 英雄や神々として固有の名を持たない。そんな彼ら低レアのミラージュたちは、プレイヤーから嘲りを込めて《ネームレス》と呼ばれた。


「しかも唯一のSSRが【九尾】とか、そいつグラフィックしか取り得がないエロ要員じゃん! どうせお前も、そいつの体でシコシコ――「せいやああああ!」ぶぺら!?」


 それはそれとして、クソッタレ二号の顔面に残った方の靴をぶつけて黙らせる。

 こいつ、下品な笑いと言葉で人の感動に水を差しやがって……!


「俺の仲間を舐め腐ってんじゃあないぞ。こいつらは、俺が一番に信頼する最高のミラージュだ。こいつらを、俺たちを舐めるなよ、黄金女帝!」


 ああ、やらかした。

 またも沸騰した頭で衝動のまま、ギルガメッシュ相手に啖呵を切ってしまう。

 ギルガメッシュが笑みを深めるのを見て、後悔してもまさに後の祭り。


「ほう? 世界の王たる我に、よくぞほざいたな、小僧」

「雑魚ミラージュの影でビクビク震えてるだけのゴミが吹いてんじゃねえよ! ぶっ潰せ、ギルガメッシュ! 俺の力をカスどもに見せてやれ!」


 虎ならぬ女帝の威を借るクソッタレ二号にだけはどうこう言われたくない。


 しかし、控え目に言ってヤバイ。ギルガメッシュは単体で高難易度クエストもクリアできる、SSRの中でもチート級のぶっ壊れキャラだ。

 正直、全く勝てる気がしない……!


「――そこまでです」


 一触即発の中、突如として割って入る声。

 それと共に、俺たち四人の足下に魔法陣が出現した。

 ゲームでも何度か目にしたこの紋様は、転移魔法陣!?


「なにも、罪人の血で床を汚すこともありますまい。遠い僻地に放逐し、苦しみながら野垂れ死にさせるのが相応しい刑罰かと」


 術を使ったのは、王の傍らにいる眼帯の魔女か!?

 人をゴミでも捨てるみたいに…………ん? 今、なにか。



『――を――なさい』



 抵抗する間もなく、光に呑み込まれる。

 次の瞬間には、視界一杯に広がった青空。

 そして腹がヒュッとなる浮遊感……って落ちてるぅぅぅぅ!?


「おっと」

「ほい!」

「むぐっ」


 流石ミラージュの三人は華麗に着地したようだが、俺は無様に地面に落下。

 したはずなのに、なぜかちっとも痛くない。

 なにか、とっても素敵に柔かいクッションで受け止められたかのような?


「主? 御無事ですか?」


 すぐ間近から、俺の身を案じてくれるハクメンの優しい声。

 顔を上げれば狐面を外した彼女の麗しい顔――と、ご立派な双子山。

 ああ、ハイハイ。これ、ハクメンにお胸で受け止めてもらったわけね。


「…………うぼぁ」

「あ、主!? どこかに御怪我を!?」

「いやあ、アレだ。緊張の糸が切れたとか、そんなんだろ。うんうん」

「そうそう、そのまま寝かしてあげたらー? ニヨニヨ」


 なお、この後ハクメンのおっぱい枕で目が覚めて二度昇天しそうになった。

 ゲーム世界転生モノとか「ないわー」って思っていたが……最高だわコレェ。


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