第22話 龍神退治

 次の日、また堀さん宅に向かう。一応、仏具やお経が書かれたリシボンと言われるものを持っていく。

「八雲。頑張ってくれよ。」

その一言だけだった。重い。その言葉は、実力だけが全てのこの業界においては重たい。才能、素質を元に努力したものだけが、祓い屋をできる。


「よく来たね。さあ、始めてくれ。」

堀さんは、覚悟を決めていたようだった。柿原は呆れたようにこう言った。

「まあ、結果は変わらないでしょうがね。」

俺は、その言葉を無視して堀さんに目の前に座ってもらい、手を合わせてもらった。

 こう見えても半年前までは、普通にお祓いをしていた。基本的な手順は、吾郷の爺さんが教えてくれている。

 

さあ、始めよう。

「南無一大聖不動明王、さあ、この家に住まう龍神よ。ここの主人の体借りてお前がいることを示してみよ。」

 そう言うと、俺は九字を切り、お経を唱え始める。光明真言、十三仏真言。そしてしばらく様子を見る。


『御主よ。リシボンを振りながら般若心経を唱えてみよ。そうすれば反応があるだろう。』


リシボンを振るというのは、リシボンの端を持ち、上面を下に持っていく。そうするとページが下に降りていき、風が生まれる。この風は、清きものなので悪霊に対しては熱く感じる。

 そうすると、堀さんの体が動き始めた。いかにも蛇が取り付いてるような肩が別々に上下に動き、体を伸ばしていく。

「姿を現して来たな。さあ、その体にお前がおることはならん。この家にいることもだ。お前に出て言ってもらわないと困る。これはお願いではなく、命令だ。素直に従ってくれるな。」

 そう言うとい、堀さんの体を借りて首を横に振る。

「ならん。これは俺からの命令ではない。不動ならびに如来、菩薩の命令じゃ。」

 そうだ。この命令をしているのは、俺に力を貸してくれている如来だ。俺が命じても効力はない。

 そうしていると、堀さんの口が動き始めた。まずい……。そこそこ力が強くなると人語を理解し、こちらに語りかけてくる。

「喋るな。お前に許されていることは、俺の命令に従うことだけだ。」

そう言うと柿原が口を挟んだ。

「その方は、菩薩様だ。喋るなとは失礼だろ。」

そう言うと、立ち上がってこちらに近づいていた。

「さあ、菩薩様。あなたの思うようにお話しください。」

そう言ってしまった。


『ありがたいな、人の子よ。お前は、我のことを菩薩だと思ってここまで力を蓄えさせてくれた。礼を言うぞ。我は、龍神。この地に住まう神だ。」


柿原の顔が青ざめて来た。力も抜けている。

「そんな……。だって……、菩薩像を欲しがり……、この地を守護してくれていると……。」

『そんなのは、我の力を強めるために祈りを捧げてもらう器に過ぎない。それを全て叶えてくれた御主には感謝してるぞ。」

低音の声だ。明らかに堀さんの声でもない。ただ、何かに絡みつくような気味の悪い声。その声で少し笑いながら話しかけてくる。

「うそだ……。」

柿原はもう絶望している。自分のして来たことが龍神を育てていたのだから。


「龍神よ。お主、この家から出ていくか、この場で不動の炎で無に帰すか。選ばせてやる。」

俺は、龍神と会話をすることにした。ここまで来たら話す方が早い。

『我はこのままこの地に留まり、力を蓄えこの地の主になる。そうして我はこの国で祀られるようになるのだ。』

まずいな。そんなことを思っていると如来が語りかけてきた。


『御主よ。もう構わぬ。お経を唱えこやつを封じて行くぞ。不動の経を使い、この龍神に不動の炎を纏わせ、焼き尽くす。不動の炎は地獄の業火だ。どのようなものでも燃え尽くすまで消えわせん。』


しょうがない。

 そう思いながら、俺は不動にまつわるお経を唱えるために龍神に向けて言った。

「不動よ。この龍神を地獄の業火で焼きつくぞ。」

そう宣言し、不動のお経を唱えて行く。

 初めは、涼しげに笑っていたが、少しすると様子が変わってきた。

『やめろーーーー!!熱い!体が焼けていく!!!!』

そう言いながら、堀さんの体で転げ回る。阿鼻叫喚だ。言葉にならない声を上げている。柿原は、恐ろしいものを見ているように見つめている。

「やめてやれ!堀さんの体だぞ!そんなことしたら、堀さんにまで影響が、、、」

「やかましい。お前のせいでこうなっているのだ。」

社長が柿原の横に立ち言い放った。社長は激怒しているようだった。

「お前の愚かな行動がこの惨劇を招いた。お前はその報いを受けなければならない。目を背けずに、黙って見ていろ。」

 柿原は、うつむき気味で見ていた。


『さあ、御主よ。お経を唱えながら、リシボンを振り続けよ。此奴には、一片たりとも残すことはならん。骨も残すな。』


そう言われた。その通りだ。こういうモノたちには慈悲入らない。そう教えられた。それをこなし続けた。


 ただ、俺の中には迷いがある。

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