第19話 出会いと学び
「そうですね。一応相場の金額内でお譲りしたいとは思っていますが…どうしても如来は数が少ないので少々高くなることはご了承ください。今回の場合、この大きさは特に珍しく、人気もあるためこちらとしても商売のため、今後の相場に影響してくる額ではお譲りできませんので。」
どうしても値段は高くなるみたいだな。そりゃそうだ。国産の木を使い、一刀彫りで、優秀な彫り師がとても細かいところまで丁寧に作り込んでいる。値段的にも三百万近いだろう。
「値段は、構わないよ。いくらかな?」
社長がそういった。俺が買うのに値段いくらでもいいって…
「安心してよ、八雲くん。うちが仕入れて、その価格のまま譲るから。ちなみに分割でも可だよ。」
俺は恵まれているみたいだ。こう言うものを買う時は、現金一括しか認められない。それなのにここまでしてもらえるのだ。ありがたすぎる。
「かしこまりました。こちら275万円でお譲りします。いかがでしょうか?」
「よし235万円で買おう。」
「それはちょっと…。270万円でどうでしょうか?」
「高いね。248万円。」
「……265万円。」
「250万円じゃダメかな?」
「今後もご利用していただけるのであればその価格でお譲りします。」
初めてみた。社長が交渉しているのは。終始にこやかにしていたが、刻み方や優位に立つ方法。これから色々学んでいきたいな。
「社長、今日は本当にありがとうございました。」
帰りの車の中で頭を下げる。感謝の気持ちでいっぱいだ。こんな入社一年目の若造にここまでよくしてくれるなんて、大企業じゃありえない。
「いいってことよ。それにおそこに入れる機会に比べれば安いものだ。いちコレクターとしても話の種にもなるしね。」
なんとなく気づいてるかもしれないが、社長は仏像コレクターの中でも一目置かれている。ここまで熱心に手広く色々なものを集めて売ると言うこともあり、資産家や大物芸能人、政治家は当たり前によく店に来るし、裏稼業の人たちも来ることもある。
「それで支払いは、どうすればいいですか?」
「そうだね、2年くらいで返してくれればいいよ。新社会人だし、無理せず返してくれればいいよ。それに祓い屋をやっている以上絶対に関わりあるから、合わなくなることもないだろうし。」
確かに。この人から仏像や仏具を仕入れないといけないから、縁は切れない。
今日は家まで車で送ってくれた。ただ家からの交通手段であるバイクを会社に置いているので明日は電車での出勤になるだろう。
夜はご飯を食べた後、いつも通りのルーティーンであるタバコだ。高度成長期世界一の販売量を誇ったタバコだ。この銘柄が新幹線の色にもなったやつだ。
『御神体が見つかった次は、魂を御神体に入れて欲しい。そうすればいつでも我と意思疎通が取れるようになる。そのためにもあやつのもとに行って修行に励め。』
いつもこんな感じだな。ベランダでタバコを吸っている時に教えてくれる。なぜだろう。
まあ、いいや。修行か。楽しみだな。
『我は、なるべく御主に負担をかけたくはない。そのため落ち着いている時に話しかけるようにしておる。そのため御主がタバコを吸っている時になってしまう。すまぬ、許してくれ。』
以外に気にしてくれていたのか。こちらこそすいません。
さて、明日会社に行ったら土日だ。そこまで頑張れば、非日常の修行だ。
何するんだろ?楽しみだが、まあなんにせよ、俺の望んでいた非日常だ。それが命に関わることで会っても、俺はドキドキするんだろう。
そんなことを思いながら、ベッドに行く。社会人になってから引っ越したため、今は2LDKの部屋に住んでいる。一人では大きいような気もしていたが、なぜかここを気に入ってしまった。その他の家に住みたくない。そんな感じがしたため、ここに住んでいる。まあ、会社が7割補助してくれているから、安くで住める。
だが、今思えばこの家に住むのも後々意味があったことを、この時はまだ何も気づいてはいないんだった。
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