第18話 直感

 「先ほどの会話を聞いていなかったため、もう一度聞かせてください。本日は何をお探しでしょうか?」

まあ、そうでうよね。これでさっきの話を聞いていたら、エスパーか某執事漫画のセバ○チャンだ。

「如来の魂が入ることのできる仏像を探しているですけども…、どれがいいかわからないから色々見せて欲しいんですが、できますか?」

俺は自分の心に従った。

 最近感じているのだが、俺は自分のしたいことをしている。だがその結果、その行動が如来が良い方向へと道を作っているようにも感じた。言い方を変えれば敷かれたレールに乗っているという人もいるだろう。しかし、人生が良い方向や自分の進みたい道ならばいいと思っている。

 俺は別に親の七光りとかは気にしないし。

「かしこまりました。通常であればここに持ってきてから吟味してもらっていますが、ここは特例で管理しているところに案内しましょう。如来の力を授かっている人の前例が少なすぎますので。」

 おじさんは、俺たちを倉庫まで案内してくれた。

 倉庫には色々なものがあった。仏像に仏具、刀や曰く付きのモノだけだろうと思っていた。がこんなものがあっていいものなのか…?

「これって、本物ですか?これ本来は正倉院にあるはずの香木ですよね?」

「こちらが本物です。あちらはこれの一部なんです。本来このようなモノは歴史の表舞台に出ていいものではないのです。これらには、強い力がこもっていますので。だからこそ私たちのようなモノたちが使うのですが。」

おじさんは、何の力を授かっているのだろうか。この人はすごく強いことだけはわかる。

「おじさんは、何が降りてきているんですか?」

こういう時は、ストレートに聞く。それが俺の信条だ。

「私は、観音菩薩の力を授かりました。ここで働いている従業員たちは、観音菩薩の力を授かっていることが条件なので。」

そうなんだ。ただこの人はものすごく力が強いのだろう。


 十三仏の力を授かっている人にも力の強弱がある。それは授かった力をどこまで使いこなすかだ。詳しく言うと、同じ不動の力を授かっても一割しか使えない人間もいるが、五割使える人間もいない。だが、長い歴史の中で十割の力を使えた人間はいない。なぜなら十割使えたらその人は、十三仏のどれかに成っている訳である。ただ、そんな中でも空海は、ほぼ十割使えていたと言われている。


「こちらが如来の仏像を置いているところです。ご自由にご覧ください。」

そう言うと目の前に様々な如来を安置していた。十三仏以外の如来もある。明らかに芸術的に作られている中にも、顔が悪かったり、顔と身体のバランスが悪かったりしているのもある。

 その中に一つ惹かれるものがあった。

 大きさは本体が二尺半。台座と光背を入れると五尺ほどになりそうだ。顔と体のバランスもいい。木の香りもいい。体には装飾品を纏い、足を組み、冠をかぶる。髪を一辮髪にまとめ、袈裟を肩から掛け、腰に巻きつけている。そして、手は智拳印を結ぶ。この如来は、大日如来だ。ここまで神々しく十三仏の中で唯一冠をかぶる。両界曼荼羅の真ん中に鎮座し、この全宇宙を表す。

「これがいい。これが俺の御神体なる仏像だ。」

 直感だ。どんなに価値があろうが、作者が優れていようが、材質が優れていようが、どんなことがあろうが、これ以外のものには惹かれない。これでいい。


『そうだ。この仏像が我の魂が入ることができる。これを彫った彫り師は、不動が降りていた。その彫り師がいつかこのようなことが起こることを予想して作ったのだろう。』


そうか。この仏像はこのためにここで待っていてくれたのか。なんと言うことだろうか。

「この仏像が作られたのは、安土桃山時代後半。荒れていた時代を神を使って治めようとしていたお坊さんが特注で作らせたそうです。しかし、彫り師の方がこの仏像は別の目的のために作られたものなので、別のを献上したと言われています。その時に献上されていたのが胎蔵界の大日如来だったそうです。その後、この彫り師の一族が保管していましたが、つい先日その末代が自分の役目が終わったとして、こちらに出品してきました。」

 その人に会ってみたいな。だが、その前にこれが欲しい。

「こちらお譲りいただく際、どのくらいかかりますか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る