第13話 別れと日常へ

 俺は驚いた。違和感が全て解決した。龍神が観音になりすましていた。

 本来龍神は様々のものに化ける。時には稲荷、時には不動、時には観音。これは龍神がとても大きい力を持っているということだ。しかし、観音や不動に化ける龍神は、そのまま不動や観音になるほど神聖なものいる。


『あの美鈴という女性には観音菩薩になりかけた龍神がついている。母親についたものと同じだが、二人とも私利私欲に走ろうとしたため、龍神がそれを止めるために命を奪ったのだろう。』


 そんなことを爺さんがいっていた。龍王も不動明王になれるほどの力を持っている。

そんなことを思っていると龍王がやってきた。


『不動が言っていたことは本当だ。我ら龍神たちは人間たちとは比べ物にならないほど長い時を過ごす。その中で人間と関わった龍神たちは色々と考える。人間を助けたい。人間をもっと見たい。そう思う龍神も少なくはない。そんな龍神は力を持とうとする。しかし、不動明王や観音菩薩ほどの力を持つと一人の人間をずっと見守ることができなくなる。故にあの龍神はいまだに龍神のままでいようとするのだ。だから時々龍神の影響を受け、あのようになってしまう。』


 俺は龍王の言い分に納得した。


 その夜は、自宅で色々と考えた。どのようにするのが一番正しいことなのか。


 俺は、バイトを辞めた。その理由としては人に取り憑いているものたちが俺に救いを求めているからだ。それによりバイト先に今までの倍以上人間が来るようになり、きついからだ。


『お主は優しいからな。其奴らを無視して働くこともできるだろうに。だがそれが良い判断だろうな。近々お主の人生で大きな分岐点がやって来るからな。遅かれ早かれバイトはやめることになる。』


 人生の分岐点。何が起こるのだろう。



 その次の日、俺から不動明王がいなくなったらしい。しばらく気づかなかったが、そのことを龍王が教えてくれた。

 爺さんにそのことを伝えたが、この役目は続けろと言われた。龍王の力を使いこなせるのならその力でやっていけと言われた。


 龍王の力は、一日中使える。それにより色々な人が救える。不動の頃よりも多くの人に関わった。


 そんなことを一年続けた。大学四年生になり就職を考えることになった。もともとやりたい仕事があったからその会社を受けようとしていた。しかし、どこの会社も受からなく月日だけが過ぎて行った。


 爺さんは、このままこの役目をしていけばいいと言ってくれた。確かにこの役目も魅力的だ。ただ、俺は色んな景色が見たいから会社にも入りたいと思った。

 

「どうしようか。」

 そんなことを考えながらベランダでタバコを吸う。こんなことしてても何も変わらない。しかし、このルーティーンはタバコを吸い始めてから変わらない。タバコを吸いながら考え事をする。

 確か不動に出会ったのもこんな感じだった。


翌日、受けていた会社に採用されたというメールが届いた。この会社は、仏像や墓石を取り扱う会社だ。この会社はあの役目をしていないと就職しないだろう。


 就職が決まり、卒業する。日常だが、就職や単位が足りず卒業できない人もいる。

 

 就職した後は仕事を覚えるのに必死だった。仕入れた商品を売るという仕事だが仕入先は職人が多いため付き合い方が難しい。そんなことをしながら爺さんのところで祓い屋をする。平日は仕事、休日は祓い屋。そんな忙しい日々を送る。いつか体や精神的にきつくなるだろ。そんなことを考えながら、いつも通りの日々を過ごす。


 そんなある日、会社の飲み会でのことだった。社長から名指しで今度の販売に同行するように言われた。

 社長は新入社員の何人かを指名して、二人で販売に行くのを毎年する。



「八雲くん。君、面白いね。」

 車を運転していたときに言われた。

 社長とは仕事の日に会うが、話したことはほとんどない。

「そうですか?社長とはあんまり話したことはないですけど・・・」

 俺は動揺しながら聞き返す。

「君、仏像とかを運ぶ時、教えてもないのに正しい運び方をする。それに加えて、君が運ぶ品は一度も人の手に渡ってないものか、置物以外の使い方をするところに行くものばかりを運んでいる。」

 びっくりした。俺のことを詳しく見ていたことにだ。

「君、こっち側の人間だね。」

俺は驚いた。なんのことを言っているかわからないふりをすることをしようとする。

「何のことですか!?僕は、」

「そんな反応をするところ、若いね。丸わかりだよ。知らないふりをするなら、一回相手の誘いに乗って知ったかものを演じるほうがいいよ。」


俺は恐ろしかった。社長は30歳ぐらいだ。まだ若い。だけど変に落ち着いていて、物事をしっかりと見据えて行動する人だった。


「八雲くん、祓い屋やってただろ。」

俺は頷くしかなかった。

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