第12話 狭間に立つもの

 龍王に操られるまま、稲荷を切る感覚に包まれた。

 それにより女性の足の痛みが消えていく。女性は泣いて喜んだ。それと同時に何度も頭を下げた。

 そのあと、屋敷祓いの日を決め、今日のお礼を渡すと喜んで帰って行った。その時お守りも渡した。そのお守りは不動の魂が入っている。そのためあらゆる魔や障りなどから彼女を守ってくれる。


 俺は、恐怖に包まれていた。龍王の力に対してだ。

 この力は不動と違う。不動の力は、魔に対する容赦のない怒りや力強い感覚だ。

 しかし龍王の力はそれとは違う。なんだか力に酔いしれるような感覚だ。

 この二つの力を使った中で言うならば、不動の力はしっかりとした重みのある力。しかし、龍王の力は使っている人を飲み込む感覚だ。


「龍王の力は確かに強い。それにはっきりと俺に馴染む。だが、それが怖い。」

そんなことを口にする。普段ニコニコとしている爺さんも、その時ばかりは真面目だった。

「神の力っていうものは人に見返りを求めて強くなっていく。人の願望や祈りが神たちを作り出す。逆に、願望や祈りがなくなれば神はいなくなる。しかし、人間によって作り出した神は、消え掛ける時に怒りを覚えるときもある。必要な時には、好き勝手なことを言われ、いらなくなったら何もしない。これが神を魔に変える。だから、神は人に捨てられないように何度も願ってもらわれるように甘美な力を持つ事が多い。その甘美さに魅せられ何度もその力を望み、人間が堕落していく。」

 恐ろしい。人間は弱いものだと思った。


『人間とは勝手な生き物だ。その場だけの刹那的だ。』

 

 不動がそう付け足した。俺は、不動に会い、いろいろなことを知っていくうちに人間のエゴが嫌になってきた。

 しかし、自分も人間だ。そのエゴからは逃げ出せない。

「人間のそういう勝手さは確かに行けないと思う。でもそれ以上に、その人間を喰い物にする神も行けないとをもいます。」

 美鈴は、少しの怒りを持っていた。


「美鈴さん。それは人間の考え方です。それこそ傲慢なことだと思います。」

 二人はハッとした。いや、三人だ。美鈴さんと爺さんとおれだ。そんなこと言うはずではなかった。しかし、無意識なうちに口が開いた。

 美鈴さんは、すごい剣幕で俺のことを睨む。しかし、俺はその態度とさっきの言葉に怒りを感じていた。

 たしかに、人間は勝手だからといって喰い物にするのは悪いと思える。しかし、それは人間だからこそ思えることだ。神や不動たちは、この世に益をもたらそうとしてくれている。しかし、その受け取り手である俺たちがそれを良い悪いで判断している。


「あなた何様のつもり?最近こういうことに関わり始めたガキが何いってんの?」

 美鈴さんから怒りがぶつけられる。

「私たちが生きていく上で邪魔のものやいらないものは捨てて、欲しいもの都合のいいものや自分の欲しいものだけを手に入れる。そうやって文明は進んできた。だから、都合の悪いものや嫌なものは消していく。そういうものの上に全てが成り立っているのよ。」

 たしかに事実だ。 

 昔までの俺ならそれを受け入れて、引いていただろう。


「確かにそうです。でも、それは人間の都合だろ?俺らがそれを肯定しちゃ行けないんだよ。俺らみたいに人間と不動などの目に見えないものたちの狭間にいるものが人間側に肩入れしたら失格だ。俺らはあくまで中立の立場でいなければならない。それで人が死のうが神がいなくなることは大して問題じゃない。」

 美鈴さんは黙った。沈黙が続く。

 俺は、首を傾げた。普通なら反論されると思ったからだ。

「美鈴ちゃん、お前さんの考え方はこの職についているものなら正解だ。しかし、この役目についている人なら八雲くんの考え方にならなくてはいけない。不動明王などの力を授かったものは狭間で両者を導かなくてはいけない。人間が極端に間違った道に行かないように導き、その他のものたちがこの世界を壊すような力を使わないように導く。中立にいなければならけばならない。」

 爺さんが諭した。美鈴さんは理解しように感情を飲み込もうとしていた。そのまま、礼を言い帰っていった。


 俺は、爺さんに話があると縁側に呼び出された、飲み物とタバコをもちそちらに向かう。

「許してくれ。美鈴ちゃんがあのような言い方をしたことを。あれには事情があるんだ・・・」

 爺さんが顔を下にした。爺さん曰く、美鈴さんがここに初めてきたときの少し前に母親が死んだ。自殺だったそうだ。龍神が母親に取り付いていて、母親の会社が瞬く間に成功させた。そして、経営が軌道に乗りうまくいっていたある日、川に入水自殺をしたらしい。龍神が見返りとして母親の命をとった。警察などの取り調べに耐えられなくなり、たまたまここにたどり着き先代によって龍神が滅された。そのことにより、自分勝手な神たちに対して憎んでいるらしい。


 嫌な予感がする。不動も薄々気づいているだろうが何も教えてくれない。感づいているものはこのおかしさに気づくだろう。

 神というより人間に怒りを覚えているようにも思われる。

『あの女には観音にそっくりに真似をしている龍神がいるな。母親についていたものと同じだ。』

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