第11話 倶利伽羅龍王のつるぎ
「こんにちはー。お悩み相談できたものなんですけど、今って大丈夫ですか?」
女性の声だ。しかし、何かに怯えたような声だ。爺さんは玄関に向かう。
その間に、俺と美鈴はお茶会の片付けをして、テーブルの位置に座って置く。
「3ヶ月ほど前から、足が痛くて、病院や整体などに行っても捻挫で一時的な痛みだと言われたんですが、3ヶ月立っても改善せず、それどころか痛くなる一方で・・・調べていると、何か霊的な者が関係しているのではないかと思いここを訪れました。急な来訪で申し訳ありません。」
若い女性だった。20代中盤だろうか。俺よりも少し年上だと思う。しかし、気が弱そうで、今にも倒れてしまいそうな声だ。
事前に今日はもう午後になってしまっているため、祓うことはできないことを了承してもらい原因の救命だけをすることにした。
いつも通り、不動の像の前に座布団を引いて座ってもらい、不動の力により見てもらった。美鈴さんに頼めば簡単にできることだが、いつもいるわけではないので頼ることをしなかった。
『ほう、これは稲荷だな。だが、小さい。あまり力を持ってない。我の力ならすぐにどうにかできる。』
そう言われた。
稲荷とは、全国に多くの神社で祀らられている。五穀豊穣や商売の神とされている。神社の鳥居が赤く、数多く連なって置かれている。しかし、人が多く集まる神社などで祀られている稲荷は問題はないが、個人の家や会社などで祀られている稲荷は多くが見返りを求める。龍神ほど力があるモノは少なく、足や腕などに噛みつき骨折や捻挫をさせるぐらいだ。しかし、腐っても神としてこの世に生み出されているため、祓おうとすると抵抗はする。過去に屋敷祓いで稲荷の取り付いた仏像を焼いたとき、その火が人の服に引火し、火傷したときもあったと爺さんが言っていた。
「稲荷が取り付いているみたいですね。何か、稲荷に関係するところや稲荷に関係する者を持っていますか?」
「今勤めている職場が、神棚に稲荷の置物が二つあります。そのくらいしか・・・」
あたりだ。女性は、なんでわかるのだろうという顔をしている。ここを初めて訪れた人、ここに何度もきたことのある人でも毎回驚く。この問題の根源は、稲荷だ。しかし、家のものなら簡単にどうにかできるのだけれども、人のものや職場のものだとどうしようもできない。
だったら、自分の方を変えていくしかないのだろう。
『まずこの女性から稲荷を追い出し、不動により五体加持で障りなどを受けにくい体にし、家に不動を置き、それをご神体としてお守りを持ち歩くようにさせるしかないな。』
不動が解決方法を提示してくれた。しかし、それをするに対してぶつかる問題が一つある。金銭面での問題だ。この女性から稲荷を追い出し、不動を入れるのに問題ないかを確認するために屋敷祓いに行き、不動の仏像をいれ、お守りを渡す。加えて、ここで行う祈祷の代金だ。
仏像のものにもよるが、ざっと見積もっても40万円ほどはかかるだろう。
「この問題を解決する方法はあります。あなたから稲荷を追い出し、不動の像をあなたの家に置き、不動によって守護して行ってもらう。この方法でこれからあなたの身に起こることは変わっていくでしょう。しかし、問題としては金銭面です。僕には詳しい額は計算してみないとわかりませんのので、そこにいる爺さんに計算してもらいましょう。」
そういうと爺さんが説明しながら計算していく。順当にいくと、お祓いや祈祷の料金が7万円。不動の仏像とお守りの代金とその護身入れ料で28万円。屋敷祓いの代金が3万円。合計で38万円である。そして、今後かかってくる費用として、半年から1年に一回不動の護身入れや何か会った時にここにくるときのお礼。その話を爺さんが丁寧にしてくれた。
「それでも構いません。自分は解決する手段が一つでもあるならばそれをお願いしたいです。自分の体や命などには変えられません。ですが、その金額を一回に払うのは厳しいです。」
女性は深々と頭を下げながら行った。金銭面で苦しいため、言葉が進むにつれ声に震えが出た。当然だ。働き始めた若い女性が38万円という大きい金額を一括で払うことは難しいというか不可能だ。
「別に、お金は分割でもええよ。あなたの誠意がそのお辞儀から伝わるからの。だから、震えずに顔を上げてくだされ。」
爺さんはニコニコしながらそう言葉をかけた。女性は泣きながら何度もお礼を言った。
しかし、先ほどまでとは一転した嬉しそうな泣き方だった。美鈴さんはティッシュを持ち背中を撫でる。
『お主、その女性を今すぐ救う事ができるぞ。わしを使え。この龍王が、その稲荷退治してやろう。』
龍王だ。不動と違い年を取り、威厳のある声だ。俺は驚いた。確かに龍王は、不動に使えることもできるほどの力を持つモノだ。しかし、不動が力を発揮しにくい時間だぞ!!
『わしらは、不動とは違いいつでも力を使う事ができる。彼女は、自分にできる精一杯のことをお主らに返そうとしている。そんな彼女をすぐにでも楽にしてやれ。』
そういうと龍王はとぐろを巻いたように不動の仏像の近くにある自分の御霊石にまとわりついた。俺は、爺さんにそのことを伝え、いつもの用意をし始めた。
『俺はお主の体を借りて、倶利伽羅龍王剣を振るう。それにより魔を切る。』
そういうと俺の体に入ってきた。
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