第10話 この家の真実

「実は、この場所に住んんでいることとも関係しているのですが、私たちの先祖は戦に敗れここに渡ってきました。そんなことを知った昔からここに住んでいた人たちは、彼らのことを嫌い住む場所を無くしてしまおうとしました。そんな時にある盗みの疑いをかけられました。そのことにより当時、若かった男が処刑されてしまいました。その時の首が晒され、石などをぶつけられたそうです。しかし、ある夜にその首がある川に流されました。その後その首がどこに行ったかわからず、殺された男の霊が首を探してさまよっていると伝えられました。そして、その土地に住むことができなくなり、このトンネルを掘り、この奥の土地に移り住んだと言われています。」

 旦那さんは重たい口を閉じた。家族はその話を聞いて、驚き、顔が怖くなっています。


『昔は仕方がなかったことだ。しかし、その人間たちの仏が成仏できていないみたいだな。その事件を自分の目で見た人間とその話をこの今の世にまで語り継いだ人間が死んでなお苦しんでいる。』


 俺は、耳を塞ぎたくなる話だった。それだけもがき苦しんでいるまま今まで何百年も経っているという事実にだ。

「先生、その仏たちは首を探し続けてます。しかし、この現代に骨なども残ってないため・・・この人たちは成仏させてあげれません。」

美鈴さんが残念そうに教えてくれた。しかし、俺の中では何かが引っかかった。


 もし自分がその立場だったら、首を探すことと同時にその疑いをかけた人間を恨み、呪おうと思う。しかし、その話が一切ない。


 そんなことをしていると、龍王が帰ってきた。

『人間の体というものはこれほど小さいものか・・・まあいい少々この体を借りて、話しをさせてもらうぞ。』

 旦那さんが、先ほどまでとは違う声と仕草で話し始めた。田上さんたちや爺さん、美鈴さんまで驚いていた。しかし、俺は龍王がそこまでしてみんなに伝えようとしていることを感じ取った。


『このものたちの祖先は、仏になった後復讐をしようとした者たちがいた。しかしそんな者が出るたびある一つの者がそれを抑え、そのものを導いたそうだ。その役割をしていたのが近くにこの近くにある神社に祀られていた一葉観音だそうだ。この辺りの木の葉に宿っていたが、我らと出会い一安心して、今では役目を果たし消失したらしい。その観音はこの家の先祖だった人間によって生み出されたモノだったそうだ。』


一葉観音。その名の通り、一枚の木の葉に宿り、旅の無事を約束し、水難などから守ってくれるそうだ。

 そうか、死後の道の旅の祈願を約束し、しっかりと成仏に導いてくれたか。


「そうか。ありがとう、龍王。」

俺は、感謝を述べた。そうすると、気にするなという仕草をし、どこかへと行った。俺は、ここに残っている仏は、復讐をせず、救ってくれる者が現れるのを待っていたんだろう。その役目があったため、何もせずずっと待っていたんだろう。

 しかしその役目が終わったため、もう成仏させてあげよう。

「この家族にとどまっている仏たちよ。お前たちの役目が終わり、成仏させるために今からお経を唱える。その間に成仏してください。」

 そう言い、俺は般若心経を唱え始めた。美鈴曰く。その言葉を聞き、般若心経を唱え終わると同時に成仏して行ったそうだ。


 龍王は、このあたりの龍神は、何もしないがそれはこの家に仏や龍神がいたからである。しかし、今は龍神や仏たちがいなくなってしまいこの家は空っぽな状態である。そのためこの家に不動明王をいれ、しっかりとこの家を守護していってもらう。


『この家は、周りに龍神たちが多い。それにくわえてそんなことが先祖にあったならば多少通常の家よりも大きいサイズにせねばならんだろう。』


 通常5人暮らしの家で特に何もなければ不動明王のサイズは立ったサイズで60cmほどでいい。しかし、龍神などの障りと言われる者がいる家など、障りを受けやすい人などがいるとそれでは足りなくなる。そのため、俺たちが決めた仏像が出ていくわけではない。各仏像の中にいる不動がどの家に行くかを自分たちで決める。極端な話、僕らが護身を入れた不動がすぐ助けを求めている人の家に行ったりするときもあれば、何年も出て行かず、爺さんの家で長い年月いることもある。


 今回は、立像の肌の黒い不動明王で立ったサイズで1mほどのものが田上さんの家に入ることになった。そのため、持ってきていた仏像で一番大きいサイズになった。それに加えて、この間の龍頭観音を脇に置くことにする。しかし、この龍頭観音は時期が来れば焚き上げという行為を行い、中に封じこんでいる龍神を天に昇らせる。


 今回俺は、初めて屋敷祓いをやった。しかし、今回は、特に普通の屋敷払いで済んだと爺さんから言われた。これから、俺がこの職についたことにより、いろんな人が不動にすがって俺のところに訪れるだろう。


 帰り道、先代の話や他の祓い屋の話を聞いた。不動明王を御神体としてこの職につく人間もいるが、多くの人は、龍神が不動の真似をしているのに気づかず、この職につき、少しの間で多くの人間を救う力を貸してくれるが、その見返りとしてその人間の命を奪っていく。そのため、この職につく人間がまともな死に方をしないらしい。

 祓い屋のご神体は、この現代に至るまで、不動明王や観音菩薩の力を授かる人はいても、如来の力を授かった人間は過去に一人しかいなかったらしい。その一人は空海だ。空海は唯一大日如来の力を授かったそうだ。如来の力を人間に対して強大な力であり、天候などの自然までもを自分の思いのままにできるらしい。そんな如来の力の何千何万分の一の力を持つ不動明王ですら、俺たち人間が生涯かけてもたどり着かないほどの力を持っている。それだけ不動明王とは偉大なものなどだ。

 そんな話を聞いているうちに爺さんの家に帰り着いた。

 

 皆で縁側でお茶を飲みながら、風を感じる。その風は初夏のものとは思えないほど冷たい風だ。

 そんな中、またも新しいお客さんがこの家を訪れる。

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