第8話 最初の問題
朝目が覚めると、米が炊けるいい匂いがしてくる。
魚が焼ける香ばしい匂いや醤油の焦げるいい匂いもする。
そんな匂いをさせながらいかにも起きて飯を食えと言わんとする爺さんの声がする。
今日は、学校の日だ。帰って大学に行かなきゃならん。
「じゃ、また週末にくるな。爺さん。」
そう言って別れを告げ、バイクにまたがり家に向かう。早く帰らないとシャワーを浴びたりする時間がなくなる。急ぎ車を追い越し、車の間をすり抜け走る。
家に着き、シャワーを浴び、学校へ行く。
なんとも退屈で代わり映えのない日常だ。ただ、今日はそんな日常も目新しく見える。
「大学の入りたてみたいだな〜。三年目でまたこんな感じに思えるとは・・・」
そんなことを思いながら授業を受け、バイトに行く。
「そっちのテーブルに3名様入るから、バッシングおねがいします。」
飲食店は、客からのオーダーを取ってから、調理や配膳、片付けと大変だ。
しかし、今日はそれだけではない。いろんなお客に取り憑いているものまでもが見えてしまう。なんだよこの数。学校でも薄々気づいていたが、それを気のせいとしていたがそんなことにはできなくなってしまった。
「顔色悪いけど、大丈夫かい?八雲くん。」
店長から心配された。俺は、もうこの場に居たくなかったから休憩室で休ませてもらった。
その後しばらくしても気が晴れなかったため帰らせてもらった。
バイクで普通なら家に直で帰るはずだが、このままでは寝れない気がしたので爺さんの家に向かった。
「バイクの音がしたからきたかと思ったよ。しかし、こんなに早くこうなるとは・・・案外繊細なとこもあるんだね。」
笑いまながら言われた。こっちは悩んでいるのにの思ったが、そんな気もした。
非日常に憧れているが、怖がりというかビビリだ。しかし、俺の中でビビリはあんまり悪いとは思っていない。しかし、こう言われると、怒るというか凹む。
今でお茶を飲みながら、事情を話した。爺さんはこのことを見通していたかのように慰められた。
「この問題はこの仕事をし始めていた人が最初に出会う問題だな。見えないはずのものが見えたりしたり、感じないはずのものを感じたりするとどうしても嫌になってきてこの仕事を辞めたくなる。先代もそうだった。その前の代の方もそうだった。無論わしもそうじゃ。」
爺さんたちもそんなことがあったんだ。加えて、ここ最近先代の人についてよく話を聞くが、誰なのかも知らない。まあ、今度聞いてみよう。
「じゃが、お主はまだマシな方じゃぞ。6年ほど前からか、当時15歳ぐらいじゃった頃からここにきている女の子がいてのう。その子はそれらがはっきりと見えていてのう。先代が不動明王に聞いたところ、観音菩薩が降りていてな。観音菩薩は、霊視をするには最適なのじゃが、全てを受け入れる方じゃから祓うことができんくてのう。彼女は苦しんでいたよ。」
そんな人もいたのか。しかし、こんなものが見えても対処できないんじゃ、その苦しみは俺以上なのかもな。
「観音菩薩は、全てを受け入れてしまうんじゃよ。じゃから、神や仏たちから付きまとわれていた。その当時ここにきたときにはいろんなものを溜め込んでいてのう。先代も苦労していた。しかし、観音菩薩がついているから自分の身の回りに不幸なこと起こらず生活はしていたらしい。」
そんな話を聞きながらも、俺はそんな時の対処法を聞いた。そしたら案外簡単な対処法があった。不動明王の真言を唱えるだけであった。聞くと、不動明王が四六時中俺を守護していてくれるのだからその力を使えばいいだけだった。しかし、それができているのは不動明王が降りてその力を使えるものだけだそうだ。不動明王が降りているだけの人は、力を使えないため意味がないそうだ。家に不動明王を置いている人は、家に帰れば勝手に祓ってくれるそうだ。
『我を呼び出せばそんなもの簡単に祓えるから心配するな。』
不動から言われた。
その後の生活は、今まで通りの過ごし方ができた。不動が何事もない平穏な日々を過ごさせてくれた。
そして、田上さんの家に屋敷払いに行く日になった。
「すげー道だなー、ここ。なんでこんなところに住んでんだよ。」
明らかに人力で掘ったであろうトンネルで乗用車がやっと一台と売れるほどの車幅だ。それにそのトンネルを覆い隠すように森が広がっている。こんなところに住まなくても、もっと手前に土地があるのになぜこの山奥に住むのだろうか。
到着すると、田上さんたち夫妻と子供さんたちに迎えられた。
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