第4話 不動明王の姿とそれにすがる人々

 家の中に初夏には似合わない涼しい風が通り過ぎて行く。昔ながらの畳の部屋の真ん中に暗めの大きいテーブルが置かれている。ほのほかの置かれるものがあまりにも衝撃がありすぎて他のものが目に入ってこない。奥の仏間に色々な仏像や神具などが置かれている。

 「すげー、こんなの寺とかでしか見たことないわー。」

あぐらをかいたまま見ほれている。7mほど座っているところから離れてはいるが何か感じるものがある。

「ここにあるものはいろんな縁が重なって揃ってきたものを何人もの人が受け継いでいったものじゃ。近くで説明しよう。」

 そういって二人で近づく。真ん中には2mは超える半跏像と呼ばれる青不動明王が鎮座されている。半跏像とは何かを腰にかけた時、片足であぐらをかき、もう片足を下ろした形である。

 その脇侍には先ほど言われた。矜羯羅童子と制咜迦童子が鎮座している。この3体でセットらしい。

 「なんか怖い顔してますね。不動明王というのは。何かに怒っている感じが・・・。でもどこか僕たちを見てくれている感じもする。」

 爺さんは驚いている。しかし、嬉しいように声高らかに笑った。

 「久しぶりじゃの〜、こんなに嬉しいのは。一目見て憤怒と慈悲を見抜くとは。80年生きてきて初めてじゃ。」

 聞くと、不動明王は大日如来がこの広い宇宙を見守る中、人間をすべて見るのは難しいため不動明王を生み出し、人間界を見張るように命じたらしい。その中で魔を払い、人々を導くことが不動明王の役目らしい。そのため、魔に対しては憤怒の顔を、人には慈悲深い顔を表す表情になって表されているそうだ。

 「ん?誰か来たみたいだな。」

 『お主、早速やるべきことができたな。』

 なんのことかわからないまま、ここを訪ねて来た人迎える。

 聞けば古くからここに来ている人らしい。

 「有吉さんたちは、運がいいの〜。久しぶりに先代のような人がおっての〜。今日初めてここに来てくれたんじゃ。」

 有吉さんたちは喜んで、俺の方に近寄り俺の手を強く握りしめ、お礼を言われた。しかし、俺はというとキョトンとした顔をしていた。

 しかしそんな顔もすぐに消えた。


 何かおかしい。この清々しい自然に囲まれた中で、何かおかしなものが紛れ込んだ雰囲気がする。 

「吾郷さん。何かおかしい。この人たち2人じゃないです。もう2人いるはずです。」

 俺以外の人たちが驚いた。

「よくわかったの。そうこの人たちは二家族で来ていてもう一家族いるよ。もうすぐつくみたいじゃ。」

 そういっていると二人人影が見えた。女性は普通だが、男性の方が明らかにおかしい。なんとも言えないが、何かおかしい!

 「ようこそお越し下さった。ささ、なかでお話を聞きましょう。」

 先ほどの部屋に入り、爺さんがお茶やお茶菓子を人数分出してきた。

 

 もう一つの家族は、田上さんという5人家族らしい。話によると、ここ数年自分の家族にあまり良くないことが起こったらしい。大怪我や空き巣、病気や子供さんたちの人間関係、さらには長男さんの人が変わったように消極的になったらしい。いろんなことを試したが効果はなく、有吉さんに相談し、ここにきたらしい。


『ふむ。なるほどな。この家に龍が取り付いているな。』


俺は、びっくりした。悪魔憑きのことは知っていたが実際に目にしたのは初めてだったからだ。

 爺さんが何やら座布団を用意し始め、仏間の前に僕を座らせ、その少し離れたところに奥さんを座らせた。そして俺に古ぼけた和紙を僕に渡した。

「この中にはお経が書かれている。いわば経典だ。あとはお不動様に言われたようにやって見なさい。」

 そう言われその場にいる人たちが俺の方を見た。

 えっ・・・。何・・?俺・・・?無理無理無理無理!!俺に何をしろっていうの!?

「僕には無理ですよ!!何をしていいかもわからないんですよ!」

慌ててそういった。有吉さんと田上さんたちは、うろたえている。しかし、爺さんはいった。

「始めは何何もわからんよ。だから、お不動様に聞いて見て見なされ。そうしたら教えてくれるよ。」

 こうなればやけだ!とはいかない。ただ、爺さんの優しい微笑みや二家族の不安そうな顔を見て思った。

 この人たちは手を尽くして、今ここにいる。不動明王に頼るしかなくてここにいる。

 なんども深呼吸をして心を落ち着けた。


 「不動よ。俺の目の前にいる田上さんの家族を救う方法を教えてくれ。」


 『うむ。わかった。』


そういうと俺の頭に語りかけてきた。みんなの表情が戻り、興味深く手を合わせて見守られる。

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