迫りくる、危機?!
かばんさんの様子に、何もできないのだと、悟っているから。
窺い知れるのは。
かばんさんの傷心は、今の自分たちではどうにもできないほどなのだと。
諦めもある。
僕もまた、どうしようもなさに頷くしかなかった。
「だから。」
「元気になるためにも、ご飯、食べるですよ。」
「!」
せめて、何かためになるならと、二人のフレンズは言い。
朝ご飯をかばんさんの前に置いて。
そう、それが救いになるならと、祈りもまた、添えて。
「……。」
僕は頷き、配膳された料理を前に、静かに手を合わせる。
いただきます、そう願うのもあるが。
二人のフレンズが、傷心のかばんさんに祈るなら成り行きで僕も祈りを添えて。
そうして、朝ご飯を、三人と一緒に口にした。
その後は、それぞれに分かれて動くみたい。
アフリカオオコノハズクとワシミミズクは。
昨夜聞いた僕の言葉、他のフレンズに伝えるために飛び立つよう。
僕は、……どうすることもなく、この研究所にいるしかない。
もちろん、かばんさんも一緒なのだが。
かばんさんは、食事を採ったにもかかわらず。
元気になるには至らなかったみたい。
寂しそうにしながら、研究所の奥に行ってしまった。
「……。」
元気付けられることはないか。
思って、僕はそっとバックパックに手を出し、記念楯を取り出し、撫でた。
《……多分、君の考えているようには、行かないかも……。》
「!」
僕の手にある、通信機が輝きながら、言ってきた。
「……ええと、元気付けるのに、これを使ったりとか……。」
《……できるかもしれないけれど、それはまやかしなんだ。痛みを一瞬忘れるだけで、痛みを取り除くことではない。》
「!……?」
目をやり、虎猫に言うことには。
そう、この楯を使って、サンドスターを浴びせたりしたら、元気になるかなとか。
虎猫は、寂しそうに言うのだが、僕はよく理解できず、首を傾げて。
《……ああ、その顔は……。そうだね、身体に傷が付いた、それもとっても深い傷が付いたとしよう。》
「!あ、うん。」
困ったように、虎猫は頭を掻くと。
分かりやすいように言葉を噛み砕いて言うみたい。
《俺が与えた、サンドスタージェネレーターは、確かにいわゆる〝輝き〟を生み出して場合によっては、君の考えている、元気にできるかもね。》
「!」
《でもそれは、深い傷があって、処置されていないのに、痛みを止めるための薬を塗布しているに過ぎないんだ。傷口は、開いたまま。つまりは、血を止めたりという、治療したわけじゃないんだ。》
噛み砕いた言い方は、傷の例であり。
言い進めていくなら、僕が持っている楯は、痛み止めでしかない。
一方で、かばんさんは酷いケガをしていて。
それじゃ、治したということにはならないと。
《だからさ、俺たちじゃ、無理かもしれないんだ。そもそも、あれほどの傷心、一体何があったのか、俺たちは知らないし。》
「!……そっか。」
結論に、虎猫が言うなら。
無理だとして。そも、僕たちはよく知らない。
僕だって、あの夕焼けの時、かばんさんを見たのが初めて。
……その時に、傷付いたのだろうと思うけれど、何があったか分からない。
「……。」
僕はその場面しか知らない。
だけれども、あんな、傷心な様子、嫌でも心配になるし。
僕は、だから通信機から顔を上げて、そっと、研究所のどこかを見据えて。
軽く、祈る。
祈るしかできないけれど。
元気になりますようにと。
そうなれば、いいかなと。
《……そうするしかないな。》
「!……。」
通信機から、虎猫が言ってくるなら、やはりと。
頷いてもいる様子から、僕もそうだねと頷いた。
「……?」
そんな折、祈りが届いたか?何かが慌ててくるような音を聞く。
「た、たたたたた大変です!!!」
「き、キュルルたちが……!とんでもないことを……!!」
「?!」
誰だと思えば、二人のフレンズ。
耳を立てて、見渡せば、慌ただしくリビングを通り過ぎようとしている。
フクロウだと、慌ただしい音を立てることはないのに。
その慌てぶりは、違和感を覚えてしまう。
「……。」
思うに、祈り届かないと。
これは、……元気付けることじゃない様子。
むしろ、トラブルかも。
《……トラブルだね。行こう。》
「!……うん。」
その様子から、虎猫は静かに言う。
僕も頷くなら、バックパックを手に取り、背負っては立ち上がり。
二人の後を追う。
追って、廊下まで出たなら。
「!」
別方向から、扉が開く音がして。
慌ただしい音も、遅れて響く。
やがては、僕のいる方向にまで、戻ってきていて。
見れば、人数が増えて、そう、かばんさんが、二人のフレンズを伴って来た。
顔は、……あの時と違う。
けれど明るくはなく、むしろ、二人から聞いた話で。
青冷めていて、余計に暗い印象を受けたかも。
その、キュルル……って人が、何かやったらしいかな。
それを二人から詳しく聞いて。
何かに気付いたみたい。
「!」
すれ違いそうになるなら。
「ベンガル!お前も来るですよ!」
「お前のような力が必要です。」
「!……。」
声を僕に掛けてくる。その言葉に、並々ならぬ予感がして。
僕を必要とするほどとは、予想されることには、とってもよくないことのよう。
僕は、詳しく知らないにしても、その切迫した様子に、静かに頷いた。
慌ただしく、僕ら四人、駆け出すなら。
「!」
だが、そのまま走って行くわけではないようで。
かばんさんは、出入り口から別の方向に行くと、シャッターを開けて。
また、ガチャガチャ慌ただしい音を立てて。
止まったなら、大きくエンジン音が響いてきた。
何か、乗り物を持ってきているかのよう。
僕は、何だろうと注目すると。
シャッターの先から現れたのは、バスだった。
「……皆乗って!急ごう……。……サーバルちゃんがっ……!!!」
「!」
スピードを上げて、門の前まで付けるなら。
かばんさんは、顔を覗かせては僕らを乗るように言ってくる。
その表情は、昨日のそれではなく、必死の形相と言える顔で。
「!……。」
躊躇さえ、僕はそんな時見せられない。
その言葉の通り、僕は率先してバスに乗り込むことに。
また、二人のフレンズもまた、ふわりと飛び乗った。
そのタイミングで、かばんさんは思いっきりアクセルを踏んだ。
「?!」
席に着いたか分からない。
そんなタイミングでそうされるものだから。
僕は身体がバスの中で吹っ飛びそうに。
慌てて、何かにしがみついて、安定を取って、安堵した。
「……。」
その状態で、何事と思考巡らせながら、運転席を見たなら。
「何てことをっ……。っ!!!サーバルちゃん……!!!……っ!!」
必死そうな声を漏らし、時折、嗚咽に体が弾んでもいて。
「……っ!!!」
軽く息を履いたなら、その嗚咽も涙も、吹き飛ばすようにスピードを上げた。
「わ、わぁ!!」
バランスを僕は崩しそうになるが。
身体は、フクロウのフレンズ二人に支えられた。
「……ほっ。」
少し安堵して、慌てた思考を冷静に戻して。
「……ええと。」
後ろから支えてくれた二人のフレンズを見ては、一言漏らす。
「……一体全体、何があったんです?」
質問もして。
二人は。
「……それが。」
「忠告をしに行ったのですが、時すでに遅しです。」
「?!まさか……。」
二人は、気まずそうな顔をこちらに向けてきて。
その様子に、僕は緊張に唾を飲み込んだ。
まさかと、思ってしまう。
そう、時すでに遅しに、皆食べられたとか、想像するに、顔が青くなりそう。
「ライブ会場が、出来上がっていて、もうすぐライブを始めると。」
「忠告はしたのですが、キュルルが聞かない。何せ、皆を元気にするのには、PPPのライブが必要だと押し通して。」
「!……。」
二人の次の言葉を待てば、ライブ会場が出来上がっていると。
おまけに、中止にしようにも、例のキュルルとやらが聞かないと。
様子に、……食べられたという報告ではない。
ただ、放っておくと、危険だと言わざるを得ない。
それなら、これほど真剣になるのも頷けた。
「……パークの危機、ですか。」
「その通りですよ。」
「察しがいいですね。」
頷いた向こうに、導き出された僕の言葉は、まさしくそれで。
二人からは、その通りと頷かれた。
見て、僕はより緊張に、きっとなり、かばんさんが向く方を同じく見た。
かばんさんは、必死な様子で。僕らを見ることはなく。
アクセルを踏み続け、バスは加速をしていく。
「……!」
耳がいいからか、僕の聴覚は捉えるのは。
エンジンかモーターが、悲鳴を上げているかのような音を立てて。
そうであっても、急ぐ。
顔は見れないけれど、その必死さをそうやって訴えているみたい。
「……。」
突き動かすのは、何だろう。
傷心の身体であってもなお、動く。
虎猫からもらった楯の力ではあるまい。
それ程、突き動かす何かがあったのだろう。
残念ながら、僕の考え及ばないところであり、静かに見守るしかない。
バスは、特急電車かと思うほどの速度を上げて。
悪路を突き抜けて、あっという間に、あの砂浜へと辿り着く。
そう、僕が最初に見た砂浜。
しかし、せいぜい砂浜の向こうに、廃墟が転がる程度であったはずの砂浜は。
綺麗に飾り立てられ、海との境目には、一際大きな構造物が備えられていた。
そうだね、ステージだ。
廃墟を覆い隠すかのような。
何のステージか、よくよく見れば、〝PPP〟と書かれてあり。
そう、フクロウの二人が言っていたね、アイドルの。
それが設けられて。
また、観客席もあるなら。
ステージの始まりは今かと今かと待ちわびるかのよう。
現に、楽しみにしてか、何人か人がいる……。
……いや、フレンズか。
そうなると、〝輝き〟がこの場に滞留するのでは。
「?!ってわぁ?!」
「くっ!!!遅かった……っ!」
滞留する以前に、それを見たかばんさんが、何を思ってか。
急激にバスのブレーキを掛けるものだから。
僕はまた、反動に飛ばされそうになってしまう。
今度は、何とか自分一人で耐えたけれど。
停車するなら、何事と思い、かばんさんを見れば、やはり青冷めてもいる。
「……。」
僕は、冷静に見ていると。
「……何てことですか。」
「もうすぐ、ライブが始まります。止めようにも……。」
二人のフレンズもまた、青冷めているよう。
ちらりと向けば、余計にまずいといった様子であり。
「……サーバルちゃんっ!!!」
「!!」
それが招くことを知っているからこそ、かばんさんは言って、駆け出した。
僕ははっとなり。
また、追うように二人のフレンズも飛び出す。
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