お食事の前に、サーバルちゃんみたいに

 「ああ、食事の前に。」

 「これを着るのです。」

 「?!えぇ?!何で?!」

 かばんさんが住む建物の中に入るが。

 玄関に至ったところで、いきなり二人に言われてしまう。 

 僕は、何事といってしまうが。

 「タダで食事を採らせるのも、何だかですね。」

 「この際、同じ猫ですから、考えが浮かび上がりましてね。」

 「?!……。」

 無料で提供するだけでは、飽き足らず。

 二人はどうも、僕に何かしてもらうつもりらしい。

 「いいですか?」

 「いいですね?」

 「!!……ぬぅ。」

 そのために、僕を覗き込みながら言い、僕は不本意ながら頷くしかない。

 「では、これを着るのです。」

 「安心してください。同じネコ科の服ですから。あなたにもきっと、合うはず。」

 「!」

 ならばとして、僕に提供する交換条件は。

 どうも、何かの服を着せるためのよう。

 アフリカオオコノハズク……ええと、博士と呼ばれていたかな、は。

 そうして手を後ろに回しては、何かを取り出して。

 一体、あの体のどこに、そんな物が存在しているのか、甚だ疑問だが。

 残念ながら、僕にその全てをお話してくれる様子じゃないみたい。 

 では仕方ない。

 それで、僕に着せようとする服を覗けば。

 「……?」

 僕の服に近いが、何か違う。

 砂漠の色に近い風合いで。

 斑点模様もある。僕の着ている服とは、違うっぽく。

 何だろうと疑問に、首を傾げた。

 《!……注文の多い料理店?……じゃ、なかったか。ごめんよ。……どうやら、その服装はネコ科動物のフレンズ用だけど……。〝サーバルキャット〟かな?》

 「!」 

 答えは、虎猫が教えてくれる。

 どうやら、僕と同じネコ科動物のフレンズ用らしいけれど。

 ああ、その前に言ったことは、スルーしておくけれど。

 では、何でまたと僕は思ってしまう。

 「?何ですか?その〝ラッキービースト〟は。」 

 「我々の知っている物とは大違いです。」

 「?!……?」

 一方、二人には僕の腕にある通信機が気になっているらしく。

 その驚き様に、僕は困惑も示した。

 「……まあ、聞きたいことは後で聞きましょう。それよりも、着替えましょう。それでかばんを元気付けるですよ。」 

 「我々も、あのままのかばんを見るのは辛いのです。」 

 「!……ええと、あ、はい。」

 気にはなったが、だが、それ以上に予定があって。

 二人は僕をそうして急かしてくる。

 言い様に、どうもかばんさんを気にしているらしい。

 翻ってそう言われるなら、僕は、戸惑いながらも頷いて応じる。

 応じて、僕は手渡された服を手にして。

 「この部屋を使うのです。」 

 「!」

 これから着替えようとするタイミングで、僕は博士に案内された。 

 頷いて、その部屋へ入る。

 無機質の、基本何もない部屋だけど。

 着替えるには十分だったし、確認のための姿鏡もある。

 僕は、言われた通りに着替えようと。

 バックパックを起き、服を脱ぎ、手渡された服に袖を通して。

 再び、バックパックを手にして、姿を鏡に映すなら。 

 「?!~~~~!!」 

 途端、僕は恥ずかしくなり、赤くなる。

 映された姿は、女の子のようで。

 斑点模様のスカートから、僕に近い感じがしても、やはり異なる。

 僕は、サーバルキャットじゃないもん。 

 違和感バリバリに、僕はそう感じてしまった。

 「……。」 

 こんな状態に、救いを求めたくもなり、つい通信機を見たけれど。

 「?!」 

 いつの間にか、静かになっていて。僕は愕然としそうになっていた。

 救いがない、……のかな?

 「遅いですよ。」

 「かばんを待たせてはなりません。」 

 「?!ひぅ?!えぇ?!」

 部屋の外にいた二人は、戸を開けたなら僕を見ては、急かしてきて。

 「ふむ。」

 「違和感なんてないですよ。お前は立派な〝サーバルキャット〟です。恥ずかしがらずに、胸を張って登場するといいです。」 

 「?!うぇぇぇ?!」

 それが、着替えが遅いものだろうとしてだったが。

 既に着替えている様子であったと悟るなら。 

 二人は僕が恥ずかしがって出られないと思ったらしく。 

 勇気付けるように言ってはくれるけれど、僕が掛けて欲しい言葉じゃない。

 僕は、救いないこの状況に。

 混乱が祟り、目を回してしまいそうになった。

 ……でも、僕を逃してくれるわけもなく、僕は引きずられて。

 それこそ、僕の両脇を掴んで。 

 向かう先は、光漏れる部屋のよう。

 先は、リビングルーム。簡素だけど、大きな食卓用テーブルがあり。 

 料理はないがため、簡素さに磨きが掛かり。

 そのテーブルの側には、夕方見た帽子の人が座っていた。

 かばんさんだ。

 俯いたまま、僕の登場であっても、見ることもない。

 それが気まずい雰囲気としてしまい、僕は逃げ出したくもなる。

 けれど、両脇を二人のフレンズに掴まれていて、叶わない。

 「さあ、これを。」

 「お前がして、かばんを元気付けるのです。」 

 「?!げ、元気付けるって……?!え、これ?」

 掴まれていた腕は、離されて。

 自由になるものの、それには別の目的があると二人は言いながら。

 何かを手渡してきた。

 手紙?というか、雑な紙に文字を書き連ねたものだけど。

 それを読んで、かばんさんを元気付けろと。

 「……ええと。」 

 致し方ない状況に、僕は読むしかなく。

 「……わ、わ~い。す、すっごーい。ね、ねぇねぇ、か、かばんちゃん、げ、元気にしてた?ご、ごめんね……。こ、これからも、ど、どうぞ、よろしく……ね?」

 読んでみたが。

 「……ザ・棒読みです。」

 「……ぜんぜんダメですね。サーバルとはかけ離れているのですよ。」 

 「!!うぅぅぅ……。」

 超、ダメ出しを受けてしまう。

 自然とした流れでもないこれは、致し方ないが。

 僕としては、一体全体何をされているのだろうかと思い。

 挙句頭を抱えて、蹲ってしまった。

 ショックもある。 

 「仕方ないですね。」

 「余計にかばんが暗くなってしまったのです。」

 「それじゃあ、料理にするです。」 

 「それがいいですね。」 

 「……。」

 一方、僕の側にいた二人は。

 勝手に話を進めているみたいで。それも、料理にして元気付けようと。

 僕は、度々、無力感を感じてしまい。 

 そもそもと思うに、最初からそれがよかったんじゃないか?

 僕のは徒労に終わったと、感じてしまった。

 「じゃあ、客人。」

 「早く元の服に戻してくるのです。お前はやっぱり、イエネコのあの柄が似合っているのですから。」

 「!」 

 それならと。

 言うことには、僕にまた着替えてこいと。

 この服に着替えたことが、徒労にも思えてならないけれど。

 何よりも、褒められたように思えてと僕は顔を上げた。

 あの、ベンガルを思わせる服が、似合っていると。 

 それだけで、何だか嬉しくもなる。

 「どうしたのです?」 

 「い、いえ。では、着替えてきます。」 

 「変なフレンズです。まるで、人間みたいですね。」

 「!……あはは。」 

 不思議に思われ、色々聞かれるが。

 僕はまた着替えてくるとして、苦笑しながら去った。

 

 着替えて、また荷物を背負って来れば。 

 「!」

 簡素な部屋であったが、違いに香ばしい香りがあり。よく鼻を動かして嗅ぐ。

 見れば、テーブルには人数分の料理が置かれていた。

 「ふんす。」

 「我々が腕によりをかけて作ったのですよ。ふんす。」

 「絶対に美味しいと言わせますです。」 

 「!!……。」

 リビングに戻ってきたなら早速とばかりに、二人は言って胸を張ってくる。

 どうやら、二人が作ったらしい。

 よく分からないけれど、香りから美味しそうだ。

 「さあ、食べるですよ。」

 「お前も、腹を空かしているんじゃ、話もできないでしょう。」 

 「!あ、はぁ……。」

 立ち止まっていたなら、僕は二人に誘われて。

 つい、ぼんやりしていた僕は、反応が遅れてしまい、曖昧な返事をしてしまう。

 誘われるまま、席に着くなら、バックパックを降ろして。

 「……あ、あの、ありがとう……ございます。」

 僕は、気付いて、忘れる前にとお礼を言う。

 「気にするな、です。」

 「困難は群れで分け合え。誰かが困っているなら、助けたまでです。」

 「……あ、はい。」

 二人は気にしないでと言い、同じく席に着いた。

 「……。」

 「!」 

 かばんさんも俯いたままだが、美味しそうな料理を前にしているのに。

 だが、心は弾まない様子。

 「……。」

 僕はよく知らないけれど、こうなる背景には。

 きっと強く心を痛めることがあったに違いない。

 また、明るくしようにも、僕が提供できる話題はない。

 「……博士、ここは。」

 「まずは、明るくしますですよ。折角、客人がいるのですから。」

 「……では、客人の話を聞きましょう。不思議なラッキービーストと、鞄を背負った、見たことのないフレンズの話。できますね?」

 「!えぇ?!」 

 にもかかわらず、二人は僕に話を振ってくる。

 そのために僕を見ては、顔を覗き込むように。急かして。 

 困ったことになった。提供できる話題が、明るくないのに、どうしよう。

 「……何でもいいのですよ。」

 「簡単です。自己紹介から始めても構いません。」

 「!……えぇ~……。」 

 促されるし。

 おまけにまるで、面接みたいに思えてならない。

 「……うぅ。」

 困ったこと変わらずに、僕はそうされると躊躇いが。

 致し方なく、目を瞑り、言葉を選ぶように思考を巡らせて。

 目を開くと、もう仕方ないと、その口を開くことにした。

 「ええと、僕は……。」

 「ふむ。」

 「ええ。」 

 「!……。」

 「!……う、う~と。」

 開いたその時、注目が僕に集まって。

 また、それが功を奏するか、かばんさんもまた、僕を見上げて見つめてきた。

 悲しい瞳であっても、見つめてきて。

 その様子は、自分がそんな、悲壮の只中にあっても。

 なお誰かのために手助けしようとしているようでもあった。

 純粋に、助けたいという感情が、見受けられて。

 だからこそ、僕を見据えて、聞き入ろうとしてくる。

 そうなると、僕は言葉に窮しそうになる。

 明るくはない話だし、もしかしたら、危険な目に遭うかもしれない。

 僕が持っているのは、パークの危機というお話だから。

 「……。」

 言うしかないか。

 その言葉を待っていそうだから。

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