序曲『魔女の息子』(5)
そっぽを向きついでに、少し高くなり始めた鼻を窓に向ける。楽しそうに体を揺らすポプラにも、その上で喉自慢をするエナガの
夢を持てずにいること。それがセシルにとって悩みと言えば悩ましくもあり、どうでもいいと言えばどうにも考えたくないことであった。
「それじゃあ、近い目標をあげるわ」
「いいよ、別に。母さんみたいな真似をしなくても」
つんけんする口ぶりとは裏腹に、碧の瞳はちらとリアを盗み見ていた。そして少女のふっくらした口元が、震えてまごついているのを偶然見てしまった。リアが言いにくそうにしているのは初めてだった。彼女が何を言わんとしているのか全くわからない。
不思議な緊張に唾を飲み込んだ。どこかよそよそしい奇妙な沈黙だった。
「お願い、セシル」
一粒の涙と共に、言葉がこぼれた。
少年は度肝を抜かれた。嫌な話題から逃げていた事も忘れるほどに。
「わたしに会いに来て。モルフェシアに」
「泣かないで、リア! どうしたのさ、急に? ねえ、理由は?」
「わたしたちが出会えば、運命が変わると思うの。お願い……!」
少年は訳も分からず、同じ質問を繰り返した。しかし返ってくる答えも全く同じだった。
どちらも譲らぬ押し問答の結果、根負けしたのはセシルの方だった。
「わかったよ。きっと会いに行くから。でもいきなりは驚いたよ。リアはオレの頭の中にしかいないと思ってたから」
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