序曲『魔女の息子』(4)
小さく口を尖らせるリアにセシルは食いついた。軽く口笛を鳴らすと、ベッドの上で散らかっていた新聞が自らひらりと彼の手のひらまで飛んできた。それを鏡に向かって突きつける。
「飛空艇! 新聞のこれでしょ? 定期便ができるってやつ! それがダ・マスケに来るの?こんな山奥に?」
「ここには来ないわ。でも、コルシェン王国には行くわよ」
「ここだってコルシェンだけど?」
「こんな山奥には来ないわよ。ベッカ空港よ」
と言いながら、リアは空中に光の地図を描いて見せる。
器用なことに、セシルに向かって正面になるようにきっちりと鏡映しだ。
「そうしてここから夢追い人の国モルフェシア公国までひとっ飛びするの。どう? 楽しそうじゃない?」
「行きたい! 一回、乗ってみたかったんだ、オレ!」
「セシル! うるさい!」
興奮した矢先、扉の向こうからメアリーの叱責が飛んできた。
二人は顔を見合わせ、肩を竦め合った。
しばらくして踵の音が遠ざかると、またもそろって胸をなでおろす。
「あの母さんが、なんていうか知らないけどさ」
少年少女はどちらともなく噴き出した。それがにわかに収まると、リアは光の地図をそっと吹き消しセシルの瞳をまっすぐに見つめた。
なんだろうと、少年も同様にする。
少女のまなざしは、こんな風にたまに大人びることがあった。
「セシル。あなた、もう学校に行く年になったのよね」
「まあね。でもこんな田舎の学校じゃやることなんか変わんないよ。ハーブの調合にクリームの作り方だろ。あとは箒で飛ぶぐらいか。前時代的なことばっかりでつまんない」
口を曲げる少年に対して、少女は真剣だった。
「ダ・マスケでやりたいことが無いんだったらつまらなくってもしょうがないわ。大丈夫、夢の一つや二つあれば、どこでだって、なんだってできるわよ」
「あればね」
セシルはまたか、と乱暴に引いた椅子に腰かけ、机に顎肘をついた。
「そう簡単に見つかるものなら、とっくに見つけてるよ」
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