序曲『魔女の息子』(2)
さて、セシルは何度もこの素敵なリアという友だちを家族に紹介しようと試みた。
「これ、リアだよ」
「いいや、これは鏡だよ、セシル。そしてこれは、鏡に映ったセシルだ」
父のモーリスは優しく諭すと、鏡を指差す息子の小さな頭を撫ぜた。
そうじゃないのに。少年は納得のいかない気持ちでいっぱいになった。
「これ、リアだよ」
母のメアリーはもっとひどかった。突然涙を溢れさせてセシルを抱きしめた。いったい何が悪かったのかわからなくて、セシルはとても悲しい気持ちになった。大好きなリアを大好きな家族に会わせたいだけなのに、どうしてこうもうまくいかないのだろう。
母親と一緒になって泣くセシルを、鏡の中で心配そうに見ているリアがそこにいるのに。
それからメアリーは、三日間寝込んでしまった。
だが、メアリーとセシルの世話をしに来てくれた祖母ヴァイオレットだけは別だった。
「これ、リアだよ」
三歳のセシルは少し考えた。
鏡だけでなく、食器棚のガラスや窓ガラスなど、リアが現れる全てのものを指差した。
それは、ヴァイオレットのブローチに姿を見せた少女を指差したときだった。初老の女は孫の小さな手のひらをその手で優しく包み込み、膝をついて顔を覗き込んでくれた。
「セシル。友だちを紹介してくれて、ありがとう」
「おばあちゃんには見えたの?」
喜ぶ孫に祖母はやんわりと首を振った。
「なあんだ」
しぼむ気持ちのままセシルが項垂れるとヴァイオレットは彼の顔をほっぺたごと持ちあげた。
優しく見つめてくれる紫の瞳には、リアではなく自分が映っていた。
「すまないねえ。けれども、いないと思ってはいないよ」
「ほんとに? ほんとにリアはいるんだよ! ぼくとおんなじかおのおんなのこなんだ!」
ヴァイオレットの口元がきりりと引き締まった。
「セシル、よくお聞き。友だちの言葉にはよくよく気をつけなさい。その子が鏡の国に住んでいるのならば、特に」
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