第4話 こうして彼は少女と出会った
彼はしばらく歩き続けた。見たこともないものが溢れる世界に、興味を抱き、恐れおののき、野心を燃やし、歩いた。
そして、彼はほどなくして、ある事実に気がついた。
「……ここはどこだ」
今さらになって、ひなぎくの言葉が思い起こされる。
――『道に迷いやすいので気をつけてくださいね』
「ぐっ……。人間どもめ。さては魔族にとって迷いやすい魔法か何かを街全体に付加しているのだな。小癪な……!」
当然そんな事実はないのだが、自分自身の能力にそれなりの自信を持っている彼からすれば、そうとしか考えられないことだった。
先ほどの大通りからも離れて久しい。あの大通りにすら戻れないのだと悟った瞬間、彼は心配性のひなぎくの言葉を思い出した。
――『もしも道に迷ってしまったら、このカフェの名前を出して、道を聞いてください』
(『ひなカフェ』といったか)
彼も表に出て確認したあの建物の名前だ。
――『ありがたいことに、この世界に来てこのカフェのオーナーになって、結構繁盛しているんですよ。だから、この街ではこのカフェを知らない人は少ないと思います』
ひなぎくはそんなことをいっていた。かつて人間たちから“魔王軍最強”と恐れられていた暗黒騎士の面影などあるはずもない。頬を染めた嬉しそうな人間の女の顔で、だ。
(……さすがはデザイア様だ。この世界への潜入工作にあたり“カフェの店長に憧れていた人間”になりきっているのだな)
彼はどこまでもポジティブだ。
ともあれ、このまま歩いていても埒があかない。恥を忍んで、『ひなカフェ』の場所を人間に尋ねなければならないだろう。折良く、立ち尽くす彼の方にやってくる人影がある。
「失礼。少しいいだろうか」
「……?」
それは白を基調とした衣服を身につけた、ゴトー――
――『あなたと共闘することになるとはね、ゴーダーツ!』
「ッ……!?」
視界が明滅する。痛みを伴うほどの衝撃が走った。頭の中に、あるはずのない記憶が流れ込んでくる。
笑う、少女の顔。
ユニコーンの勇者の笑顔。
笑顔を向けられるような関係性ではない。刃を向け、吼え、殺し合った仲だ。
笑顔を向けられる道理がない。
そんな記憶があるはずがない。
――『お願い、死なないで……。ゴーダーツ!』
勇者の泣き顔が浮かぶ。この記憶も、おかしい。
おかしいのだ。
ああ、己は、一体――、
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