第1話 こうしてその世界は救われた

 光の世界、ロイヤリティには四つの王国があった。

 それぞれを「勇気の国」「優しさの国」「情熱の国」「愛の国」といった。

 かつて四つの国はお互いに支え合い、助け合い、すべての人々は幸せに暮らしていた。

 各国の国宝であるエスカッシャンに刻まれた神獣が、そんな人々を慈しむようにあまねく照らしていた。

 しかし、いつしかそれぞれの国の王族がそれぞれの司る心を忘れ、いがみ合うようになった。

「勇気の国」の王族は勇気をなくし、臆病者になった。

「優しさの国」の王族は優しさをなくし、冷血になった。

「情熱の国」の王族は情熱をなくし、無気力になった。

「愛の国」の王族は愛をなくし、何も信じなくなった。

 ロイヤリティの各国を象徴するエスカッシャンから光が消えた。人々は、神獣が国を見捨てたと恐れおののき、ますます心を失っていった。そしてそれと呼応するように、闇が目を覚ました。

 魔王率いる魔族の軍勢が現れ、各国を蹂躙した。いがみ合うことしかできなくなっていた人々に、それに抗う術はなかった。全てのエスカッシャンは奪われ、ロイヤリティは光を失い、闇の世界へと変わり果てた。

 しかし、希望は潰えてはいなかった。残された人々は古い伝承に倣い、四人の勇者を召喚した。希望の世界ホーピッシュから呼び出された勇者たちは、各国の王子、王女とともに魔王討伐の旅に出た。

 勇者たちは苦しい戦いを続けた。王子、王女たちはいがみ合いながらも、少しずつ心を取り戻し、勇気・優しさ・情熱・愛を取り戻していき、勇者たちに神獣の加護をもたらした。やがて勇者一行は魔王城へと至り、激闘の末、魔王軍の幹部たちを撃破し、ついには魔王を討ち果たした。

 ロイヤリティに光が戻った。人々は心を取り戻し、各国は手を取り合い、協力しながら復興への道のりを進み始めた。

 勇者たちは惜しまれつつも、希望の世界ホーピッシュへと帰還するのだった。

 光の世界ロイヤリティには、そう伝わっている。

 これが、救世の物語だ、と。

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