第3修行 形見

「まずは瞑想。基本の修行ならこれだ。」

「はい…」

ゆっくりと目を閉じ、意識を集中させる。

「何でもいい、過去に戦った相手を想像したりして戦うんだ。」

スゥーーー…




『はっ…!?』

いつの間にか意識は自分の心の世界へと送られていた…不思議な感覚だけど、天閣さんの指導のおかげなのかな…?

『美子?何でここにいるの?』

そうか、ここは自分の心の世界だからもう一方の人格である玲子ちゃんが存在するのか…

『天閣さんの指導で瞑想をしたらここに…』

『なるほど…地味にあなたは今凄いことをしているのね。』

『天閣さんから言われたんだけど、何でもいいから過去に戦った相手を想像しろって…』

『過去に戦った相手を想像…か…』

フゥゥゥン……

玲子ちゃんと話している中で、突如前方に人影が写った。人影はどんどん形を成していき…ある妖怪を形作った。

『夜叉…!?』

夜叉は数年前にお兄ちゃんと玲子ちゃんで倒した妖怪…!だが、目の前に現れた夜叉は言葉を発しない。

『あくまでも心の中だから喋らないだけ…なのかしら…』

『きっと天閣さんの言う想像で戦えってこのことを指しているんだ!』

『それなら話は早いわ。』

チャキッ…

玲子ちゃんはすぐさま刀を構えた。

『私もやるよ!』

『私もやるって…いつも戦いの時は私が担当だけど、あなた自身は戦えるの?』

『大丈夫!人格は二つでも体は共有されているから動きとか全部覚えてるよ!』

それに、二つの人格が一緒に戦う経験なんて二度は無いかもしれないからね…

ジャキン!!

『来るよ!』

夜叉は長い薙刀を素早く降り下ろしてくる。

『ふっ!』

『よっと!』

やっぱりあの頃に比べて格段と強くなってるのは実感出来た…!

『避けて玲子ちゃん!』

『分かった!』

『蝶月輪…』

バッ!!カチャン…

『月ノ美兎!!」

バシュッ!!

上空から落下する速度に重さを乗せた兜割りが夜叉の右腕を斬った。夜叉はよろけた後にすぐに体勢を整えようとするが…

『次は私よ。』

戦い慣れている玲子ちゃんがその隙を逃すはずがない。

『蝶月輪…』

スッ…カチャン。

『月花閃。』

目にも止まらぬ速度で月花閃を放ち、まともに食らった夜叉は何も出来ずに倒れた。

『あんまり大したことなかったわ。』

『うん…あの頃はお兄ちゃんと一緒でも苦戦したのに。』

スゥゥゥ……

いきなり光に包まれて私の体が消えはじめている。今日の瞑想が終わったという合図なのかな?

『ごめん玲子ちゃん!先に戻るね!』

『あ、うん…』




「……はっ…」

「最初の瞑想はどうだったかい?」

「えーと何だか分からないですけど…自分の心の世界に行って、もう一方の人格である玲子ちゃんと一緒に妖怪を倒しました…」

事実を言っているつもりなのだが、もはや自分でも何を言ってるのか分からなくなっている…

「それで良いんだ美子。最初はよく分からなくなるかもしれないが、この瞑想で君の心にいる玲子にも修行をつけてあげられるんだよ。」

「それで…「心の世界で戦え」と言ったのですね。」

つまり一石二鳥のことが出来るということ…良く考えられているなぁ…

「よし、今日の修行はこれでおしまい。後はゆっくり休みなさい。」

「分かりました!今日はありがとうございました!」

「うん、ではまた明日。」


ーその夜ー


「よっ、天閣。」

「酒王か、久し振りに顔を見たな。妹は元気かい?」

「相変わらずな。どうだ、俺の紹介した奴は。」

酒王は岩の上に座る天閣の横についた。

「二人とも素晴らしい力の持ち主だ。初日で瞑想も難なくこなしている。」

「アイツらの技量は誰もが認めている…そういや、お前には「前の弟子」がいた気がするんだが…どこ行ったんだ?」

「さぁ…私は何も知らないな。」

「…?」

「私も気になったんだが、あの子達は腰に二本の刀を差しているのに何故二本とも使わない?何か理由があるのか?」

「あぁ、あれか…あれはな、亡くなった兄の形見なんだ。」

「形見…?」

「アイツらには数年前まで兄がいたんだ。だが、その兄は先の戦いで亡くなった…それ以来、アイツらは残った兄の形見の刀を自分達が元より使っている刀に寄り添う形で差している。」

「そうなのか…悪いことを聞いてしまったな…」

「いや、問題ない。アイツらが兄の刀を使うときは自分達に命の危機などの余程のことがあった時だ。」

「なるほど…あの二人は今でも兄を大切に思っているんだな。」

「いつだって変わらないさ。アイツらの気持ちはな。」

酒王は立ち上がって帰ろうとする…

「もう帰るのか。」

「まぁな。妹が待っているし…」

そのまま山を降りようとする酒王を天閣が呼び止めた。

「あぁ酒王、最後に…」

「なんだ?」




「酒、飲み過ぎるなよ。」




「はっ…全く…お前こそ、マシな物食っとけよ。」

続く。

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