第27話
「実は、私が通う学園は近くに実技試験が行われるの。その実技試験にはお金がかかっているから、そこで私のクラスが試験に合格すればお金が手に入る。そしてこれは幸か不幸なのか、私は明日からD級生徒。つまり更にお金の上乗せが期待出来る。どう? これなら問題なんて一つもないわ」
「確かにリーネ様のその案には間違いはありません。が、口を挟めばそれは合格すればの話です。あの学園の実技試験はかなり変わっていると有名なのでいくら元S級であるリーネ様でも確実な勝利ではないかと」
「でもやるしかないじゃない。それに私が今出来る事は糸一つでつながっているこの関係を絶たない事。今はこの長期間契約の話を受け入れてもらわないといけない。だから、ここは好き放題ある事ない事言って何とかしてこの関係を保つ。もしそれが無理ならまたその時にまた考えればいいわ。私クラスになればはったりなんてホイホイと出てくるものよ」
「それを俺の前で堂々と言ってのけるそのメンタルも中々のものだと思うぞ」
しかし、リーネ達がどうしても長期間契約を成立させたい事はハルトにも分かってきた。
たかだか一回きりのクエストで何故ここまで執着してきているのかは理解しきれないが、そのしつこさに心が折れかけているのだ。
そしてなにより、ハルトの後ろで真剣な視線を送っている妹達に屈しそうになっていた。
正直、何故妹達がこの長期間契約に対して乗り気なのかも全く理解出来ていない。
家族の時間が減ることには変わらないのに。
して、背後から感じる妹達の真っ直ぐな視線と前方から受けるリーネ達のすがるような視線。
ハルトは口を真一文字に結び、ハルトが至った答えは。
「分かった。俺はリーネさんと長期間契約を結ぶ」
参ったとはがりに吐いたハルトの言葉に妹達は満面の笑顔に、そしてそれ以上に輝くリーネの飛び切りの笑顔。
しかし、それは一瞬の事で、リーネはまた腕を組んで表情を引き締める。
「そう。いい判断をしたわね。だったら早速――」
「だが、それにいたって何個か条件がある」
「じ、条件? 何よそれ。ま、まさか変な事考えているんじゃないでしょうね? 私の体に何をしたいのよ」
自らそのスタイルのいい体を腕で巻きつけるリーネを無視し、ハルトは話を続けた。
「まず一つ。俺は金が無いと働かない。お金の取り引きが出来なければでその時点でこの契約は破談。付き人と依頼者は本来お金だけの繋がりしかないし、この条件は飲めるよな? 」
「え、ええ。まぁ私が学園で無双すればいいだけだし……と、特に問題のある条件じゃないわね……ええ」
かなり自信なさげな答えだったが、ハルトには関係ない。
本来付き人と依頼者は簡素な関係だ。
これくらいの距離が丁度いい。
「そうか。じゃあもう一つ。俺は他の依頼者の契約も受ける事にした。お金はもちろん大事だが、依頼者の気持ちも大事にしたい。それでもいいか? 」
「……致し方ないわね。じゃあそれで――」
「待て。条件はまだもう一つある。というかこれが一番大切な条件なんだ」
「はぁ……はいはい。何よ。もう何でもきいてあげるわよ」
そう言うと、ハルトは今日一番の真摯な視線をリーネへ向ける。
そのせいかリーネの頬がまたぽっと赤くなった。
「俺はな、妹達がメチャクチャ好きなんだ。愛してるんだ。妹達のいない生活なんて考えられない」
「……はい? 」
リーネの赤くなっていた頬が、自然と肌色を取り戻していく。
そしてその紅潮は妹達に伝染してしまった。
「に、兄さん!? それ今ここで言う事ですか!? といいますか、言っている事は世間的には禁忌に触れるような代物ですからね!? ちゃんと自覚してますか兄さん!? 」
「まぁ、お兄ちゃんはもう私達という可愛い存在にお溺れているからな!! もはや実妹であるのに恋してしまっている事も考えられる!! つまり、今お兄ちゃんが言った事は決して間違いではないかも!! 」
「私的には是非とも間違いであってほしいんですけど!? 」
「ノーシスターノーライフ……そんな言葉もこの世には存在する」
「……そうなのナナセ? 」
「リーネ様……いくらあの者を好いているとはいえ、彼の変な造語でほだされないでください。というか……一体何を言いたいんでしょうかこのロリコンは」
ナナセにしてみればハルトとはこれが初対面であるが、この数分だけである程度の事を理解してしまった。
そして、そんな男に惚れてしまったリーネをここに来て深く心配してしまう。
(恋は盲目と言いますが……これは流石に)
そして何よりリーネのこの恋が果たして成就するのか。
ユキハとルナ。
この二人の妹がいる限り、成し遂げ事は至難であるのではないか。
ナナセか見る先は前途多難である。
「で、ハルト様は何を言いたいのでしょうか? 」
「そんなの妹達が本当に可愛いって事に決まってるだろ」
「兄さん!! 」
「よ、お兄ちゃんかっこいいぞぉー」
ユキハは恥ずかしさのあまり深く頭を垂れており、ルナは既に興味なさそうに腰を下ろしていた。
「こほん。と、まぁ冗談じゃない事は置いといて。俺が言いたいのは出来れば俺は妹達の時間も大切にしたいって事だ。だから依頼に時間の指定を設けたい」
「なら、最初からそう言ってください。このロリコン様」
「時間の指定ね……まぁロリコン過ぎるのは問題だけど、さっきの話を聞いたら断れないわね。分かったわ。それで最後? 」
「ああ。これだけだ」
「じゃあその条件をのんだ上で長期間契約を貴方と結ぶわ」
「了解だ」
というわけで、リーネとハルトの長期間契約が結ばれた。
条件の詳細はおいおい決める事となり、リーネ達は既に暗くなっていた道につま先を向けた。
「じゃあ、私達は帰るわね。また近い内に」
「ああ。気をつけて帰れよ。あ、そうだ」
「何よ?」
「俺はロリコンじゃない。シスコンだ。これからは間違えるな」
「「……」」
そんな感じでハルトは四人の長期間契約を受諾する事にした。
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