第24話
階級確定の初日が無事に終わり、ハルトはカレンと同じ道のりを辿っていく。
特に上位階級が茶化しにくるような事は無く、今日は体に傷一つ付けられてはいない。
これがハルト、そしてカレンが待ち望んでいた平穏。
そしてこうして他の生徒と鉢合わせにならないようささっと学園を退出。
D級の教室が一階にあるからこそ出来るアドバンテージだ。
ハルトとカレンの影が寄り添いながら動くそんな道中。
カレンは指をもぞもぞとさせながら、時折ハルトの事をチラリと見つめている。
ハルトもそんなむず痒い視線に、表情が少し強張ってしまっていた。
「……何か俺の顔に付いてるのか? まぁ俺も二度見してしまうくらいの顔面も持っている自負はしているつもりだけど。……もちろん悪い意味で」
「え!? そ、そんな事ないよ!! ハルトくんはとってもカッコいいから!! だからそんなに悲観しくてもいいよ!! それにこれは私だけにしか分からないシークレットな秘密だから!! 」
「シークレットな秘密ってなに……」
どっちも同じ意味じゃないか、なんてツッコミも今は影を潜める。
なにせ今日のカレン、いや、今のカレンは些か様子がおかしい。
本人は気付いていないのだろうが、何か言いたい事があるのか、先程からカレンの小さな口がパクパクと空気を取り込んでいる。
挙げ句には空気を取り込み過ぎて、この夕日でもカレンの表情が青くなっていくのが分かる。
ゲポッと、小さなゲップを吐いてまた顔色を取り戻す。
この道中、カレンは丸でカメレオンのような色彩変化をしていた。
「あのさハルトくん!! 実は今日大事な話があって!! 聞いてくれる!? 」
「あ、ああ……」
カレンがハルトの前に立ち、グイッと背中を伸ばした。
しかし、途端にまたモゾモゾとして、口籠る。
「まさかとは思うが……告白とかじゃないよな……」
「な!? ち、違うから!! だって告白は男の人からするのがお約束でしょ!! 」
「そ、そうだな? じゃあ何だ大事な話って? 」
「えっと……ハルト君ってお金に困っているから付き人なんて仕事をしているんだよね? 」
「そ、そうだけど」
このどストレートにメンタルを抉る歯も着せない発言はきっと素直さの表れなのだろう。
ハルトも悪気は無い事は百も承知だが、やはり人には静かにしておきたい秘密もあるものだ。
こうして素直に言葉にされれば、無意識に眉間も歪むというもの。
「だよねだよね。だったらさ今からお互いに利益になるような事をしたいなって」
「利益? なんだ。まさか貧困な俺に同情して、お金をお恵もうってか? 」
「うーん……は、半分当たり……かな」
「え……半分当たりなの……冗談のつもりだったんだけど」
ハルトはカレンの考えている事が全く読めていない。
果たして、同情している事が的を得ているのか、はたまた本当にお金をくれてやろうと言うのが正解なのか。
そして、カレンの口からはとある言葉が発せられた。
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「はぁ……今日は妹達との時間を心惜しむ事なく満喫しようとしていたのに」
ハルトは今、街にある飲食店で一人腰をおろしていた。
今日は付き人の業務もなく、今ごろは妹達と激しめのボディタッチをし合っているはずだった。
なのに、どうして今ハルトはこうして付き人の格好で一人コーヒーを手にしているのか。
それはつい先程の出来事。
カレンと別れ、帰路につこうとした時にハルトの前に一人の男が現れた。
ハルトはその男を一目見て、ギョッと眉間を窄ませた。
何故なら、それは前に一度顔をあわしている男だったからだ。
自分の身を保守する為、反射的に返した踵。
ついに来たかと言う危機感で無意識に動いていた足。
しかし、背向かいにはもう一人の男がハルトの行動を読んでいたかのように仁王立ちしていた。
結局、有無を言わさずに連行され、気付けばここで上品な大人の嗜みを経験していた。
言うにサクラがハルトに大切な話があると。
そして、この前の誘拐紛いの前科を消して欲しいなら、サクラの言う事は素直に従えと。
「って言うか何でアイツら俺の事が分かったんだ。アイツらに顔を見られた覚えはないんだけどな」
こうして、妹とは違うゴツい指で前髪をセットされた辺り、その男達はハルトの事情を既に網羅しているという事になる。
制服も一時的に剥奪され、正に付き人としての正装といった外見。
「ふん……という事はサクラにはまだ俺の正体は知られていないという事か……ったく俺の有無も聞かず、容赦なくプライベートを掘り起こして来たくせに、変な所で気を使いやがって」
何処にも当てられないもどかしいさを収めるべく、ハルトは一口とコーヒーを啜る。
そんな時にお目宛の人物が向かいからやってきた。
「どうも」
「お久しぶりですね付き人さん。あの時は色々とありがとうございました」
学園の時とは違う、社交辞令じみた言葉を発してサクラは頭を下げる。
サクラが向かいの椅子に腰を下ろしたのを見て、ハルトは手に握られていたカップを机に置いた。
「ところでどうでしたか? 」
「うん? 俺の近況の事? それなら――」
「いえ、あのボディーガードから受けた罰の事です」
それが可愛い笑顔である事はハルトも認めるが、やはりこのタイプは苦手だと感じる。
なにせ、サクラからは申し訳なさそうな表情が全く見えない。
むしろ、羨望の視線をハルトに向けている。
「何でそんなに前のめりなの」
「気になるので!! 」
「お前、自分が俺に何をさせたのか理解出来ていないのか? 俺はお前の依頼のせいで、あの人気有名アイドルを誘拐、なんていう犯罪を抱えたまま生きていかなかったかもしれないんだぞ? そこんとこはっきり理解しているのか? 人気アイドルさん」
「んー? でも、ああやって私を連れ去っていったのは、正真正銘、付き人さんの意思じゃないですか? 私何か付き人さんに怒られるような事しましたか? 」
「くっ……あれは、お前がか細い声で連れて逃げてくれって言ったからだろ。あの状況を見れば、あの男達がサさんをストーカーする歪んだファンだと思ってしまうだろ」
「私にはそうは見えませんでしたけど……」
「……それ本気で言っているのか」
そりゃあの男達の事を知っていたサにはそう見えないだろう。
真面目な表情で至極当たり前の事を言ってのけるサクラ
(この人気アイドル、恐ろしい……)
「はぁ……まぁいい。んで、悪いが幸いにも俺の体は見ての通り無事だ。サクラさんが気になるような罰は受けていない。まぁ強面の男二人に挟まれて連行される気分はいいもんじゃなかったけど」
「それなら良かったです」
と、また満面の笑みで頷くさく。
果たして何が本心なのか全く分からないハルトであった。
「で、何か話があるんだろ? わざわざ乱暴な送迎をしてくれたんだ。それに似合うような話である事を望む」
「はい。では単刀直入に。実は――」
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