第9話
今日は学園で数少ない合同授業が行われる。
合同授業とは同じ階級の生徒が同じ教室で授業を受ける事を言う。
一年の時にはないらしいのだが、二年になると行われるとの事。
そして今日がハルトにとって初めての合同授業でになる。
ハルトにしてみれば、元からこのやり方ならあのようにいつも傷を負わなくていいのにと、考えてしまう。
「おはよう!! 」
「え? ああ、お、おはよう……ってうわわあぁっ!?」
D級生徒が集まる教室の中。
ハルトはその声で窓の外にあった視線を教室に戻すと、女の子?と思われる生徒がいた。
そしてハルトはいきなり挨拶されたから驚いたわけではない。
ハルトはその声の正体に驚いたのだ。
むしろこれで驚かないほうがおかしい。
「どうしたの?」
「おま……じゃなくて、君こそ大丈夫なんですか? なんで顔が包帯でぐるぐる巻きなの……? 」
「えっとねぇーいやぁ、ちょっと怪我しちゃってえへへ」
虚しい空間に顔面が包帯を覆われている生徒、ここはお化け屋敷かなんかだろうか。
まぁスカートを着衣している事とその高い声を考察すればその正体は明らかに女の子だと分かる。
とは言え、これではこの女子生徒の表情が全く読めない。
えへへと笑って頭をかいているが、果たしてこれは照れてるのだろうか。
「だ、大丈夫なの…すごい痛々しいけど……」
「うん、もちろん大丈夫だよ!! ほら見てよこの元気そうな顔!! 」
何回も言うが女子生徒の顔面には包帯が巻かれているので表情は一切分からない。
でも、今は元気そうな顔をしているらしい。
「そ、そうだねうん……」
あれこれ考えてハルトはある決心をする。
これ以上この女子生徒の事を気にしていたら、きっと疲弊するだけだと。
だから、もうあれこれツッコむのではなく、彼女の言う事全てを肯定で返答しようと決めた。
「ハルトくんだっけ? 私カレン・スカーレット。よろしくね」
「あぁ、よろしく頼むよ……」
何故この女子生徒はハルトの名前を知っているのか。
それはD級生徒がこの学園内では悪い噂となって広がっているからだろう。
因みにハルト自身はの生徒にはこれっぽっちも興味がないので、正直カレンと聞いてもピンと来ていない。
ただ、この教室にいるという事は少なくともこの女子生徒は同じD級の生徒だと言うことは分かった。
「確かハルト君って最近転入してきたんだよね? 何でこの学園を選んだの? 親御さんの事情? それともアバンチュールかな? 」
「い、いやどっちでもないけど……」
「ええっ?! 普通はどっちかだよね? 」
「えっと……一応ここの生徒ってみんな同じ志を持っているから言わなくてもわかると思うんだけど……」
「え? うーん……」
非常に言い難いのだが包帯ぐるぐる巻きな姿で、考えこむのは是非ともやめていただきたい。
その光景はとてもシュールだ。
「んーまあいいや!! とりあえず今日だけはクラスメイトみたいなものだし、これからも一緒に頑張ろう!! 」
「俺、君と一緒に頑張れる自信ないな……」
「ひどい!! せっかく頑張って声かけたのにっ!! うわーん!! 」
「ちょ、ちょっと!?」
ハルトの発言で唐突に泣き出した包帯巻き女子生徒。
これは泣いているのだろうか? いや、泣いているのだろう。
目尻の包帯部分が若干灰色に濁っている。
「冗談だから……お願いだからその顔で泣かないで……何か心臓を狩り取られそうだから……」
「うっ……そうなの? ……ごめんね。私、すぐ真に受けちゃうタイプだから冗談とかわからなくて……」
ハルトもその包帯姿が受けを狙っての冗談なのか分からない。
して、カレンは泣き止むと、何事もなかったように笑顔でハルトに向き直った。
……おそらく笑顔なはずである。
「ハルトくん、将来は冒険者を目指してるの? 」
「そうだね……まぁそれ以外にも理由はあるんだけど……」
ってここにいる理由わかってるじゃん、なんてツッコミがハルトの脳内で行われる。
とは言っても、ハルトがここにいる理由は決して冒険者になりたいからではない。
それは簡潔に言えばお金稼ぎの為である。
この世界の学園の多くでは試験の勝ち負けでお金が移動する。
特に実技試験を勝てば大きな収入が得られる。
しかも対戦相手が格上なら更にお金が上積みされるというシステムで、ここまでハルトがD級を演じていたのはこの為でもある。
聞くところによると数日後にある試験で二年全員の階級が確定するとのことで、ハルトは少なくともその日まではD級を演じると決めている。
「それ以外って……まま、まさか本当にアバンチュールしに来たんじゃ!! 」
「それだけはないよ……」
カレンのクドい思考にハルトは即答で一蹴。
「まぁなんというかあんまり詳しい事は言えないんだけど、そうだね……別に来たくて来た訳じゃないというか……命がかかっていると言うか……」
「命? どういう事? 」
「そのままの意味だよ」
そんな単調な答えに納得いかないのか、カレンは府に落ちない表情を浮かべている……と思われる。
して校内には次の始業チャイムが響いた。
隣の席で腰を降ろしていたカレンは、ハルトに軽く手を振って自分の席へと駆けだした。
あたふたと席に戻るカレンの背中を見て、ハルトには一つの疑問符が浮かぶ。
「……この学園には変な奴しか居ないのかな」
この学園に来てからというものの、ハルトには悪運ばかり降ってきている気がする。
結局は自業自得という言葉で片付けられてしまう訳だけど。
そしてD級生徒だけの午前授業が終わり昼休み。
ハルトは息を深く吐きながら机に突っ伏して、教室を見渡す。
「いるのは俺とカレンだけか……」
ハルトは包帯女基い、カレンの席へ視線を向けた。
しかし、包帯で真っ白な女の子はもうそこにいなかった。
昼休みと言う事を考えると、おそらく食堂か購買にいるのだろう。
ハルトもゆっくりと体を労りながらお昼を過ごす為に、またあの校舎裏を目指す。
購買で適当にパンを一つ買って目的の校舎裏。
久しく訪れた平穏な昼休みにハルトは心から神様に崇拝する。
「あの……」
「うん……? 」
一人手を合わして感謝していると、後ろから申し訳なさそうな声で話しかけられたハルト。
もう昼休みも残り十分を切っている、と言う事は校舎裏というポジションではなくハルト自体に用があると言う事だろうか。
「あれ……リアさん? 」
「ど、どもです……」
ハルトの視界には全身をモゾモゾとしているリアの姿があった。
昨日の事もあって妙に忙しなくなっていくハルト。
「どうしたの……? 何か用……?」
「え、えっと……その……この前は失礼な事を言ってすみませんでした……」
リアが深く頭を下げて謝った。
きっとこの行動がリアなりの進み方なのだろう。
「ん? 何の事? 」
「その……なんか先輩の悪口を言ったり、年下のくせに見下したり……とかですかね……」
「あーね……うん、良いよ別に……それくらい……」
「その……あ、ありがとうございます……」
リアはそう言ってまた深々と頭を下げる。
「もしかして謝る為にわざわざここにきたの? 」
「はい。実は昨日色々とあってですね……なんか自分の行いを思い出していたら先輩の事が浮かんできて。で、いち早く先輩に謝りたくて」
「そっか……ならもういいよ。リアさんの気持ちは伝わった。もうすぐ昼休みも終わるし早く教室に戻ったほうがいいよ」
「はい。では」
リアは軽く頭にを下げてその場から去った。
昨日と比べ、表情は些か明るいくらいだろうか。
あれならもうわざわざハルトが心配する必要はないかもしれない。
「って言うか学園に来て初めて本気で謝られた……」
なんて思いながら続いてハルトも教室へと戻ろうとした時。
「だーかーらーさー焼きそばパンをー買ってこいって言っただろっ!」
「きゃっ!! 」
ハルトにすれば何とも馴染み深いやり取りが校舎裏から聞こえてきた。
この殺伐なやり取りに、人気のない校舎裏ときたら、何が起こっているのかは安易に想像できる。
実際、被害者と同じ経験があるからだ。
「……嫌だな」
助けたい気持ちはある。
だが、もし被害者を庇ってしまえば、矛先がハルトに向いてしまいかねない。
つまりそれはいつも通りの被害者ポジションチェンジルートに入るだけ。
しかし……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます