第7話

「はぁ……まじか」


「うっそ……付き人ってこんなにイケメンなんですね……」


 リーネと来てサクラと来て、もう同じ学園の生徒が付き人を頼んできても驚かない自信があったハルト。

 実際、言った通り驚きはしなかったようだが、今回の依頼主リア見て最初に思っていた事は面倒くさいである。

 リーネの場合は金持ち令嬢なので頑張れたし、サクラは昨日が初対面だったので面倒くさいもクソもない。


 だが、このリアは違う。


 別にお金持ちと言う訳でもないし、ハルトに対しても嫌な印象しか与えていない。

 これでどうモチベーションを上げろと言うのか。

 

「あ、私が依頼主のリアです。見た目は清楚、中身はギャル寄りで生きています。よろしくです」


 綺麗な黒髪がリアの躍動によってキラキラと光っている。

 そして、見た目は清楚と名乗っているからか、その笑顔を比較的抑えられている。


「どうも。あと社交辞令をありがとう。所で君はちゃんとお金持ってるの? 見た感じ学生のようだけど」


「社交辞令? 何の事かわかりませんが、お金なら心配いらないです。今日の為にバイトして一杯貯め込んできたので」


 リアは自分の懐を軽く叩いて、問題ない、と視線を送る。


「それならいいけど……で、リアさんのご依頼は? 」


 ハルトもここに来る前に軽く依頼書に目を通してはいるが、これも確認の為の問いだ。


「はい。実はあの森の奥まで一緒に行ってほしくて」


 リアが指差した場所は門をでて直ぐにあるあの森だ。

 

「森の奥か……確かにあそこに行くなら一人は危険だな……わかった。で、奥に進んでどうするんだ? 」


「そ、それは……」


 リアは頬を赤らめて足元に視線を向けた。

 ハルトがリアと会って初めて、表情が躊躇に出た瞬間である。

 口調等は所謂ギャルだが、表情は本当に大人しい。

 何かリアと言う人物を二人見ているような感じだ。


「と、とりあえず話は足を進ませながら聞こう。森の奥までは結構時間がかかるかなな」


「あ、はい。了解です」


 ハルトはリアの隣に付いて森の奥へ向けて足を動かし始めた。

 

 それから数分間、付き人であるハルトは何もする事なく、道塞ぐモンスターはリアが魔法で蹴散らしていく。

 流石はA級。

 

「ふぅ……もうちょいですかね」


「ああ。あのデカい木を通り過ぎれば直ぐだ」


 少し遠くには一際目立つ大樹が空に向かって伸びているのが見える。

 アレを過ぎれば森の奥が見えてくる。

 そうしてハルト達は再び歩き始める。


「……なぁ、もしかして好きな人でもいるのか? 」


「……え」


 森の奥へ女の子が行きたい理由、あの時リアが頬を赤くしてモジモジしだした理由。

 ハルトのこの質問はそんな色々な思考の元で辿り着いた一つの答えである。


「え、えっと……わ、わかりますか……? 」


「まぁな。俺、付き人だからさ、同じ依頼を一回受けた事がある。その依頼主も年の若い女の子で目的はみんなリリーの花だった。だからリアさんもそうなのかなって」


 ハルトの言う事は間違いではないのだろう、リアが再びモジモジしだしている。

 そしてコクっと首を縦に振った。


「私好きな人がいて、今通ってる学園もその人を追いかけて入学したんです」


「ふーん……」


「その人先輩なんですけど、顔はお兄さんに負けないくらいのイケメンなんです。正直めちゃカッコいいです。他の女子生徒にも人気で。もう完璧です」


「お世辞どうも。でもそれだとライバルが多いんじゃ? 」


「そうですね。でもほら、私って可愛いじゃないですか? だからその人と私ってとてもお似合いだと思うんですよね。正直負ける気がしないです」

  

「あ、そうですか。じゃあリアさんなら叶う恋じゃないですかね」


 なんて返答しているが、内心はかなり面倒くさい。

 このまま話しを続けてもきっとハルトにとっては価値のない話が続くだけだ。

 ここは早く見切りをつけて話を終わらす。

  

 して、目の前にあの大きな木が見えてきた。

 あとはあの奥に進んで、持っていると恋が叶うとか言われているあのリリーの花を採取するだけ。


「じゃあ手分けして探すか……」

 

「え? いいんですか? 貴方って付き人ですよね? こう言う探し物は手伝わないと聞きましたが……」


「んー確かに付き人は依頼主を守る御用人なんだけど、別に手伝わないって訳じゃない。ただ依頼主を守る事に意識を持っていかれるだけ。でもリアさん強いし、それにリリーの花って簡単に見つかるものでもないしな。最悪リアさんだけだと俺も家に帰れなくなっちゃうかもしれないし。そう考えるとこれは俺の為でもあるかな」


「なるほど……その方が付き人さん的にも効率的と言う訳ですか」


「そうそう」


「だったらお願いしてもいいですか? 実は一人で希少種と言われているリリーの花が見つかるのかなぁ、なんて思っていたので、そうしてもらえると助かるんですよね」


「これも依頼だからな。了解だ」


 こうしてハルトとリアは二手に分かれて、純白に輝くリリーの花を探す事になった。

   

 それから数分の時。

 ハルトは汗を流しながらしばらく探しても、リリーの花は見つからない。

 あれだけ白に輝く花なら一目で分かるものなのだが。

 そんな中、ハルトはふとリアの姿を見つける。


「勤しむな……」


 頬や制服に土をつけて一生懸命リリーの花を探している。

 自分は可愛いから負けない、なんて言っていたがリリーの花にあやかっている辺り、やはりそれなりに虚言も混ざっているのかもしれない。

 今のリアの姿を見てそう思ってしまうハルト。


 まぁ容姿も気にせず、全身に土をつけまくっているのだから、どちらにせよリアがどれだけ本気なのかは分かる。


「ふん……意外と可愛いやつだな……」


 ハルトも自然とニンマリしてしまっている。

 そして、その恋が、叶うといいな、なんて思いながらハルトもまた足を動かし始めた。


「あ」


「これだろ? 」


 ハルトは勤しむリアによそよそと近寄って手に持っていたリリーの花を見せる。

 土砂と汗と疲労で表情がヒドく滲んでいたが、リリーの花を見ると表情が一気に明るくなった。

 リアはリリーの花を優しく手で包んで胸元に引き寄せる。


「よかった……」


 安堵のため息がリアの口から吐き出される。


「これで依頼完了だな」


「ありがとうございます」


「いやいや、俺はただ付き人としてリアさんのお願いを聞いてあげただけだ」


 時間はかかったが特に面倒くさいモンスターが現れる事もなく、比較的安易に手に入れる事が出来た。  

 足腰に少し疲労が溜まっているが、付き人、と言う意味では役立たず終わってしまったようである。


「空も暗くなってるし、さっさと森を出るか」


「はい」


 二人は暗い道を辿り、他愛ない話をしている内に無事街に戻る事が出来た。

 リアは頭を下げてから一つの巾着袋をハルトに渡す。

 

「今日はありがとうございました。じゃあこれが今回の報酬金です」 

 

 今ハルトが受け取ったのはリアからの報酬金、数えれば七千ルリーほど。

 ただの採取で七千ルリー稼げたのは儲けだが、これはハルトの好む等価交換ではない。

 ハルトは二枚の金貨を手にとって他のルリーは全部リアに返す。


「え? いいんですか? たった二千ルリーですよ? 」


「ああ。今日の働きだとこれで十分だ。その残りは好きな奴の為にでも使ってやれ」


「おお……付き人なんていう荒くれ業をやっている人なので、ちょっとこの行動には驚きました。まぁ採取も手伝ってくれたのは確かですしでそれは私の偏見だったって事ですかね。でもありがとうございます。貴方良い人ですね」


 リアは返してもらったルリーをふところに戻してまた頭を軽く下げる。


「じゃあ今回の依頼はここで終わりだ。また依頼があったらいくらでも使ってくれ」


「はい。またその時は」


 そしてリアはハルトに背を向けて帰っていった。

 ハルトはリアの背中が見えなくなるまで、そこに突っ伏している。

 

「学園の時はなんだコイツなんて思っていたが……」


 意外と律儀で乙女。

 やはりあのような態度にさせるハルトの方に問題があるのではないかと、思ってしまう。


 ハルトはリアの背中が見えなくなると、踵を返して自分の家へと帰っていった。

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