4:聞いた
あまりご迷惑はかけません、血がもらえるなら食べ物はほとんど食べなくても死なないですし、お家の手伝いもできる限りしますし、他にも俺にできることがあればやるよう努力しますから俺の
……と、顔のいい男が頭を下げて言っており、私は更に何もかもダルくなってきた。
「自分で働いて部屋借りようとかないわけ」
「日光が割と苦手で……あと、あまり不特定多数の人に会いたくないんです。俺の容姿は人を狂わせるらしいので」
「自覚あんのかよ。
日暮れまでにってのは?」
「日が落ちて夜になると、魔物の時間です。その時間は、俺と主の契約がもっとも強く、主に逆らうことが難しいんです。戻れという声を聞いただけでどんなに嫌でも主のもとに戻ってしまうくらい、その契約は強いものです。
逆に、日のあるうちは契約が少しは緩くなるので、昨日の朝、主が出勤した後に逃げ出してきました。日の出から日没までなら別の血を飲んで新しい主と契約することができます。それを防ぐために昼間は監禁されていたんです」
こいつ、殴ったら正常に戻るんだろうか。いや、でも繰り返しになるがこれは私よりも身体のでかい成人男性だ。下手に逆上させるとこちらが危ない。どうやって軟着陸させたらいいんだろうか。
「前の主人の家ってどこ」
男が口にした住所は、うちから車で三時間以上掛かる所だった。
「で、あなたのお名前は?」
「
どんな字を書くかも聞いてから、買い置きの歯ブラシと客用のコップを渡して歯を磨かせているあいだにスマホでググったが、特にニュースも人探しもその名前でヒットするものはなかった。一応、指名手配犯の写真一覧も見た。どの顔も違う。とはいえ、整形してたら分からないか。
食器を洗う。洗面所で元の服に着替えた男――糸遠が出てくる。
「あの、貸してもらったほうの服は」
「洗濯籠に入れといてくれたらいいよ。ところで、誰か連絡取りたい人とかいる?」
「強いて言えば師匠に連絡したい気もしますが、連絡先が分からなくて」
「名前は? 今時ネットでググれば分かるかも」
「いや、また名前変えてるでしょうし、最後に会ったの八十年くらい前ですし……そういえば、あなたは?」
「は」
「あなたのお名前は」
どうも望み薄だな、と内心ため息をつきながら私は、渋々名乗ることにした。
「
るりさん、と糸遠は小さな声で復唱した。
ちょっとだけイラッとする。
私は、自分の名前があんまり好きじゃない。
だから呼ぶなら火室って呼べ、と言おうとした瞬間、けたたましく玄関の呼び鈴が鳴って、私は思わず舌打ちした。
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