罹患

 みんなが哀み、目を瞑るものだから、ばくは「病気持ちである」ことをいちいちその度に認識しなければならなくて、とても辛いことのように思えたのだけれど、それは案外最初のうちだけで、そんなみんなが、今はかえって「病気持ちである」かのように思われてなりません。

 その最初のうちに、ぼくはいったいどうなってしまうのかわからないということに、単純に怯えていて、それで、死と隣り合わせなのではないかと、察していて、けれども、それがかえってぼくの目を覚ましてくれたのです。なぜなら、みんなが、死というものから必死に、一所懸命に、意固地になって、目を背けようとしているのがわかったからです。昔は、ぼくもみんなとおんなじでした。

 きっと、「なんとかして生き抜いてやろう」という、そんな健気なスローガンなのです。


 ぼくは、ようは、その生への巧まざる盲信こそ、最大の病気のように思えて、仕方がないのです。

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