意趣晴らし

 今更だった、もう一年も経っていた。今更意趣晴らしだなんて、相手のほうもなんの警戒もなかったのだ。

「君がどんな思いでこの一年を過ごしてきたのかは、考え及ばないけれど、私はきっとこのときのことばかり考えて、苦しくなったり、涙を流したり、高笑いをしていたのだと思うよ」

 放課後の男子更衣室には、人の寄る気配さえ訪れない。通りかかるのは春風と、小鳥の囀り。小さなこの部屋は、今、幽玄の自然に満ち満ちて、私の目に映り込んでいた。

 ぐったりとして、涙の軌跡も乾いていたのは、彼女を拘束してから二時間もの時が経っていたからだ。擦り傷や痣をいっぱいにつけて、それでも、その目には憤りの光が忍んでいた。だけれども、「どうして、」と疑問が晴れない。

「どうして、君はそんなふうな目が、できるの」

 途端、彼女の光が和らいだように思えた。

「どうしてさ、どうして私が悪人のように思えるの」

 散々、あれだけの、凄惨な、ことをしでかしたというのに、

「君はさ……なんでそんな悲しそうな顔をする、のっ」

 彼女を壁に蹴り飛ばすと、頭を壁に軽く打ち付けて、ついに光は失われた。ぐにゃりと人形のように崩れ落ちた。

「しゃべってもいいよ、もう、殴ったり、蹴ったりしないからさ……」

 そう言うと、おもむろに彼女は口を開き、

「……悲しいから、理屈がどうこうじゃなくって、悲しいから……」

 そうして、目を伏せた。

 私はむなしくなった。そうだよね、と相槌まで打った。

「蛙に爆竹飲ませて破裂するの、面白いもんね。電車で白痴が騒いでいるのはうるさいよね。……じゃあ、」


 ――君をどんなふうにしたとしても、私は面白いんだろうね。


 彼女のブラウスは、横に思い切り引っ張ると造作もなく、ちぎれた。

 







 たとえ、捕まったって、叱られたって、後ろ指をさされたって、このうらみを、晴らせるのならば、なんら憚ることはない。









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