ツワモノ


「どうしてだい」

 訊くと、彼女はたいそう術なげな顔で「どうしても、だよ」とだけ口にして、見上げた月の眩しさに瞼を下ろしたようだった。

「逆にさ、どうしてなの」

 独り言のように囁かれた問いかけが、いやにぴりりと沁みてくる。彼女の気持ちだ。こうしたくて、訊いたわけではないのに、

「私は、君をそんなふうにさせるために訊いたんじゃない。君を救ってあげたいんだよ」

「どうして、ここまでしてくれるの」

「私は昔いじめられていたんだ」

 ちょっとだけ、彼女がこちらを向いて驚いたような気がした。

「それで、本当に学校が辛かったんだけど、ある人が、なんでもないように一緒に居てくれたんだ。私とつるんでバカにされようと、ただ私が立ち直るのを、一心に傍で待ってくれるほどの正義感の強い人だった。だから、頑張って立ち直れたんだ。それだけ、ただそういうことをしてもらったんだから、他の人もそうなって然るべきなんだと思って、ただ、それだけだよ」

「そうなんだ、……そう、だったんだ」

「理由というにも不確かなものなのかもしれない。けどね、どうしても放っておけないんだよ、そんな悲しそうな顔を見せられたら……」

 手をやわらかな頬に宛てがい、こちらに向けると、少しとばかり潤んだ瞳が小さく揺れていた。「ほらやっぱり。悲しい顔をしてるよ」私はハンカチを差し出したが、やさしくのけられた。「ごめん、……ごめん、なさい」「どうして謝るんだよ、ほら、泣かない、泣かないでってば」目を真っ赤に腫らして、化粧まで崩して、それでいて、どうして、

「私ってさあ、やっぱり、」

 いっぱいに、笑顔を浮かべてみせるなんて、

「弱いんだなあって……」

 なんて、強いのだろうか。


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