ツワモノ
「どうしてだい」
訊くと、彼女はたいそう術なげな顔で「どうしても、だよ」とだけ口にして、見上げた月の眩しさに瞼を下ろしたようだった。
「逆にさ、どうしてなの」
独り言のように囁かれた問いかけが、いやにぴりりと沁みてくる。彼女の気持ちだ。こうしたくて、訊いたわけではないのに、
「私は、君をそんなふうにさせるために訊いたんじゃない。君を救ってあげたいんだよ」
「どうして、ここまでしてくれるの」
「私は昔いじめられていたんだ」
ちょっとだけ、彼女がこちらを向いて驚いたような気がした。
「それで、本当に学校が辛かったんだけど、ある人が、なんでもないように一緒に居てくれたんだ。私とつるんでバカにされようと、ただ私が立ち直るのを、一心に傍で待ってくれるほどの正義感の強い人だった。だから、頑張って立ち直れたんだ。それだけ、ただそういうことをしてもらったんだから、他の人もそうなって然るべきなんだと思って、ただ、それだけだよ」
「そうなんだ、……そう、だったんだ」
「理由というにも不確かなものなのかもしれない。けどね、どうしても放っておけないんだよ、そんな悲しそうな顔を見せられたら……」
手をやわらかな頬に宛てがい、こちらに向けると、少しとばかり潤んだ瞳が小さく揺れていた。「ほらやっぱり。悲しい顔をしてるよ」私はハンカチを差し出したが、やさしくのけられた。「ごめん、……ごめん、なさい」「どうして謝るんだよ、ほら、泣かない、泣かないでってば」目を真っ赤に腫らして、化粧まで崩して、それでいて、どうして、
「私ってさあ、やっぱり、」
いっぱいに、笑顔を浮かべてみせるなんて、
「弱いんだなあって……」
なんて、強いのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます