　意気地なし、時代遅れ、面倒くさい、だとかいう否定的な意見も寄せ集めてみれば区々（まちまち）にあるものだと私の稚拙な人生経験から推察されるが、ここでひとつ、下駄箱の上段でおすましをしている一通のラブレターについて話をしたい。

　薄桃色の包みには『先輩へ』という角の取れた黒鉛の文字は小ぶりで、一直線に立ち並んだのが、えらく畏まってみえる。糊付けは弱めで、外装をじっくりと拝見しているうちに剥がれてしまい、そこから一枚の便箋が覗いた。便箋は仄かに黄色みを帯び、甘い香りを立たせるものだから、これを完成させるためにどれだけの時間が費やされたのだろうかと、勝手な妄想に陥るぐらいには関心があった。便箋は四つ折りだった。紙を開いていくのが、やけに大きく響くようだった。

『あなたの秘密を握っています。わたしと付き合ってください。

　メールアドレスは下記参照。』

　冬も、もう終わるという頃であった。