先生より。
「研究と勉強の違いはなんですか」
生化学の授業の終わりに、先生はクラスの前で、私に訊いてきた。
「違い、ですか」
「うんうん、そう。君たちも来年には研究室に配属されるわけだからね。どう思ってるのかなあって」
「そうですね。――研究とはたくさん勉強すること――では、違いになってませんね。はは……ううん……なんでしょう」
クラスは、ほんのりと笑いに包まれた。
先生は、成程、と言ってすぐに他の学生に同じ問いを投げかけた。
「研究は創造でしょうか。勉強は既知のことを学ぶことでしょうか」
「そうだね、その通りです。研究はまだ誰も知らない、未踏の地へと足を踏み入れることです。ですから……」
先生の話は続く。
私は、ただ、すぐに意見できなかったことを「私はそんなつまらない回答をしたくない」と託け、静かに震えていた。
そして、ふと妙だなと思う言葉にまとまって、
「勉強は学ぶこと、研究は学び直すこと……様々な実験や経験からまとめあげられた学問を土台に、次々と想像する……そしてその想像を、創るかたちにもってくる段階で、なんらかの間違いに気づく。そんな覚醒が、私の思う研究であります」
と、ただ散ってゆくのを、私はほくそ笑んだ。
だって、可笑しいだろう。齢四十の研究者と未成年の学生の口にすることが一緒だなんて、辞書に載っているだとか、公式のように頭ごなしに覚えておけば一人前だとか、その程度では、ないか。
ただ、今更であるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます