先生より。 

「研究と勉強の違いはなんですか」

 生化学の授業の終わりに、先生はクラスの前で、私に訊いてきた。

「違い、ですか」

「うんうん、そう。君たちも来年には研究室に配属されるわけだからね。どう思ってるのかなあって」

「そうですね。――研究とはたくさん勉強すること――では、違いになってませんね。はは……ううん……なんでしょう」

 クラスは、ほんのりと笑いに包まれた。

 先生は、成程、と言ってすぐに他の学生に同じ問いを投げかけた。

「研究は創造でしょうか。勉強は既知のことを学ぶことでしょうか」

「そうだね、その通りです。研究はまだ誰も知らない、未踏の地へと足を踏み入れることです。ですから……」

 先生の話は続く。

 私は、ただ、すぐに意見できなかったことを「私はそんなつまらない回答をしたくない」と託け、静かに震えていた。


 そして、ふと妙だなと思う言葉にまとまって、

「勉強は学ぶこと、研究は学び直すこと……様々な実験や経験からまとめあげられた学問を土台に、次々と想像する……そしてその想像を、創るかたちにもってくる段階で、なんらかの間違いに気づく。そんな覚醒が、私の思う研究であります」

 と、ただ散ってゆくのを、私はほくそ笑んだ。

 だって、可笑しいだろう。齢四十の研究者と未成年の学生の口にすることが一緒だなんて、辞書に載っているだとか、公式のように頭ごなしに覚えておけば一人前だとか、その程度では、ないか。

 ただ、今更であるか。

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