第97話 デザート発見

 ネズミのようなウサギのようなモフモフ生物もとい家畜予定騒動に時間を取られたが、対策についてバルトロに丸投げしてしまった。

 なので、予定通り馬車でルドン高原まで行こうとしたのだが……。


「すまん、バルトロ、仕事を頼んでおいて」

「御者のが楽しいし、こっちこそだぜ」


 そうなのだ。馬車で行くと決めたはよいけど、同行者がアルルとセコイアだったので御者がいない。

 他の人に御者を頼もうと思ったのだけど、バルトロが買って出てくれたってわけだ。

 というのは、彼が別れ際にいつもの軽ーい感じで「この後何するんだ? ヨシュア様」とかの話になり、「ルドン高原まで行く」という話を伝えたところ、前述の御者問題に気がついたという……。


「アルル。(御者)できるよ?」

「馬二頭だし、アルルには探知をしてもらわないとだからさ」


 セコイアと並んでちょこんと座ったアルルがこくこくと可愛らしく頷く。


「ボクも御者くらいならできるのじゃ」

「対抗しなくていいから!」


 セコイアは御者くらいと言うが、彼女らなら御者をこなす事ができるってことを俺だって知らないわけじゃあない。

 だけど、どちらにやらせても俺の腰が短時間で痛くなることは確実だ。

 その点、バルトロは乗る人のことを考えて驚くほど穏やかに運転してくれる。

 彼とルンベルクが操る馬車は、別の乗り物に乗っているかのようだ。

 

 そうこうしているうちに馬車が動き出し、周囲の景色が移り変わっていく。


『馬車とはなかなか楽しいものだね』


 座席の上でフリッパーをぱたぱたするペンギンは大喜びの様子。

 俺と違って乗り物大好きなのかもしれない。

 車内はペンギンは俺の隣で、対面にアルルとセコイアが揃って足をブラブラさせている。

 何も知らない人がこの光景を見たら、これから調査に出かけるなんて誰も思わないだろうな。

 っと、ペンギンさんがぐらぐらして倒れそうになってしまった。

 慌てて白いお腹をむぎゅーと手のひらで支えたが、彼は嘴をパカンと開き右のフリッパーを半ばほどで器用に折り曲げる。


『ペンギンさん、気を付けてくれよ。車と違ってとても揺れるんだ。バルトロだからこれくらいで済んでいるけど』

『サスペンションを装着すればより良くなるのではないのかね? 一番は道を舗装することだが』

『サスペンション? あ、なるほどな』


 サスペンションて確か車の振動を軽減するバネみたいなものだったっけ。

 たしか……バネがうにょんうにょんと動くことで揺れを吸収してくれる仕組みだったと思う。

 ふかふかベッドのマットなんかにもバネは使われていて使用用途も広い。


「こら、ちゃんと説明せんか。宗次郎、ヨシュアも。二人だけでいちゃついたら……」

「どうするんだ?」

「拗ねる」

「……あ、うん」


 ぷくーっとフグのように膨れられても、どう反応すりゃいいんだ。

 よし。

 体を乗り出したら馬車の揺れに足をすくわれそうになるが、何とかセコイアの顔に向け手を伸ばす。

 

「撫でてくれるのか……むぎゅう」

「あははは」

「こらああ!」

「頬っぺたが膨らんでたら押してみたくなるだろ」


 ぽかぽかと俺の胸を叩くセコイアだった。

 一方でアルルもセコイアの真似をして頬を膨らます。

 

「アルル?」

「ヨシュア様、楽しそうだった。どうぞ、アルル」

「そうかそうか」


 アルルのサラサラの髪の毛をナデナデする。

 彼女は何て可愛い対応をするのだ。彼女は見た目以上に幼い。だけど、子供っぽい純真な反応には裏が無く、小さい子に抱くような保護欲を掻き立てられるのだ。

 ん? 野生児はほら、見た目と裏腹に中身がアレだから。邪念だらけだもの。

 

「むうう」


 やばい、このままではセコイアアタックを喰らってしまいそうだ。

 こんな時はそう、いつもの手だ。


「サスペンションてのは、車輪に装着するギミックでな。バネというものを使うんだ」

「ほう。バネとは?」

「あれ、ローゼンハイムになかったっけ」

「聞いたことないのお」

「言葉だけだと上手く説明できないんだけど、そうだ。トーレに伝えながら絵を描いてもらおうか」

「絶対じゃぞ。ヨシュアはすぐに忘れるからの」

「わ、忘れたことなんてねえし」

「目が泳いでおるぞ」


 んー。聞こえんなあ。


『バネとは力を加えると形が代わり、離すと元に戻る「弾性」の仕組みを利用した道具と言えばいいのかな』


 見かねたペンギンが助け船を出してくれた。

 何という的確な表現なのだ。これならセコイアにも伝わるはず。

 脳内でペンギンの言葉を翻訳しただろう彼女は顎に手を当てすううっと目を細める。

 こういう仕草や表情を見ると、彼女が子供じゃあないんだなあと思う。

 

「つまり、押して離すと跳ねるのじゃな」

「そんな感じだ。力が加わった車輪が沈み込み、車内の水平を保つんだ」

「力が抜けると自然に戻る、なるほどのお。ベッドに使っても面白そうじゃな」

「おお。もうバネの用途を把握したのか、すごいな」

「ぬふふ。バネではないが、よく似た素材があるのじゃよ。海に住むタコがそれに近い」

「……いやーなものを想像してしまったわ……」


 ぽよんぽよんさせる前に吸盤が張り付いて、そのまま捕食されそうだよ!

 ぽよんぽよんで思い出したがサスペンションに加え、振動を軽減するものと言えばゴムだ。

 こっちはカエルの表皮だったっけ……バルトロたちにカエルを発見したらサンプルをと頼んでいるけど、結果は芳しくない。

 地球と同じように木の樹液からゴムを作成できないかなあ。


 ◇◇◇

 

 そんなこんなで進み始めて一時間近く経過する頃、アルルが窓の外を指さす。

 

「ヨシュア様、変な果物? があるよ」


 窓の外には多肉植物独特の極厚の大きな縦長の葉にこれでもかとたわわに成った色鮮やかというよりどぎついピンクがかった赤色の果実。

 形だけならクリスマスツリーに見えなくもない。


「あれは、ドラゴンフルーツかな」

 

 これだけ特徴的な形と色をしていたらさすがの俺にも予想がつく。

 念のために見てみるかと思い、馬車をとめてもらって色鮮やかな赤色をした果実に対し植物鑑定を使ってみる。

 うん、予想通りだ。


 真っ先に馬車を降りたアルルが別のものに興味を惹かれたようだった。

 

「こっち、面白い形してる!」

「確かに、これはウチワサボテンだって。お、オイルが取れるみたいだぞ」


 アルルが指先でちょんちょんしていたのはウチワサボテンで、名前の通り、うちわが幾重にも並んだようなサボテンだ。

 ペンキで塗ったような緑色をしていて、ドラゴンフルーツと並び原色系植物である。

 

「みんな、せっかくだからここでおやつにでもしようか」


 まだ少し早いけど、せっかくだしここで休憩を挟むことにした。

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